変わりゆく深圳の風景:労働コスト上昇で街を去る製造業大手、小規模工場はハードウェア・スタートアップとの協業で生き残り

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Vast Elecsource の工場内の様子

Mike Lin 氏と彼の父が経営する工場は、中国・深圳の北東部・龍岡にある、コンクリート打ちっ放しの建物のワンフロアを占めている。工場内部では、労働者らが手作業で部品をプリント基板に半田付けし、電子製品を組み立てていた。

(父の)お客は、息の長いコンシューマ製品を売る電子製品企業がほとんど。しかし、私はほぼ maker らと仕事している。(Mike Lin 氏)

28歳の Mike Lin 氏は、〝maker〟と呼ばれる、ハードウェアのスタートアップや趣味人をお客とする製造会社 Vast Elecsource(広豊源電子科技)の COO だ。父とは同じ工場を使いながらもビジネスの中身は別、数百から数千単位で製品を小ロット生産している。1日に何十万個もの製品を生産する、Foxconn(鴻海/富士康)や Flextronics のような電子製造大手とは大きな違いだ。

大工場は極めて効率よくできている。彼らの機械は自動だが、すべてのステップにおいて調整が必要になる。これは我々のような小工場にとっては、ビジネスの機会をもたらしてくれる。(Mike Lin 氏)

寮を備えた大工場から小さなプロトタイピング・ワークショップまである、深圳の多層的な製造業エコシステムにおいて、Vast Elecsource のような小工場は重要な役割を果たしている。それはちょうど、ブティックと卸売業のような違いだ。

大工場は一ヶ所で、数日間で同じデザインの製品を何百万個も作り出すことができる。一方、小工場はより柔軟性に富んでいて、顧客にカスタマイズされたソリューションを提供し、小ロットでの生産にも寛容だ。この小工場の特徴はスタートアップにとって都合よく、工場にとっては生産コストが上昇する中で、増加しつつある収入源になっている。

大工場は、(深圳近郊の)恵州や龍岡に移転しつつある。深圳で経営していくには、コストが高くなり過ぎたからだ。(Mike Lin 氏)

この十年間で、深圳は不動産価格や労働コストの上昇に伴い、製造業から徐々に遠ざかり始めた。中国国家統計局によれば、製造業における中国人労働者の年間給与は、4,650ドル(2010年)から7,727ドル(2014年)へと4年間で66%も上昇した。TCL Corporation や Foxconn のような大手製造企業は、ベトナムやインドの工場設備に投資を始めている。

Vast Elecsource に移転の計画は無い。コストは上昇し続けるものの、同社は、多くは深圳に拠点を置く顧客と密接に仕事を続けている。他の小規模製造業者も深圳に留まり続けている。彼らにとって重要な競争優位性の一つが、顧客と定期的に会い、製品デザインについて、フェイス・トゥ・フェイスの話し合いが持つことだからだ。

我々のクライアントは龍岡にはいないので、龍岡に移転はしなかった。

Jian Yu 氏は、そう語った。彼は、深圳西部の宝安にある、小さなプリント基板組立会社 1942 Tech(壹玖肆贰科技、英語の社名は仮訳)のビジネス開発マネージャーだ。

我々の顧客の多くは R&D をしているだけなので、製造工程については熟知していない。だから、彼らは我々の提言を欲しがる。

Vast Elecsource と同じく、1942 Tech はハードウェア・スタートアップと仕事している。1942 Tech は、顧客1社に対してロット5,000個以下の製品を製造しているそうだ。場合によっては、顧客に対して、一つないし二つの試作品を製造することもあるのだという。大工場では、そのような小規模の注文はコストが割高になってしまう。

(大工場は、発注主の)あなたに対して注意をあまり払わない。注意を払ってくれると確信が持てるような、オーナーと実際に話せる工場を見つけるべきだ。

深圳のハードウェア・アクセラレータ HAX のジェネラルパートナー Benjamin Joffe 氏は、そのように語った。

ユニークかつ非標準的な製品を作るスタートアップにとって、定期的な工場訪問は重要だと Joffe は語る。例えば、HAX から輩出された、個々人の耳の形にあったカスタムフィット・イヤホンを作る Revols や、ニットウェア用 3D プリンタを開発する Kniterate などは、製造工場との緊密なコラボレーションや頻繁な訪問が必要だった。

自分の手で、テストしてみる必要があるからだ。(Joffe 氏)

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プリント基板を確認する、1942 Tech の従業員ら

より小規模でアクセスしやすい工場に対する需要は、Seeed StudioHiggs Hub が提供する、工場とスタートアップのマッチメイキングサービスが人気を呼んでいるように、最近流行っているトレンドだ。正しい製造パートナーを見つけることは、ハードウェア・スタートアップ、とりわけ、世界市場を目指すチームにとっては難しいかもしれない。国際的なマインドセットを持った製造業者を見つけるのが困難なだけでなく、国際的なスタートアップとローカルな製造企業との間の言葉の違いが、障害となり得るからだ。

香港のハードウェア・アクセラレータ Brinc のハードウェア R&D 部門の長 Simon Zhang 氏は、次のように語る。

多くの工場は、事をより速く進め、すべてをすっ飛ばしたがる。それは事実で、彼らは仕事が速い。しかし、それには品質低下という犠牲を伴う。世界市場を目指したいなら、品質を犠牲にしてはいけない。

しかし、Lin 氏のように、父親から工場を受け継いで共同経営を始める若い世代によって、この状況は変わるかもしれない。Zhang 氏によれば、Brinc の提携工場の中には、20代後半から30代前半のオーナーが経営しているところがあるのだという。

前の世代から受け継いだもので、彼らはオーナーとしての能力を持っている。それでいて、彼らはオープンマインドで、欧米のビジネス文化にも接している。極めて重要なことだ。すべては、メンタリティに関わることだから。(Zhang 氏)

依然として、ハードウェア・スタートアップと仕事をする上で、実務面での障害に直面する工場も無いわけではない。Zhang 氏は Brinc の支援しているスタートアップのために工場を訪問すると、IoT ハードウェアの最新鋭かつコンパクトなデザインを作るには不十分な、時代遅れの製造機械しか置いていない古い工場をしばしば見かけるという。

大規模工場が自動化を進め人的労力の必要性やコストを切り詰める中で、その種の時代遅れの工場は、市場から押し出されていくかもしれない。例えば5月には、Foxconn は江蘇省昆山市にある工場で、6万人の労働者をロボットに置き換えることを明らかにした。大手製造企業にとって、労働環境の厳しい工場で昼夜関係なく製品を作り続けるロボットに投資することは、完成までに時間のかかる大量注文を裁く上では理にかなった判断だ。

その一方で、小規模工場は、より多くのスタートアップと仕事をすることで、提供できることの可能性を広げつつある。多岐にわたる製品に小ロット生産で対応するのだ。特筆すべきは、センサーやコネクティッドデバイスが、非常に特化したコンテキストや用途にあわせてデザインされる IoT のロングテール市場に、このような小規模工場が参入できるということだ。

調査会社 IDC によれば、2020年には世界の IoT 消費が1.7兆ドルに上ると予想されている。センサーやデバイス市場の約3分の1に匹敵する巨大市場だ。スマート中敷きや、ユーザの聴力に最適化されたヘッドフォンなど、カスタマイズの進んだハードウェア製品が、メインストリーム市場でヒットすることは決してないものの、深圳の小規模工場にとっては、実のあるビジネスになり得るだろう。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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