量産設計・プロトタイピングの識者と考える、スタートアップのものづくり〜第7回Monozukuri Hub Meetupから【ゲスト寄稿】

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Sabrina Sasaki 氏

本稿は、「Monozukuri Hub Meetup」を主宰する Makers Boot Camp でマーケティングを担当する Sabrina Sasaki 氏とボランティアの照山貴子氏による寄稿を翻訳したものである。オリジナルはこちら

Makers Boot Camp は京都を拠点とするハードウェアに特化したスタートアップアクセラレータである。

本稿における写真は、写真家の逢坂憲吾氏による撮影。


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Makers Boot Camp の月例イベント「Monozukuri Hub Meet up」の7回目が10月16日(水)MTRL 京都で開催された。今回の題目は「スタートアップのための量産化設計」だ。

Makers Boot Camp のマーケティング担当 Sabrina Sasaki はイベントの冒頭、量産化設計について簡単な紹介をした。彼女は、コンセプト作りに始まり、スタートアップがたどり着こうとする小売販売まで、製造プロセスの各ステージについて紐解き、Over Wall Manufacturing(一つのステージを終えてから、次のステージへ進む方法)という従来の製造方法について説明した。この方法では、各ステージの専門家は分かれて仕事しているため、どんなに素晴らしいプロダクトのアイデアを思いついても、次のステージに進むには、各プロセスに対応できる適任者を探し出す必要があり効率的でなく時間がかかってしまう。

文字通りステージとステージの間には壁が存在し、その各ステージの専門家の間には直接的な関係も生まれない。資金面でも人材面でも、リソースに限りのあるスタートアップにとって、これらの壁は妨げにになる。スタートアップは常に一から始めなければならないが、彼らは限られたリソースを最大限に生かすために、これらの壁をどのようにすれば乗り越えられるだろうか? そして、状況が難しい場合でも、一定の成果を得るまで、どうすればプロトタイピングを続けるられるだろうか? パリと京都をつなぎ、フランスのプロトタイピングの専門家チームとゲストスピーカーが、maker たちに洞察を共有してくれた。

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プレンプロジェクト CEO 赤澤夏郎氏

最初のスピーカーは、二足歩行ロボット「PLEN」を開発するプレンプロジェクトの CEO 赤澤夏郎氏だった。同社の「PLEN2」は、オープンソースで印刷可能なロボットとして、Kickstarter でクラウドファンディングを実施した。PLEN2 では、同社の 3D オープンソースデータを参照することで、世界中の誰もが自分のロボットを作ることができる。同社のビジネスモデルに話を移すと、PLEN2 はオープンソースであるため売上を生み出さないが、公開データを使ってロボットを組み立てた人々は、そのロボットを SNS でシェアしてくれるので、広告よりも効果的に認知を広めることができる。

お金を得ることはできないが、プレンプロジェクトは、ヒューマノイドの共創プラットフォームになることができた。そして最後に、赤沢氏は、中国の EMS(受託製造企業)である Goertek(歌尔)との合弁で昨年設立した新会社 PLENGoer Robotics について紹介した。プレンプロジェクトと Goertek は共同で、来年1月にお目見えする予定の新しいロボットを開発中だ。小さな町工場に生まれた赤澤氏だが、彼は今、これまでに経験したことがないほど大きな製造規模を擁する、巨大な国際プロジェクトに参加している。

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La French Tech Tokyo の Jean-Dominique Francois 氏

2番目のスピーカーを務めた La French Tech TokyoJean-Dominique Francois 氏は、フランス政府が設立した特別な機関について説明した。彼は、フランスと日本のスタートアップの橋渡しをすべく仕事している。我々は皆、その食べ物・ワイン・チーズ・美術でフランスのことが好きだが、Pepper にラテンダンスの動きを与えるソフトウェアのデベロッパに代表されるように、非常に評価の高い IoT のスタートアップが生まれる国でもある。

ヨーロッパと(日本を中心とする)アジアでの20年に及ぶ国際ビジネス開発の経験を通じて、Francois 氏はスタートアップやスタートアップ・エコシステムに関する、包括的な理解を深めることができた。ここ数年は、フランスの経済外交を担うメンバーの一人として、日本市場において、フランスのハイテクスタートアップや中小企業の発展を支援している。

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ダッソー・システムズ 田中昭彦氏

ダッソー・システムズのアカデミックプログラムのディレクターを務める田中昭彦氏は、よりよいプロジェクト管理に求められる、CAD システムやシステム管理ツールに関連した、同社の 3D Experience Lab でインキュベーション中のスタートアップについて話をした。これらはすべてクラウド上で動くサービスだ。トヨタやホンダなどが、スタートアップも利用できるこのプラットフォームを既に利用している。クライアントからもたらされる素晴らしい話とともに、バーチャルワールドを使って実現できる未来を想像してみよう。

同社のスタートアップ・インキュベーション・プロジェクトには、世界中からスタートアップが集められている。スタートアップは、都市、生活、ライフスタイル、IoT、アイディエーション、FabLabs の6つのカテゴリに応募することができる。選考にあたっての条件は、コラボレイティブ(共創的)か、プロダクトやサービスに破壊的なイノベーションがあるか、社会にとってポジティブなインパクトが与えられるかだ。

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crossEffect の Benjamin Davoult 氏

休憩の後、パネルディスカッションに先立ち、量産化設計の専門家らが、自らの会社や作品を紹介する機会を得た。

最初のパネリストは crossEffect のプロジェクトマネージャー Benjamin Davoult 氏で、彼は自らをフランス人ナードだとして紹介した。彼は工業デザインの修士課程を終えた後、crossEffect に就職して来日した。彼のプロダクトデザイナーとしての仕事には、真空成形やプロトタイプ・トライアルモデルを作るクリエイターのための、シリコーン型デザイナーなども含まれる。

彼は、ラピッドプロトタイピングの手順について説明した。クライアントから 3D データを受け取り、新たなプロジェクト要望に基づいて、デザインの詳細をチェックし、それが物理的に作成可能であることを確認する。そして、3D プリンターや、液体樹脂の中に入れた金属プレートをレーザで軟化させるステレオリソグラフという巨大なデーザーマシンを使い、レーザを当て物体の新しい層を作ることを繰り返す。このプロセスは一晩(8〜10時間)かかるので、チームがモデルの作成にかかれるのは次の日からだ。3D モデルがクライアントから提供されることもあるが、いずれにせよ、マスターモデルを仕上げる必要がある。次に取り掛かるのは、シリコーンを内部に入れた型決め、そこから1日おいて、マスターモデルに樹脂を入れて行う真空成形の準備が整う。最終工程のために、ペインティングルームで真空成形機を開けると、プロトタイプは量産製品とほぼ同じ見栄えにまで仕上がっている。プロトタイプと量産製品を並べてみれば、どちらがプロトタイプかわからないだろう。

crossEffect は工業デザインを専門とする新しい部門を立ち上げており、その事業アイデアは、コンセプトづくりから 3D モデリング、3D プリンティング、真空成形へと広がりを見せている。

crossEffect のチームは、いかなるプロジェクトもコンセプトや手で描いた絵、プリント基盤のハードウェアからスタートすることができる。スピードが売りなので、一週間で多くの提案を出すことができる。提供する領域によって価格は異なるが、複数のサービスを提供することが可能だ。

彼はパナソニック、ローム、三洋電機、オムロンのようなブランド向けに crossEffect が最近作成した IoT 製品を見せてくれた。

Davoult 氏は、ものづくり、なかでも役に立つ新しい発明が好きで、家にいる間も 3D プリンタを使って、あらゆるデバイスやマシンを作ることに余暇の時間を充てている。

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最上インクスの Emery Delmotte 氏

1950年創業の最上インクスで販売スペシャリストを務める Emery Delmotte 氏はフランス生まれだ。彼は最上インクスで海外販売を担当し、同社のビジネス展開を支援してきた。現在、同社の主要顧客は、京セラ、オムロン、村田製作所、富士通、デンソー、日本電産などの日本の大企業で、薄い金属板やプラスチック樹脂からプロトタイプを作成、プレス加工・曲げ・切断・ダイセット作成などのサービスを提供している。

最上インクスの生産スピードは小さい物体に特化しており、誤差は0.03㎜で、大きさ2mm²以下の大きさ・薄さ0.05㎜のプロトタイプを作成することができる。生産に必要な時間は7日間。量産が同社売上の約45%を占めるのに対し、プロトタイプ作成は売上の46%、その他の売上を成型や引き伸ばし作業が占める。月に400以上のプロジェクトを扱っており、依頼を受ける分野も、医療製品、自動車、車載リレーやコネクター、工業製品、通信モジュール、電子部品、スイッチ、バッテリー、燃料電池、放熱器までさまざまだ。

最上インクスは京都試作ネットと協力して、開発からプロトタイピング、量産、迅速な商品の具現化、量産体制へのスムーズな移行、早期の市場投入、追加修正などを完璧なサポートを提供している。

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HILLTOP の Antoine Andrieu 氏

Antoine Andrieu 氏は、HILLTOP の開発部門で働いている。

Andrieu 氏が HILLTOP を紹介するにあたって見せてくれた工場内の写真には、作業者があまり多くは映っていなかった。新しくカスタマイズしたソフトウェアで、マシン制御の自動化に着手したからだ。Andrieu 氏は、HILLTOP でスマート工場プロジェクトのリーダーを務めており、IoT ・インダストリー4.0のコンセプトや技術を活用して、同社をファースト・プロトタイピングの新しい時代に対応させようとしている。

Andrieu 氏のチームワークは自動化に注力しており、同社には現在、IoT デバイスと家電製品の流行が訪れている。Andrieu 氏は、テストデバイス、自転車の安全灯、アロマディフューザー、運送ロボットなど、アイデア出しから顧客向けの開発ステップまで、彼の開発チームが社内で作成した B2B ソリューションの事例をいくつか見せてくれた。

HILLTOP は IoT 向けに、プロトタイピング、メカニカルデザイン、組立、量産までのサービスを提供している。

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これら専門家を交えた最後のセッションでは、京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab 特任准教授 Sushi Suzuki(鈴木篤史)氏がモデレーターを務めた。Suzuki 氏とパリとのつながりは、彼がフランス国立土木学校(École des Ponts ParisTech)Paris Est d.school を共同設立し、デザインイノベーションを教えていたことにさかのぼる。

パネルディスカッションでは、maker が抱える問題や、Makers Boot Camp の主な活動でもあるハードウェアスタートアップの支援を、京都試作ネットのメンバーをどのように実現できるかが議論された。

すべてのスピーカーのプレゼンテーション・デッキや詳細な情報は、ここから参照することができる。

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