
日本のスタートアップの多くがビットバレーと呼ばれて久しい渋谷に密集する一方、フィンテックは大手町、ハードウェアは秋葉原、バイオサイエンスは日本橋など、バーティカル別にスタートアップ・ハブが分化してきているようだ。では、最近話題に上ることが多い仮想現実(VR)・拡張現実(AR)・複合現実(MR)のスタートアップは、どのあたりに生息しているのだろうという、筆者の素朴な疑問が本企画のきっかけである。
ソウルや上海には VR アーケードが数多く出現し、(VR-savvy や VR-enthusiast ではない)一般消費者への VR 浸透に一役買っている。有識者の話によれば、アメリカでは映像・エンターテイメント産業のメッカであるハリウッドからほど近い Santa Clara から Venice Beach あたりの Silicon Beach LA、ロンドンでは Tech City の一角をなす Shoreditch のあたりに VR スタートアップが集まり始めているようだ。
東京の VR スタートアップハブはどの地域になるのか、思いを巡らせながら新春の街を闊歩してみた。
12月にオープンしたばかりの、VR特化型インキュベーション施設「Future Tech Hub」

Image credit: Masaru Ikeda
12月14日、茅場町駅から徒歩5分のところにオープンしたのが、日本初の VR 特化型スタートアップ・インキュベーション施設/コワーキングスペースとなる「Future Tech Hub」だ。The Venture Reality Fund にも出資し、VR 特化インキュベータ Tokyo VR Startups を運営する gumi(東証:3903)と、2004年から東京都内でインキュベーション施設を展開するブレイクポイントが共同運営している。
Tokyo VR Startups は定期的にインキュベーションバッチを展開しているが、この Future Tech Hub は、駆け出しの VR スタートアップを Tokyo VR Startups のバッチに参加できるまでに育てたり、バッチを卒業したスタートアップが独立オフィスを借りるまでの拠点にしたり、Tokyo VR Startups と機能を相互補完する関係を併せ持っている。ブレイクポイントの代表取締役である若山泰親氏によれば、ゲーム関連の著書も多数出しているジャーナリスト新漬士氏が率いる よむネコ や、Oculus に特化してコンテンツ製作やコンサルティングを提供する桜花一門といった、日本を代表する VR スタートアップが活動拠点としているのも特徴だという。

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アーリー段階にあるスタートアップの企業価値を、どうやって上げるかというのはインキュベーションのテーマ。我々のところには、どんなハードやソフトが出てきそうかという情報がネットワークを通じて入ってくるので、そのような情報がスタートアップには役立つと思う。
また、シリコンバレーが優位である点の一つは、スタートアップとマーケットの距離の近さだ。例えば、起業家は必要があれば、すぐにでも Google の人に会って自分のプロダクトを検証できたりする。Pixar の誰と話せばよいか、というようなこともわかる。そういう情報や環境も提供できるようにしたい。
(オープンイノベーションという文脈で)日本の大企業からも問い合わせが来ている。大企業がスタートアップに何を求めているのかの情報も集まってくるので、スタートアップは市場が求めるようなプロダクトを効率良く立ち上げることができるだろう。(若山氏)
こと VR の開発をやるとなると、ハイスペックのマシンやテスト・デモのための場所が必要になる。Future Tech Hub では、サードウェーブからゲームパソコンの「GALLERIA」、HTC から HTC Vive、Amazon Web Services からクラウドサービスの提供を受けていて、入居スタートアップはこれらのリソースを無償利用することができる。クロマキーのためのスタジオスペースも複数社で共用できるので経済的だ。

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Future Tech Hub からは、日本橋川を挟んで徒歩5分ほどで Tokyo VR Startups の活動拠点にたどりつくことができ、人材の相互往来も期待できる。コワーキングスペース的な機能も持っているが、VR スタートアップのコミュニティに貢献してもらえることを入居を認める上で大きな条件にしているそうだ。現在、固定席に4法人と1個人、フリー席に3法人が入居しており、年内には30チームくらいまでに増やしたいとしている。
Future Tech Lab を間接的に共同運営する gumi は、韓国で Seoul VR Startups というインキュベーションプログラムを共同展開しており、Future Tech Lab が韓国の VR スタートアップの日本進出拠点として活用されることもあるかもしれない。
VR SPACE

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THE BRIDGE X は、青山学院大学に程近い渋谷二丁目に存在するが、我々が昨年拠点をここに移したのと、ほぼ時を同じくして同じ町内に VR 体験スペース「VR SPACE」がオープンした。運営するのは、以前 Talentio という人材採用サービスを運営していたシリアルアントレプレナーの二宮明仁氏だ(Talentio を運営していたハッチは、2015年9月にキメラが買収している)。
VR SPACE には6つのブースが用意され、それぞれ、HTC Vive を使った複数の VR ゲームを体験することができる(現在のところ、コンシューマ向けのダイレクトセールスではない、店頭などでの VR 体験に Oculus Rift などを使うのはライセンス的に認められていないらしく、VR SPACE には HTC Vive のみが設置されている)。青山通りに面した好立地ということもあって、カップルがデートで立ち寄ったり、会社ぐるみでレクリエーションに訪れたりと利用シーンはさまざま。外国人観光客の利用も増えており、最近になって、急遽、中国語のマニュアルや顧客案内も整備したそうだ。

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二宮氏は VR SPACE をアーケードとしてだけでなく、VR コンテンツを開発するデベロッパのマーケティング拠点として活用してもらいたいと考えており、B からのコンサルティング収入のスケールが期待できるのだとか。今後、東京以外の主要都市にも VR SPACE をオープンさせたり、一般公開前の VR コンテンツを体験できるようにしたり、さまざまなサービス強化を図っていく計画だ。
TECH LAB PAAK と The Roots と VR PARK TOKYO

Image credit: Masaru Ikeda
リクルート・ホールディングス(東証:6098)は、渋谷にある同社のスタートアップ・アクセラレータ「TECH LAB PAAK」昨年の第6期バッチから VR に特化したアクセラレーション・コースを開設した。先日紹介した第6期のデモデイで、多くの VR スタートアップが披露されたのを記憶している読者もいるだろう。
また、VR に特化したファンドを持つコロプラネクストは、渋谷に「The Roots」というインキュベーションスペースを展開している。The Roots 自体は学生起業支援に特化しており VR スタートアップのための施設というわけではないが、VR 特化ファンドやその投資先の VR スタートアップとの間で、何らかのシナジーが期待できるかもしれない。
インターネットサービス大手のグリー(東証:3632)とゲームセンター運営大手のアドアーズ(東証:4712)は昨年12月、両社が共同開発したアトラクションを体験できる VR アーケード「VR PARK TOKYO」を渋谷に開設した。グリーは2015年11月、VR コンテンツの開発に特化した部署として「GREE VR Studio」を開設しているが、ここで生まれた新タイトルが渋谷でいち早く体験できる施設のようだ。今回は、本稿校了までに取材できなかったが、Japan Times による取材ビデオが公開されていたので、以下に転載しておく。
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