創業10年目でIPOを果たしたシンガポールのスマート電力スタートアップAnacle(安科)、約10億円を調達しアジアのオフィスビル・エコ化に照準

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Anacle 設立者兼 CEO Alex Lau 氏 Photo credit: Anacle

Anacle(安科系統)はシンガポールを拠点とするスタートアップで、ビルの資産・エネルギー管理を専門にしている。Anacle が香港証券取引所の GEM(新興企業向け市場)で上場しようとしているというニュースを聞いたとき、最初に私の口から出てきた言葉は「だれ?」だった。

設立者で CEO を務める Alex Lau 氏は、IPO を行ったことで少しは Anacle の存在をアピールできたと語り、「私たちは誰も知らない最優良企業ですから」と言って笑った。

もっと知る必要がありそうだ。2006年に設立された Anacle は、Viki などの企業と肩を並べるシンガポールで最も古いスタートアップの一つだ。設立者自身がそうであるように、Anacle は言葉よりも行動が先に出る。

スマートエネルギー

Anacle は、不動産、医療、石油・ガスなどの業界向けの事業管理ソフトウェア開発から収益を得ている。だが、その中心事業は、古いビルをグリーンに染めるエネルギー管理サービスだ。

具体的に言うと、スマートセンサーやワイヤレス機器をビルに取り付けることで、そのビルのエネルギー効率を高めるというものだ。これらのガジェットによって、ビルで使用される電気の消費量や質、無駄な電力を計測して制御することができる。

Alex 氏は次のように説明している。

当社の顧客は、自分たちのビルでどれくらいのエネルギーが失われているか把握していません。きちんと把握するためには、効果的なリアルタイムモニタリングシステムが必要となります。

ビルのオーナーにとっての大きな問題は、エネルギー効率を高めるために古いビルの改修を行うのは、コストがかかる上に複雑で難しいということだ(多くの場合、配線し直すために結局ビルを取り壊すことになる)。Anacle はこの問題を解決するために、従来の3分の1のコストで設置が可能なワイヤレス設備を用いている。

この Anacle のシステム「Starlight」では、自社で設計したハードウェアとソフトウェアを統合して用いている。商品の研究開発を始めた当時、システムに適したセンサーやメーターが見当たらず、Anacle は設備を自社で製作しなければならなかった。

ワイヤレス通信システムへ供給を行う独立電源だけでなく、大きなコンピューティングパワーが必要でした。そこらへんの陳列棚に並んでいるようなものじゃないですからね。

Anacle は現在、IoT を利用した新しいエネルギー管理システム「Tesseract」の開発を行っている。Tesseract(四次元キューブ:映画『アベンジャーズ』に登場する絶大な力を持つ石)という不気味な名前がついているが、ロキのように異世界の軍隊を呼び込むための扉を開くことはできない。Tesseract の特徴は、強化されたコンピューティングパワー、Android ベースのオペレーティングシステム、静電容量方式のタッチパネル、NFC のような多様な接続性である。

Alex 氏はこう語る。

顧客は Tesseract を使って生きたシステムを利用することができます。一度設置すれば、ソフトウェアを通じて機能のアップグレードが可能です。つまり、ハードウェアを新たに設置しなくても、成長を続けることができるシステムということです。スマート住宅やスマートオフィスのプラットフォームに利用することも可能です。

先駆け

Alex 氏はシンガポールの防衛科学機関に勤めていた経験がある。電気技師、コンピューター科学者として訓練を積み、宇宙船の姿勢制御を専門とした Alex 氏は、シンガポールの初期の宇宙プログラムにおいて、初めて韓国で訓練を受けたエンジニアの一人となった。

その後、シリコンバレーを拠点とするソフトウェア企業 Buildfolio の共同設立者兼 CTO となる。2人の友人が彼を誘ったらしい(「残念ながら、Google の共同設立者ではありませんでした」と言って Alex 氏は笑う)。その当時は1999年でドットコムバブルの真っ最中だった。

2006年、会社をどのように進めるかで意見が割れ、数人のスタッフと共に Buildfolio を辞め、シンガポールで Anacle を立ち上げた。「心躍るスタートではありませんでした。」そう言って彼は自嘲気味に笑った。

Starlight はスマートセンサー、メーター、ワイヤレス通信を活用して古い建物でのエネルギー節約を支援する

Anacle はその後5年かけて研究開発を行い、2011年後半には商品を導入する準備を整えた。その時点から Anacle は成長を開始した。シンガポールでスタートアップブームが起こるかなり前のことである。

そうした環境において Alex 氏が最も苦労したのは、Anacle のために資金を確保することだった。その頃、ベンチャーキャピタルの資金のほとんどが米国企業に集中していた。地元企業への投資に前向きなアジアの投資家たちであっても、その対象はすでに利益を上げている企業に限られていた。面白いことに、こうしたことの副作用として、Anacle は緩やかな成長を捨て、早い段階で高い収益性を得ることを「強いられた」と Alex 氏は振り返る。

長期的に見て、これが Anacle にとって良い結果をもたらしたと思うか、彼に尋ねてみた。「そう思いたいですね。」彼は笑う。

そのおかげで Anacle は統制のしっかりとれた企業になりましたが、それはある意味で、以前に比べて積極的に成長する機会を失ったということでもあります。

幸いなことに、Anacle のニッチ事業は他の市場ほど流れが速くない。それが有利に働いているようだ。

Anacle の発表では、iGlobe Partners、Majuven、Tigris Capital、BAF Spectrum などの投資家から合計で450万米ドルを調達している。

将来の成長性

Alex 氏は、IPO について、Anacle の成長の旅における次の段階だと説明する。

私たちにはまだまだポテンシャルが秘められています。20年、30年かけても、そのポテンシャルは尽きることはないかもしれません。

Anacle は1億株発行し、現在1株0.06米ドルから0.10米ドルあたりで取引されている。今回の上場で、Anacle は次の段階へと成長するための資金を獲得する見込みだ。

シンガポールにおいて、企業をスタートアップよりも上の段階まで育て上げることは依然として難しい、と Alex 氏は感じているという。スタートアップの多くが十分な規模に達しておらず、プライベートエクイティや借入による資金調達を行うことができないからだ。

しかし、上場してしまえば、資金を借り入れる手段が一気に広がります。つまり、これまで以上に成長することが可能になるのです。

Anacle が香港での上場を選択した理由は、香港と中国市場の両方ともが事業拡大を目指す上での彼らの重要なターゲットだからだ。Anacle は他にも、中東の国々の市場を狙っており、特に UAE などのペルシャ湾付近の国に注目している。

上場に伴う手続きやデューデリジェンスは複雑であるが、Anacle は IMDA 認定を利用した。このプロセスでは、シンガポールの情報通信メディア開発庁(IMDA)が将来性のあるシンガポール企業の審査や支援を行う。

IMDA があらゆる書類を整えて、10ヶ月のデューデリジェンスも最後まですべてやってくれました。なので、それが終わる頃には私たちは上場する段階に入っていました。とても早かったです。香港での IPO 史上一番早かったんじゃないですかね。なんせ書類が全部整っているんですから。

彼はこう語って笑った。

Anacle は、シンガポール中に彼らにとって居心地の良いニッチ市場を作り続けている。Frost & Sullivan の2015年レポートによると、Anacleは、2,940万米ドル市場のエネルギー管理システム業界で17%の市場シェアを占め、6,240万米ドル市場の事業アプリケーションソフトウェア業界では7%の市場シェアを占めている。Frost & Sullivan は、2015 Singapore Excellence Awards において、Anacle をエネルギー管理企業オブ・ザ・イヤーと評価している。

この市場は複雑です。競合企業と共同で仕事をすることもあれば、敵同士になることもあります。レトロフィット分野では競合がいないことの方がほとんどです。大企業はたいてい新築に重点を置いてますから。このニッチ市場では邪魔が入るようなことがあまりありません。

こう言って彼は笑う。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

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