モバイルアプリが増えすぎた現代、次に来るのは「ミニアプリ」

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本稿は、テック起業家であり各地を旅する Sean Konieczny 氏による寄稿だ。

旅をした距離が EQ レベルや意思決定の質にダイレクトに影響すると彼は信じている。

アジア滞在中は北京に腰を据え、ユーザのヘルスデータに合った高精度のヘルスケアサービスを提供するため、デジタルヘルスデータ会社を共同設立。

彼とコンタクトを取りたい方は [email protected]まで。


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「There’s an App for that.(そのためのアプリがある)」とは2009年に Apple が商標登録したキャッチコピーだ。ちょうどモバイルソフト市場の売上が爆発的に伸びた時期で、まるでヴェスヴィオ火山の噴火でポンペイに灰が降り注いだ時のように、デベロッパーには大金が投じられた。デベロッパーが利益に埋もれたこの時期は、競合に蹴落とされる心配もないためリスクやミスを恐れず自由に新しいものに挑戦していくことができた。競合などいなかったからだ。

2009年初め、使いたいアプリを決めるのは簡単だった。その頃はアプリも1万点ほどしかなかったからだ。近場のレストランを探したければ Urban Spoon が最適で、レビューを見るなら Yelp だった。飛行機の予約やフライト追跡をしたい場合は Flights を使えばよかった。自分が摂取したカロリーを知りたければ Lose It を、友人にメッセージを送る時には AIM が使いやすった。ああ、しかしそれも今は昔のことだ。

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アプリの流通数

現在、世界には200万を超えるアプリが存在している。友達にメッセージを送ろうという場合にはいろいろなことを考慮しなければならない。相手の暮らす国や自分のいる国、メッセージを送る媒体や VPN を使用するか否か、その日夕食をとる場所、誰がディナーの支払いをするか、後でガールフレンドがメッセージをチェックするか、そしてもちろんラブラブなデートを楽しむためにどんな絵文字やスタンプを使いたいか、などといったことだ。選択肢は幅広く、WeChat(微信)、Whatsapp、KakaoTalk、LINE、Messenger、Snap、Slack、Allo、Messages、Rawr、Kik、Tango、TanTan、Tinder、Tawkers、Voxer の他、ほとんどの人が聞いたこともないようなアプリが山ほどある。

※要するに、市場が飽和状態だというだけでなく、競合やコピーキャット、イノベーターやニッチなアイデアであふれておりアクティブユーザが拡散してしまっているため、新規参入者が今までにないものを見つけようとしてもそれが不可能に近くなってしまっているということだ。

多くのユーザが大手企業のプラットフォームを利用しているため、スタートアップのチャンスが失われている。ユーザ獲得には多くの費用がかさみ、コミュニティの必要性は極めて重要なためリテンションはほぼ不可能だ。ではどのようにしたら成功するのか?「倒せない相手なら、手を組めばよい。」

New York Times では Jonah Kessel 氏と Paul Mozur 氏による人気の動画配信テックフォーラムがあった。動画のタイトルは「中国があなたのインターネットをどのように変えているのか」というもの。インターネットの将来を考えた時に中国がいかに時代の先をいっているか、という内容だ。主に WeChat が題材となり、いかにしてユーザがアプリ内にとどまりながらあらゆる機能を利用できるか、ということが描かれている。例えば、1. 飼い犬のコーギーの入浴、2. 友達とシェアする、3. 清掃サービスに支払いをする、4. 友達とチャットする、5. 食べ物を注文する、6. タクシーを呼ぶ、などだ。おわかりいただけただろうか。忘れてはいけないのは、WeChat は元々メッセージアプリだが、アプリ業界が劇的に変化していく中で同社は自身を新しいものへと進化・変形させてきている。多くの人は WeChat をプラットフォームと呼び、中にはオペレーティングシステムと呼ぶ者もいる。

多くの場合、WeChat は「新ホーム画面」のような存在となっている。ユーザが携帯電話のロックを解除するとすぐに立ち上がるのがこの画面だ。意識的にか無意識的にかはわからないが WeChat は(中国国内の)ユーザにとって、自分の時間の大部分を費やすものになっている。ユーザループはシームレスなモメンタムとドーパミンであふれている。これはなかなか太刀打ちできない WeChat 中毒である。

WeChat がユーザにとってこのような悪習となる中、他の企業も意識を高めてきている。例えば Apple は最近 iOS10 をアップデートした際、ネイティブメッセージアプリには自身の「ミニアプリ」ストアがついており、機能性やサービスが内蔵されたエコシステムによる多様な体験ができるようになっている。Facebook のメッセージアプリも同様に、コマースとカスタマーサポートが機能的に統合されたものとなった。

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小規模企業やスタートアップは、個別のアプリを構築するよりも、WeChat のような現存の超大手プラットフォーム向けに新しい「ミニアプリ」や「オフィシャルアカウント」を開発するという、自分たちにとって都合の良いビジネスモデルを採用している。アクイジションからコンバージョンまでのユーザループ全体をこのメッセージアプリ内で済ませることができ、結果的には「スーパーアプリ」と「ミニアプリ」の双方が得をする「Win-Win」の状態になる。

新規参入企業はユーザに見つけてもらいやすくなり、また無限のコミュニティを得てすぐに活用することができる。彼らは希望通りのユーザを取り込み利益を得ることができる。また同時に「スーパーアプリ」側もユーザエンゲージメントやリテンションが拡大することや、場合によっては分配収益によって利益を得ることができる。全員が安心でき、プラットフォームは次なる高みへと進むことができる。間違いなく、これが未来だ。

WeChat は過去2年にわたってひそかにこのビジネスモデルを導入しているが、中にはこれが偶然の産物だったという者もいるかもしれない。どちらにしても、彼らによってトレンドが生み出され、Apple や Google、Facebook といった企業が皆この考え方に賛同していこうとしている。もちろん、会話形式のエンゲージメントはメッセージプラットフォームを利用すれば簡単に行えるが、この「アプリ内アプリ」や「スーパーアプリ」のビジネスモデルは他のプラットフォームにも応用できるのだろうか?

このビジネスモデルを実行するためには二つの要素が必要だ。ユーザとアクティブコミュニティだ。現存するプラットフォーム内でアクティブコミュニティの参加人数が多いということは、「ミニアプリ」が付加価値サービスを提供することでユーザとエンゲージしてコンバージョン率を高める機会が多くあるということだ。プラットフォームの規模はコンバージョンのポテンシャルに直接関連している。ここで成功を定義するのであれば、それはユーザエンゲージメントとコンバージョンの拡大が「スーパーアプリ」と「ミニアプリ」双方にとっての最終目的である。

この方程式が実証されれば、エンゲージメントとコンバージョンに苦しむ大企業がこのビジネスモデルを導入しても納得がいくだろう。Keep や MyFitnessPal、FitTime や BabyTree のようなヘルス系アプリは「ミニアプリ」を自身のプラットフォームに組み込み、パーソナライズされたヘルスサービスを提供することでユーザのコンバージョンを上げることができる。Meitu、Instagram、Prisma、Sketch といったクリエィティブ系アプリが「ミニアプリ」を活用すれば、幅広いフィルターやブラシ、エフェクト、その他の付加サービスを提供してより多くのユーザコンバージョンを飽和状態で収益性の低いプラットフォームで上げることができる。Taobao(淘宝)や JD(京東商城)、Amazon、Tmall(天猫)などの e コマースアプリでも「ミニアプリ」を統合することでレビューサービスや比較モデル、バーチャル商品のテスト、そして試着機能を利用することが可能だ。

可能性に終わりはなく、今やイノベーション競争になっている。「そのためのアプリがある」時代は遠い過去だ。サービスのためにアプリを開発するという従来型の知恵は覆された。モバイルソフト次世代へようこそ。「ミニアプリ」の到来だ。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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