福岡で開催中の招待制カンファレンス「B Dash Camp 2017 Spring in Fukuoka」のピッチアリーナには書類審査を通過した20社のスタートアップが選考をくぐり抜けて壇上に上がり、そこからファイナリストとして6社が選ばれた。最優秀賞に輝いたのは、無料SIMを配布して訪日外国人向けに情報サービスを提供する「WAmazing」となった。
ファイナリスト6社の顔ぶれ
- インフォステラ:人工衛星の運用アンテナのシェアリングプラットフォーム
- Fieldsolution:水資源の管理コストを削減するIoTソリューション
- ムーヤン:許諾済みの漫画のコマを二次利用できるコンテンツサービス「マンガルー」
- 軽town:小口運送のマーケットプレース
- WAmazing:無料SIMで観光を楽しめる訪日外国人向けアプリ
- PocketChange:海外旅行で余った紙幣や硬貨を国内で使える電子マネー等に交換
インバウンド需要に最大限の間口をとったWAmazingに高評価

ファイナリストで高評価を得た2社は共にインバウンド需要を見込んだものだった。政府目標となっている2020年に4000万人という訪日外国人観光客の数値インパクトはやはり強く、マーケットが伸びればそこにあるサービスは自然と伸びる。あとは「何をやるか」だけだ。
そういう意味でWAmazingのチームが頭一つ抜けてるのは当然だろう。観光ビジネスやウェブサービスに精通したチームのデビューが大きな反響を生んだのは記憶に新しい。
成田空港で無料 SIM を受取、そのままタクシーを呼んで観光を楽しめる訪日外国人向けアプリ Wamazing、ネット業界のベテランたちが創業
じゃらんnetなどの立ち上げを経験した加藤史子さん、クックパッドで活躍した舘野祐一氏らの取り組みについては取材記事をご一読いただくとして、やはり評価のポイントはその間口の広さと訪日客のお財布をがっちり握るその仕組みにあるのだろう。WAmazingのビジネスモデルは通信、決済、旅行事業と最初から3本あり、それでいてシンプルだ。
無料の通信SIMで訪日外国人のアカウントを獲得し、そこから繋がる各種サービスへの決済を握る。あとはリクルート時代に培った幅広い観光産業へのルートを提示して訪日外国人を楽しませるだけだ。

審査員からの「資金が豊富にあれば」という質問に対しては、訪日客のタッチポイントをできるだけ迅速に拡大することが重要と、国内にある国際29空港全てに「デジタルサイネージ付き無料 SIM カード受取機」を設置したいと回答していた。
「離発着空港の周辺で観光客による消費が発生している。地方空港まで(SIM受け取り機の)ゲートウェイをいきわたらせることができればアジアに一気に広げられる」(加藤さん)。
サービス当初、懐疑的な意見としてネット上で散見したのが、決済情報獲得までのハードルの高さだ。たった500MBぽっちのデータ容量でクレジットカード情報を渡してくれるのか?
ーーこれについてはひとつの結果として、リーチユーザーからクレジットカード情報登録までのCVRで64.4%という結果が示されていた。SIMのデータ追加購入率は6.4%とそこまで高い数字でなかったのは少々気になったが、彼女たちが考えた「外国人客のお財布を訪日前に握る」という手法は一定の成果を残せたと言えるのではないだろうか。
WAmazingが「手のひらの旅行エージェント」にインバウンド市場のチャンスを見出しているのであれば、外貨両替に注目したのがPocketChangeだ。彼らは専用のキオスク端末で外貨を各国で利用可能な電子マネーやギフト券などに交換してくれる。
利用可能な貨幣は米ドル、ユーロ、中国元、韓国ウォン、日本円の5つで、彼らの試算によればこういった海外から持ち帰ってタンスに眠る「余った貨幣資産」は3600億円に上るという。2月に羽田空港に設置されてからは1日100人ほどが利用しているそうだ。
荒削りながら可能性を感じる「マンガルー」
6社のファイナリストで最もシードに近いプロダクトがムーヤンの提供する「マンガルー」だった。
ソーシャル上でコミュニケーションの一環としてマンガのコマ割りをコメント代わりに使ったことはないだろうか?私も私的なメッセージでスタンプ代わりに挿入したことがある一方、公での利用は引用の範囲を超えている印象も強い。
これを権利処理したコマ割りを用意して問題なくシェアできるようにしたのが同サービスだ。コマ割りにはリンクが仕込んであり、そのままそのコマ割りがあるマンガをAmazonなどで購入することもできる。ビジネスモデルは分かりやすくアフィリエイトだ。

2月28日にリリースした後、1週間で100万コマPVを達成。同社代表の渡邊健太郎氏は大日本印刷で電子書籍事業の立ち上げに携わった人物で、ムーヤンも2月に法人化したばかりというルーキーだ。
気になるマンガの許諾の取り方だが、これは作家個人ではなく出版社でとりまとめしてくれるそうだ。ただやはり、作家が懸念を示せば難しくなる可能性がある。
この点について渡邊氏は過去のガラケー向けマンガコンテンツ時代にもあった抵抗感を引き合いに、売り上げにつながることで理解が進む可能性を話していた。なお、現時点では作家別にこの作品の場合はこのページのこのコマのみOKというような個別の細かい対応をしているという話だった。
許諾をクリアしたマンガコンテンツは70冊と多くないが、審査員の評価は高く、実際に利用しているシーンを想像しやすいが故に成長の早いサービスじゃないかなと感じた。
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