世界のブロックチェーン・エコシステムの今:出遅れたアメリカ、リードするヨーロッパと中国

by VentureBeat ゲストライター VentureBeat ゲストライター on 2017.4.30

Blockchain News を発行している Richard Kastelein 氏は現在、ブロックチェーン人道支援スタートアップ Humaniq で暫定 CMO(チーフマーケティングオフィサー)を務めている。彼は ICO による資金調達型の設計・建築企業 Cryptoalchemy の設立者であり、教育関連企業 Blockchain Partners の共同設立者でもある。

Kastelein 氏は ICO による資金調達型のブロックチェーンスタートアップ DECENTExscudo で相談役を務め、Blockchain Ecosystem Network の運営委員会に参加し、さらに、ロンドンで開催されるヨーロッパのICOイベント「CryptoFinancing」にも携わっている。


Image credit: charnsitr / 123RF

90年代前半にインターネットの未来を予測できなかったように、ブロックチェーンの未来を予測することは誰にもできない。しかし、この技術が大きな影響を及ぼすことは明らかだ。

企業からスタートアップ、政府からその他の組織に至るまで、人々は、信用の分散化および非中央集権化という概念を取り入れ始めている。それにより、摩擦を減らし、より公正で透明かつ効率的なビジネスおよび政治のフレームワークを構築しようとしている。

アメリカにおけるブロックチェーンスタートアップの最前線はあまり活発とは言えない状態で、それはイノベーティブな企業が不足していることよりも規制上の問題に関係しており、その結果、シリコンバレーではブロックチェーンに対する熱が上がらないのだ。 ベイエリアには Kraken と Coinbase という企業が存在するが、どちらも暗号通貨に特化した企業である。他の国々で研究されているような健康、エネルギー、保険、サプライチェーンなどの分野に取り組むアメリカのブロックチェーンスタートアップが不足しているのが現状だ。

Outlier Ventures の優良ブロックチェーン企業調査によると、グローバルブロックチェーン企業の4分の1はアメリカ出身だそうだが、そのほとんどが暗号通貨またはビットコインを専門にしている。ブロックチェーンが持つ大きな可能性を通貨以外の分野に活かしている企業はごくわずかだ。

ニューヨークはアメリカのブロックチェーンコミュニティの中心地になっている。その一番の理由は、金融業界が直面している真の脅威を分散型台帳技術によって解決する方法を躍起になって探していることにある。しかし、ニューヨークには金融以外の分野でビッグプレーヤーが2つ存在する。

Consensysは イーサリアムをグローバルに扱う主要プレーヤーであり、金融業の枠を越えてブロックチェーンを推進している。 Digital Asset Holdings は規制された業界における決済の高速化、コスト削減、セキュリティ強化、透明性の向上を目的とした安全な分散型の処理ツールを構築するために、世界最大手のテクノロジー企業および金融機関15社から7,000万米ドル以上を調達した。経済学者であり JPMorgan Chase の元幹部でもある CEO の Blythe Masters 氏は、Digital Asset Holdings の設立のために、Barclay の投資部門を経営するという大役を辞退している

【アメリカ】エコシステム発展に歯止めをかける SEC

しかし、全体として見れば、アメリカにおけるブロックチェーンエコシステムの動きは遅い。SEC(アメリカ証券取引委員会)は、ICO(イニシャルコインオファリング)という新たな現象に対処し、規制の枠組みを設けることができていない。それがアメリカのブロックチェーンの発展を停滞させており、イノベーションの大きな妨げになっている。

シンガポールとスイスはトークンを証券ではなく資産として扱う世界で2つだけの地域として、ブロックチェーンの扉を開け放とうとしている。その一方で、SEC の腰は重い。それが、ユニークな金融商品を活用して資金調達を行いたいアメリカのイノベーターや、アメリカの投資家と取引を行いたいヨーロッパやアジアの企業にとっては好ましくない状況をもたらしている。

法的な問題が発生する可能性があるため、ヨーロッパで実施される ICO にはアメリカ人の参加を禁止するものもある。これはアメリカの投資家にとってはあまり良くない。しかし、アメリカ人の Brock Pierce 氏と彼が率いる Blockchain Capital の VC チームは、世界初の KYC・AML(金融機関の顧客確認とアンチマネーロンダリング)に準拠したクラウドセール(独自通貨をビットコインで販売し開発費を捻出)となる ICO を独自に行うという、業界に革命をもたらす一か八かの賭けに出ることを決定した。Pierce氏は先週投資家にデジタルトークンを売り出し、6時間で1,000万米ドルを集めて同社の次の目標調達額の20%を調達した。

しかし、それは容易なことではなかった。シンガポールで ICO を行う企業を設立し、さらに、国内投資家だけでなく海外投資家からの資金調達を行うために、SEC に対してはレギュレーション S およびレギュレーション D の免除規定を利用しなければならなかった。アメリカからの参加は許可を得たわずか99人のアメリカ人投資家に限られたが、他の国々からは自由に投資に参加することができた。

Pierce 氏は American Banker に対して、次のように語っている

今後10年、20年で、世界中のスタートアップがトークンで資金調達するようになると私は考えています。

幸いなことに、アメリカでは少なくとも8つの州がビットコインおよびブロックチェーンテクノロジーの利用を促進するブロックチェーンに関する法整備に取り組んでおり、これは上手くいく可能性が高い。だが、連邦レベルでの法案は提出されていない。

【カナダ】ブロックチェーン推進派が大勢を占める

カナダには活発なビットコインスタートアップコミュニティが存在する。その主な要因は、トロントのビットコインコミュニティからイーサリアムが生まれたことや、イーサリアムを考案したVitalik Buterin 氏をはじめとした多くの才能豊かな人材が同国最大の都市トロントに集まっていることにある。

言うまでもなく、ブロックチェーン分野で最も有名な作家の2人である William Mougayar 氏Don Tapscott 氏もカナダ出身だ。様子見をしているアメリカのSECとは異なり、CSA(カナダ証券管理局)は、ブロックチェーンスタートアップや金融テクノロジーを扱う企業を対象とした「フィンテック・サンドボックス・プログラム」を新たに立ち上げるなど、積極的な姿勢を見せている

【中国】ブロックチェーン採用を積極的に推進

中国国内で何が起こっているのか、外からではそれを理解するのは難しい。上海に本社を置く Skyledger(快貝)の Jane Zhang 氏(張紅)によると、政府は寛大なアプローチを取っているという。中国のブロックチェーンコミュニティの有力プレーヤーである Zhang 氏は、政府側は次にどんなブームが来るのか把握していると語る。

最近のインタビューで彼女は、ビットコイン取引所の中には銀行免許なしで貸付を行っているものも存在し、これこそが、中国政府が何よりもイノベーションを大事にしていることを示していると語る。

中央政府は国内の貧しい地域に大規模な投資を行い、ブロックチェーンパークを構築することで、豊富な資金力を背景に世界中からブロックチェーン企業を誘致する計画を行っています。今年のブロックチェーンスタートアップの数は昨年よりもかなり増加しています。

Skyledger で彼女が率いるチームはグローバルなブロックチェーンデベロッパーのエリート集団で形成されている。彼らの多くは東欧出身で、ドバイ政府の入国管理に採用されたばかりの民間ブロックチェーンプラットフォームで働くために上海に移ってきた者たちだ。

中国では現在 ICO の規制がない状態で、200万人以上が ICO に参加しており、イノベーションと成長のための資金を調達するためにトークンの販売を選択するブロックチェーンスタートアップがますます増えている。

中国政府は ICO を脅威とみなしていません。政府は、単に彼らが ICO を禁止していないという事実を提示することで、ICO の促進を図っているのです。(Zhang 氏)

中国市場はここ一年、コンソーシアムを形成することで継続的に発展している。コンソーシアムの例を以下に示そう。

  • China Ledger Alliance(中国分布式総賬基礎協議連盟):複数の地方取引所によって構成されるコンソーシアム。中国に到来しようとしている「IoE(Internet of Everything)」をサポートするオープンソースブロックチェーンプロトコルの構築を行っている。
  • Financial Blockchain Shenzhen Consortium(金融区塊鏈合作連盟):Ping An Insurance(平安保険、ブロックチェーンの活用に関する研究・開発に携わる50社以上の金融機関から成るグローバルコンソーシアムR3の参加企業)と Tencent(騰訊)の子会社を含むメンバーによって構成されるコンソーシアム。資本市場テクノロジー、証券取引所、取引プラットフォーム、銀行業務、生命保険に焦点を当て、研究およびグループ規模でのブロックチェーンプロジェクトを共同で行っている。証券取引プラットフォームのプロトタイプの構築や、クレジット、デジタル資産台帳、および請求書の管理サービスの開発を目標としている。
  • Qianhai International Blockchain Ecosphere Alliance(前海国際区塊鏈生態圈連盟):中国国内外の人材、技術、資本を組み合わせることで、ブロックチェーンテクノロジーとその応用テクノロジーを開発するための効率的なエコシステムの確立を目指している。Microsoft、IBM、香港の Applied Science and Technology Research Institute(ASTRI)などによって構成される同コンソーシアムは、ブロックチェーンの研究・開発の商業化を加速させ、中国の社会的および経済的な発展を支援するためにブロックチェーンの応用を促進していきたいと考えている。

【オーストラリア/ニュージーランド】まだ調査段階

オーストラリア中央銀行(オーストラリア準備銀行)は、オーストラリアおよびニュージーランドが取り残されてしまわないようにブロックチェーンについて行内調査を実施している

巨大中国企業 Alibaba(阿里巴巴)はブロックチェーンを活用して中国の食品偽装問題に取り組んでおり、ニュージーランドとオーストラリアでサプライチェーンプロジェクトをテスト運用している。

【ヨーロッパ】ブロックチェーンで世界の先頭を走る

ヨーロッパは多くの点でブロックチェーンラッシュをリードしている。大陸に浸透している優れたオープンソースの文化はブロックチェーンの新たな原動力を支えており、官民両方が積極的にブロックチェーンプロジェクトに関与している。

実際、ICO の大部分はヨーロッパ、特に東欧のブロックチェーンスタートアップによって実施されている。

ブロックチェーンハブに関して言えば、主にロンドン、アムステルダム、バルセロナ、ベルリン、スイスのクリプトバレーにスタートアップが集中している。

エストニアの Guardtime は政府と協力して健康記録にブロックチェーンを利用しているほか、NATO などの組織とも契約している。さらに、アメリカの Nasdaq はアプリケーション開発のためにバルトの小国エストニアに手を伸ばし、 Skype の共同設立者 Jaan Tallinn 氏もエストニアを拠点とする Funderbeam というブロックチェーンスタートアップマーケットプレイスをキックオフした

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イギリスの主任研究員 Mark Walpor t氏はブロックチェーンが持つ可能性の概要をまとめ、ブロックチェーンがどのように公共サービスの提供を変化させ、政府の生産性を向上させることができるかを示す、ブロックチェーンに関する88ページに及ぶ大規模なレポートを1月に公開した。その後すぐに、ロンドンに本社を置く金融テクノロジー企業 GovCoin Systems は、社会福祉給付の分配を合理化する政府の目標を支援するブロックチェーンのテスト運用を発表した。

マン島政府は、マン島内のどの企業が分散型オンライン台帳システムを活用しているのかを記録するために、ブロックチェーン台帳の使用を開始した。

今年初め、BOE(イングランド銀行)の Mark Carney 総裁は、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)がもたらす政策上および技術上の問題を検討し、ブロックチェーンの概念実証を進めていく予定があることを述べた

オランダの ING Bank は2月までに27件ものブロックチェーンの概念実証(PoC)を完了させ、同じくオランダの巨大銀行 Rabobank も非常に活発に活動している。世界的な巨大医療機器メーカーの Philips はブロックチェーン分野の先頭を走っており、2016年初めには健康維持サービスへの応用を模索している。そして、オランダの中央銀行は DNBcoin というビットコインクローンの本格的な実験を行った。

デンマークの中央銀行はかなり積極的で、将来的にはブロックチェーンベースのE-kroneを準備通貨として発行する予定。フランスの中央銀行もブロックチェーンのテスト運用を行っている

スウェーデンでは官民の協力の下で3月に開始されたブロックチェーン上に土地所有権を記録するなど、土地所有権の管理に応用する準備を整えた。

EUの執行部は規制に焦点を当てたブロックチェーンの概念実証の実施を望んでおり、ブリュッセルは最近、規制上の問題を検討するためにブロックチェーンのパイロットテストを提案している

EUレベルでは法整備されていない状態だが、スイスがそこに至るまでの道を整えようとしている。スイスの規制機関 FINMA は4月、いくつかの銀行業務を行うが貸出業務を行わず、顧客資産の預かりに上限を設けた金融イノベーター向けに新たな免許のカテゴリーを設置することに関して、支持する姿勢を示した。リスクが低くて事業範囲も限られているため、フルバンクと比較すると免許要件はあまり広範囲にはならない。

これがICOのゲームチェンジャーとなる。

したがって、ツークとチューリッヒの間の30kmの谷がクリプトバレーを生み出し、世界的なブロックチェーンスタートアップエコシステムの中心とみなされているのも不思議ではない。

最も素早く行動できるのは誰だ?

今後数年の間は、ブロックチェーンは勢いを増し続け、既存のビジネスモデルに脅威と機会の両方をもたらすという興味深い動きが見られそうだ。問題は、このテクノロジーを利用 してイノベーションを最初にもたらすのは誰か?という点である。

それは現時点ではわからないが、ICO が短・中期的にエコシステムに影響を与えることは明らかだ。もう一つの問題は、ICO によって生み出される新たな流動性を凍結したり解放したりする権限を持つ規制当局の動向に大きく左右されてしまうという点だ。なぜなら、次世代のブロックチェーンイノベーションにエネルギーを提供するのは ICO だからである。

【原文】

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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