
「今日、数字出しますよ」。
ーー2年前、それまでほとんど情報を出してこなかった「FRIL」が初めて具体的な流通額を公開したのが、とある招待制カンファレンスの壇上でのことだった。あまりこういう場所に姿を現さないFablic代表取締役の堀井翔太氏と、福岡の地で出会って驚いたのをよく覚えている。
進化するスマホカメラからすぐに出品できる手軽さ、エスクローというお互いのプライバシーを守りながら取引ができる手法、ファッションに徹底的に特化した戦略。彼らはスマートフォン時代の個人間流通を見事に切り開き、日本で初めて「フリマアプリ」というジャンルを生み出す。

2012年4月に創業したFablicがFRILを公開したのが同年9月。堀井氏の読みは当たり、数字はぐんぐんと伸びていった。当時の私の興味は彼らが流通総額をいつ公開し、更なる成長へ向かってどれほどのアクセルを踏むのか、その一点だったように思う。
しかし話はそうならなかった。
彼らのリリース約1年後、彗星の如く現れたメルカリはダウンロード数、流通総額でFRILを一気に抜き去ることとなる。そして追いかける側に身を転じたFRILは再びの王座奪還を狙い、今年9月に楽天からの資本注入、完全子会社化への道を決断した。
経営者としての力の差

「ここ2カ月ほど資金調達の話を進めていました。メルカリが80億円以上の大型調達をしていましたから少なくとも50億円は集めないと、とは考えていました。ただそうなると自然と連結対象になるような株式比率を渡す可能性も出てくるだろうなと」(堀井氏)。
FRILは冒頭にも書いた通り、サービス公開当初はほとんどメディア露出しない「ステルス」戦略を選択した。何よりも自分たちが始めたジャンルということもあって、ベンチマークとするサービスがない。堀井氏は「とにかくユーザーを第一に考える」ことを重視し、後発のメルカリがどれだけ大きく調達して広告先行の戦略でやってきたとしても、それに追従する考え方にはならなかった。当時の彼にとって資金調達合戦は不毛に見えたのかもしれない。
経営者としての力の差があったーー堀井氏は素直にそう振り返る。

結果、ダウンロード数は現時点でFRILが国内550万件(堀井氏)に対して、メルカリは国内3000万件(グローバルを合わせると4200万件)と大きく水を開けられる結果となってしまった。また現在までに公開されている流通額はメルカリが月間100億円に対してFRILは非公開のままだ。堀井氏も一部報道で今後、合流する楽天のフリマアプリ「ラクマ」と合算して月間30億円を目指す、という情報については認めつつも、FRIL単体での情報は公開しない。
2年前にFRILが5億円と月間流通額を公開した際、メルカリの数字は10億円だった。つまり、メルカリは2年でその数字を10倍に伸ばしたことになる。堀井氏にその半分、つまり5倍ぐらいの成長に留まったのでは?と尋ねてみたが、表情からは何も読み取れなかった。ただ、2年前に比較して成長していることについては間違いないと答えてくれている。
楽天と作る「スマホ時代のコマース」ビジネス
では、堀井氏はどうやって強大な敵から王座を奪還するのだろうか?
「資本的な後ろ盾を得たので、年内にも手数料無料化やCMでの展開を開始します。楽天のラクマとFRILでは売れているカテゴリも違いますので、それぞれの強いところをまず伸ばしていくということになりますね」(堀井氏)。
堀井氏に以前のような迷いはなく、強大な楽天資本を背景に少し出遅れた「身体を大きくする」作業を改めて実施、グループとして「早々に3桁億円」の月間流通総額獲得を目指す。また、楽天グループであればポイントや楽天市場といったアセットが大量に存在しているので、検討はこれからとしつつも、FRILのグロースに繋がるものは全て活用する、ということだった。

更に気になるのがその個人間売買の先にあるビジネス、つまり決済や課金などの金融ビジネスだ。これまでも楽天は市場に始まり、銀行、カードとそのビジネス領域を金融に拡大させてきた。堀井氏も「フリマアプリのプロダクトとしての使い勝手の差はもうない。どこに買い手・売り手がいるかというだけのコモディティ化した市場になってしまった」と語るように、ビジネスの勝敗の行方はその次に向かいつつある。
彼らが楽天をパートナーに選んだ理由もここにある。
実は彼らはもう新たなプロダクトを準備している。このお披露目は年内か、もう少し先なのかわからないが、それが世に出た時は間違いなく「フリマアプリ戦争」は新たな局面に入ることになるだろう。
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