リビングルームのソファを、ランボルギーニに変えてくれるVRスタートアップUltron VR(上海奥創科技/上海任素)

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Photo credit: UltronVR

私は今、めまぐるしい体験ツアーの真っ只中にいる。陽だまりの中のリビングルーム、太古の地球、兵馬俑でいっぱいの墓などだ。周りの環境に騙されているわけではない。実際はスタジオにいるとわかっている。しかし、バーチャル世界のアストンマーティンから降りようとして、ドアに頭をぶつけないように思わず身をかがめてしまう。

UltronVR (上海奥創科技/上海任素)のチーフクリエイティブオフィサー(CCO)である Carlo Maria Rossi 氏はこう言う。

中国企業はインタラクティブな仕組みを作るのが得意ですが(中略)、顧客を引きつけておくだけの素晴らしいストーリー体験を用意することが苦手です。これが私たち中国企業が抱える基本的なギャップです。

市場調査会社 Niko Partners によると、中国のバーチャルリアリティ市場は2016年に3億米ドル規模に達したが、投資の78%はハードウェア企業に集中した。Oculus Rift がヘッドセットをローンチしたことから、Baofeng Mojing(暴風魔鏡) など多くの中国のハードウェアスタートアップは、より安価なバージョンを売り出すことに腐心した。一方、魅力的な VR コンテンツはまだまだ遥かに少ない。

UltronVR は、光学トラッキング技術をその VR コンテンツに組み込むことによって、こうしたギャップを埋めたいと考えている。光学式トラッキングはモーションキャプチャの一種で、カメラとマーカーによって物体の位置と方向を判断する。つまり、現実の物体に貼り付けられた小さな球状のマーカーをカメラで読み取り、UltronVR がその物体を仮想空間に配置するのだ。

これにより、仮想環境(または少なくともその一部)があたかも本物であるかのように錯覚する。私が座っていた椅子は車の運転席に早変わりしたし、VR でバスケットボールに寄りかかったり拾い上げたりした時は、まるでボールが実在するかのように感じた。

光学式トラッキングにより、ガラスのコップのような単純な物体であっても、VR 空間で無数の形に変化できる。Carlo 氏によれば、カクテル、煮え立った魔法の薬、血で満たされたカップなどになるのだ。

現在、上海を拠点とするこのスタートアップは、非公開のサードパーティ企業の光学トラッキング技術を使用して、アストンマーティン、レクサス、Hilton などのビジネス顧客向けのコンテンツを制作している。要件はかなりシンプルだ。ユーザが驚くような方法でブランド製品をお目にかけるのだ。中国では、VR キオスクや体験ブースを主要都市のあちこちのショッピングモールで目にすることができる。このため、企業は VR を顧客エンゲージメントとブランド認知のツールとして見ている。

だが、UltronVR が長期的に狙っているのは、ゲーム市場だ。

VR ゲームには大きな将来性がありますが、現時点では準備が整っていないことが明らかです。(Carlo 氏)

上海では VR アーケードが登場したが、ほとんどのユーザは一度体験しただけで飽きてしまったという。昨年、中国では推計3万5,000の VR アーケードが運営を行っていたが、現時点でも稼働しているのは半分以下に留まる

Carlo 氏はまた、VR ハードウェアも十分ではないと考えている。同社は Unreal Engine 4 を使って高解像度3D モデルを作成しているが、最終的な画像は HTC Vive や Oculus Rift でレンダリングされるため、品質面で妥協せざるを得ない。

人体を学習するための VR
Photo credit: UltronVR

VR 業界が成熟するまでの間、UltronVR は、ブランドコンテンツや教育など他のアプリケーションに注力している。一例として、あるアプリケーションは人体の様々なパーツを観察して動かすことができる。これは医療業界をターゲットとする VR 教育会社のためのアプリケーションだ。別のプロジェクトでは、車のエンジンを分解することができる。UltronVR はこれらの制作を通してコンテンツ制作スキルを磨き、VR におけるモーションキャプチャの新たな活用法を模索する機会を得ている。

そして、もちろん収益にもつながっている。

「今年を生き抜く必要があります。競争が激しいですからね」とCarlo 氏は笑う。同社はブランド(特に高級ブランド)を扱うことで高品質のコンテンツ制作術を磨いた。彼はある UltronVR のコンテンツをデモし、自慢げに細部を説明してくれた。カーペットに広がる揺らぎや、シルバーに輝く直火式エスプレッソメーカーなどだ。

私たちは中国の企業です。しかし、国際的な競争力があると市場にわかってもらう必要があります。

UltronVR は Andy Zhao 氏によって2012年に設立され、現在金額非公開の投資ラウンドを行っている。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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