「プロのクオリティが最終的に市場を取る」ーー 10億円を調達した Candee がスマホ時代に目指す「テレビモデル」の再発明とは

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写真左:Candee 取締役会長に就任した國光宏尚氏と経営陣

LINE LIVEの「アツシメーカー」や「WANTED~キンコン西野逃走中~」「さしめし」など、スマートフォン向けに話題の動画タイトルを制作しているコンテンツメーカー Candee については気になっている業界関係者も多いのではないだろうか?

同社は12月21日、10億円規模の資金調達を発表した。今回の調達ラウンドで第三者割当増資の引受先となったのは YJ キャピタルと TBSイノベーション・パートナーズ、そして gumi の三社で同時に経営体制を一新。創業期の執行役だった古岸和樹氏が代表取締役、新井拓郎氏が代表取締役副社長、山村嘉克氏が取締役へ就任している。

また、今回リード・インベスターとして参加した YJキャピタル取締役副社長、戸祭陽介氏が社外取締役に就任する他、創業期に支援していたグリーベンチャーズの堤達生氏も同じく社外取締役に、そして gumi 代表取締役でこちらも創業に関わった國光宏尚氏が取締役会長に就任する。ちなみに創業やファンドレイズについての経緯は「非公開」ということだった。

創業1年、1000万人以上が視聴する「Candee 的コンテンツ」とは

「Candee が目指すのはテレビという構造の再発明。コンテンツにタレントマネジメント、そして広告の全てを新しい時代に合わせて作り直す」(國光氏)。

ーー彼らのポジショニングは分かりやすいようで少し頭を柔らかくして考える必要がある。まず、2015年以降、各種ソーシャルを中心に「スマートデバイス」「動画」というキーワードが踊ったことはテクノロジー業界に携わる人であればよくご存知のはずだ。

YouTuber という言葉を広く知らしめた国内 MCN の先駆け UUUM(2013年6月)、分散型動画コンテンツのエブリー(2015年8月)、スマホ時代の縦型動画フォーマットを牽引したC Channel(2015年4月)、テレビ同様の「ながら見」を提案するインターネットテレビ局 Abema TV(2015年4月)など、関連するプレーヤーの勃興は、スマホ通信インフラやプラットフォーム側の動画配信環境の整備と共に勢いを増している感がある。(カッコ内は設立時期)

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Candee 代表取締役の古岸和樹氏

Candee ももちろんこの戦国時代に旗揚げした一国だ。

ただ私も当初、冒頭にあるようなタレントを使った「テレビ番組的な」コンテンツを作って分散的にプラットフォームに配信する制作会社なのかなと思っていたのだが、どうも様子が違うらしい。確かに同じく料理に特化した動画制作を手がける dely が5億円、先述のエブリーは6.6億円の資金調達に成功しており、こういった動画コンテンツ制作事業に一定の高評価があることは理解できるが、Candee はその倍近くの資金を集めている。

それぞれの評価額は不明なので調達した資金だけで企業価値を考えるのは拙速だが、それでもここに集まったベテランたちが動画コンテンツ制作のチキンレースに参加したとは考えにくい。

彼らはこのスマホ動画戦国時代のどこに居場所を求めたのだろうか?

まず、Candee の取材で何度も感じたのが「プロのクオリティ」への絶対的な自信だ。実際、冒頭で挙げたLINE LIVE で配信中の「アツシメーカー」では、累計視聴数1,060万超、リアクションとなるハート数860万(過去18回配信)、「WANTED~キンコン西野逃走中~」では視聴数84万人、ハート数241万(過去2回配信)を記録しており、初期のトラクションとしては十分な数字が取れている。

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Candee 代表取締役副社長(CCO)新井拓郎氏

同社でコンテンツ関連の責任者 CCO を務める新井氏は、エイベックス・グループにて企画制作に携わり、BeeTV や dビデオ、UULA などに関わった人物だ。彼は次に求められるスマホ時代のコンテンツをこのように分析している。

「ソーシャルゲームにおいては、当初コンシューマーゲームの移植ものが登場し、その後、個人の人たちがスマホのために開発したものが人気になりましたが、最終的にはプロがスマホのために開発したクオリティの高いゲームが勝ち残っています。動画においても、スマホならではのプロクオリティコンテンツが最終的にはマーケットを取るコンテンツになると考えています。一方、現状ではそのようなコンテンツを制作し続けているプレーヤーは見当たりません」(新井氏)。

確かに今、スマホで消費できるコンテンツの多くはテレビの流用フォーマットか「作ってみた」系の素人コンテンツがほとんどだ。縦型動画や360°コンテンツのようにデバイスフォーマットによる新機軸はあるものの「コンテンツの企画」に手を入れているものは多くない。

「(YouTuber マネジメントの MCNは)個人の発信活動を応援するだけで広告案件がきたらサポートするような仕組みです。Candee はコンテンツを作るところからプロが介在することで、今までできなかったことができるようになるんです」(新井氏)。

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Image Credit : LINE LIVE アツシメーカーより

例えば彼らの手がける「アツシメーカー」は出演する田村淳さんがゲームのようにミッションを決めて、それを達成するまで街を散策していくRPG風コンテンツをユーザーと一緒に共有体験することができる番組だ。こういうゲーム性やインタラクティブ性といった、スマホ時代だからこそ可能になったインディー的なアイデアをひとつひとつフォーマット化し、更にプロの手で高品質に完成させる。

これが彼らの狙う、スマホ時代に最適化された素人コンテンツとは異なる、「Candee 的」コンテンツの考え方なのだ。

「テレビモデル」の再発明

では、彼らはどのようなビジネスアプローチを考えているのだろうか?

まずポイントになるのは自社の動画配信プラットフォームを持つかどうか、という点なのだが、これについては今回の調達資金の使途として明確な方向性が決まっている。新井氏はこのように回答してくれた。

「事業の推進速度を早めるために、コンテンツ制作人材、所属タレントのマネージメント人材、広告営業人材のほか、これまでの制作ノウハウをもとにした自社プラットフォームの開発を進めており、この自社プラットフォーム関連人材などのへの投資を実施します。このプラットフォームについては、来年の春までにはベータ版としてリリースを実施し、よりインタラクティブにコンテンツを楽しめるような機能開発に積極的に投資していく予定です」(新井氏)。

新井氏によれば、プロコンテンツだから可能となる各種プラットフォームの広告に依存しない一社協賛モデルや、視聴ユーザーの拡大に応じて可能となるプレロール・ミッドロール広告(差し込みCM)、自社プラットフォームが成長した際に可能となるコンテンツ課金やパフォーマンス広告などの可能性を考えていると話していた。

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一方で、それだけだとややスケール感が小さい。ここにひとつヒントを与えてくれるのが Candee が持つ三つの関連会社だ。サイトに Group として掲載されている三社はそれぞれコンテンツ制作、ガールズマネジメント、動画体験プロデュースを提供する、となっている。同社がリリースで公表している通り、Candee のビジネスは動画コンテンツを制作・配信するだけにとどまっていない。また、冒頭の國光氏のコメントにある通り、テレビ業界を非常に意識した構成を考えている。

テレビ局的な自社の配信プラットフォームを中心に、制作会社とタレントマネジメント事務所、広告代理店が機能として垂直統合されているイメージだろうか。

現段階であまり大風呂敷を広げすぎても絵に描いたモチにしかならないが、彼らが目指す先、ビジョンはやはりモバイルインターネット時代のテレビ局なのだろう。当然、投資サイドも Candee のプラットフォーム化とその先に期待を寄せている。

「テレビの視聴時間がスマホに流れるなか、番組はよりスマホに寄っていくと考えています。一方、UGC(筆者補足:ユーザーが作った素人コンテンツ)中心であったスマホコンテンツはより高いクオリティが求められていくでしょう。また、プラットフォームとコンテンツの組み合わせは有効な戦略と考えており、今後のCandeeのプラットフォーム展開にも期待しております」(戸祭氏)。

ーーその昔、昭和のテレビ番組は楽しいものが多かった。

私もギリギリのラインに挑戦するお笑い番組や、話題のドラマにかじりついた一人だ。しかし時が流れ、一方通行のブロードキャストがマンネリ化するにつれ、徐々にテレビを見なくなった。同時にインターネットが発達し、スマホというパーソナルかつ双方向の通信環境が完全に整った。

ちょっと大げさかもしれないが Candee の挑戦は、かつて私がテレビ時代に味わったあの熱狂や感動を、新たな環境で感受性豊かな若い世代に提供できるのか、そういう「トンがった」コンテンツを彼らが生み出せるかにかかってるような気がしている。

一部ネットではコンテンツを無残な形で取り扱う事件があった。そんな今だからこそ、本当に人を動かすことのできる「プロの力」を示してもらえることを期待している。

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