
音楽ストリーミング市場は独占が困難な領域と言える。人々は有料サービスを敬遠するし、他の配信サービスに乗り換えたところで特にペナルティがあるわけでもない。しかし、もしも、現在のトレンドを知り尽くし、あなたがちょうど聴きたかった曲を選曲してくれる音楽ストリーミングサービスがあったとしたらどうだろうか?
Tencent(騰訊)の JOOX は、選曲チーム、大量のデータ、オススメ曲のキュレーションを原動力とし、香港、タイ、マレーシア、インドネシアでは、2016年1月から10月まで連続で最もダウンロードされた音楽ストリーミングアプリとなった。McKinsey のレポートによると、JOOX は現在これらの市場における音楽ストリーミングアプリの全ダウンロード数の50%以上を占めており、国際的な競合サービスおよび現地の競合サービスの双方を圧倒している。
Tencent の国際事業部門ジェネラルマネージャーを務める Poshu Yeung(楊宝樹)氏は次のように語った。
現地には選曲チームがおり、彼らには現在のトレンドだけでなく、何がクールかを見極めてもらっています。
JOOX は社会的な出来事を基にプレイリストを提案する。最近、ホットな話題や現地で起こったことを基にプレイリストをキュレーションした例として、ボブ・ディラン氏がノーベル文学賞を受賞した際に同氏のプレイリストが作られた。他にも、2016 Mnet Asian Music Awards など人気のある音楽賞の授賞式をベースにしたプレイリストや、冬の休暇シーズンにはクリスマス用のプレイリストが作られている。
Yeung 氏はさらに次のように述べている。
こうしたプロセスには、現地スタッフの存在が非常に重要になってきます。アルゴリズムやビッグデータが扱える問題ではないのです。
とはいえ、JOOX は音楽をキュレーションする上でデータを利用することの重要性も認識している。ユーザが日々選曲する際に得られる、言語、地理情報、ジャンルなどのデータを分析に利用することもできる。
Tencent グループの一員であることによって、世界有数のデータサイエンティストや AI プログラマーの協力を得ることができます。しかし、特に音楽の好みは思いもよらない変化の仕方を見せますので、現地のチームが果たす役割は引き続き重要であると考えています。
JOOX が東南アジア市場で行っているもう一つの戦略が、Coca-Cola、Coach、Hong Kong Express Airlines、Prudential など一流ブランドとの協力だ。これらの企業は、顧客に合わせたサービスがいろいろある中で特に、自らの顧客やファンに対してカスタマイズされたインターフェイスやプレミアム会員サービスを提供している。また、JOOX は V-Station という動画ストリーミングサービスも展開しており、オリジナルコンテンツの制作からプロモーションイベントのライブ配信まで行っている。
JOOX は広告収入と有料会員からの収入で成り立っている。プレミアム会員の登録率で見ると、アジアの市場の多くは先進国の市場に比べて遅れている。
顧客、特に広告主が最も重要視する高所得層の顧客は、プレミアム会員になることによって得られる価値に対して対価を支払う用意ができており、すでに私たちはその兆候を捉えています。(Yeung 氏)

Image credit: Tencent
JOOX もまた Tencent によって開発されたのだが、いくつかのサービスは連携しているものの、運営は WeChat とは切り離されている。Yeung 氏によると、JOOX によって WeChat のモーメンツで曲を共有したり、直接 WeChat(微信)の友達と曲を共有することが非常に簡単にできるようになったが、結局のところ、JOOX が優先するのは自らの顧客にサービスを提供することであって、WeChat を東南アジア市場に売り込むことではないのだという。
中国市場参入に際しても、JOOX のこの戦略は変わらない。
中国では当社の姉妹サービスである QQ Music が浸透しています。一方で、現時点で具体的な発表はまだできませんが、JOOX はこれから国際的な広がりを見せるでしょう。
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