今年も3月10日から米テキサス・オースティンの地で開催されたSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)。
ミュージック、フィルム、インタラクティブの3部門・24のテーマについて議論されるメインカンファレンスをはじめ、フェスティバル、トレードショー、アワードなどが街中全体で勃発する世界有数の「カオス」なイベントだ。この誰しもが「一言で語れない」イベントの体験を共有しようという目的で、3月29日に渋谷・THEBRIDGE XにてSXSW2017報告会が開催された。
前回よりも大衆向けになったのではないかという意見もある一方、BitcoinやAR/VR、ドローン、ブロックチェーンなど、固有の話題が出ていた頃のイベントに比べて扱うテーマも広がり、人間とITテクノロジーがどう共存していくのかといった、より概念的な内容のセッションが増えたという意見も聞こえてくるなどこちらも「混沌とした報告会」といった印象で、私たちも楽しいひと時を過ごすことができた。
本稿では中でも特に印象に残った報告をしてくれた、二つの視点についてお伝えしたい。

解を求めてはいけないーーSXSWにあるのは「問い」と無数のアイデア
SXSWをCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)と比較することで紐解いてくれたのが、博報堂DYメディアパートナーズの加藤薫氏。SXSWには初参加ということで、着目すべき3つの視点をコミュニケーション、生活、ビジネスに関する「問い」という形で解説してくれた。

「SXSWで感じたのは3つの『問い』です。人工知能やロボットと人間の付き合い方をどう捉えるかというコミュニケーションの問い。ボットやボイスを含む、新しいUIを前提に家やリビングをどうデザインするかという生活の問い。さらに組織がイノベーションの機能をどうもつか、どのように世界と繋げるかというビジネスの問い」(加藤氏)。
例えば自動車運転における技術と人間の関係性をCESとSXSWで比較。トヨタはCESで自動運転を現在の車の延長上で思考したコンセプトカーという形で提示し、日産は社会システムの中の無人運転という構想を披露していた。一方、SXSWでは同じテーマでも自動運転システムを「後付け」した天才ハッカー、ジョージ・ホッツ氏による自動運転技術のオープンソース化が話題となっていた。

また、音声コントロールに代表される生活の中でのUIの変化についても、CESでは一大旋風となったAlexaのオールジャンルデバイスへの導入「Alexa is everyone」に対して、SXSWではジェフ・ウィルソン教授によるプロジェクト「Kasita」を紹介。デバイス単位でのコントロールではなく、家そのものがインターフェース化する世界観がSXSWらしいという感想も。
ビジネス的な視点ではこういうイノベーションの機能を企業がどうもつべきか、SXSWというフィールドを活用して各国のフィードバックを受けることはできるが、そのプロトタイプをいかにして現実世界に出現させるのかという課題を口にしていた。
10年前にインターネットがリッチコンテンツしていく中、たった140文字でのコミュニケーションを提案したTwitterのように、SXSWのイベントとしての立ち位置は市場が向かっていく方向に対して「そうじゃない未来を提案する」ところにあるのではないか、という加藤氏。
トレンドや問題に対する解を簡潔に知りたい人はCESへ、無数の問やアイデアを得たい人はSXSWへ向かうのがよさそうだ。
取材依頼は100件もーーSXSWでゲリラデモは効果あり
「SXSW初参加でゲリラデモをしてきた」ーーそう語るのはバーチャルリアリティ関連のサービス開発を担うグラニで取締役を務める福永尚爾氏。彼がオースティンの地で飛び込みデモしてきたのが「Project Sonata」だ
Project SonataはARのとVRを双方向でコミュニケーションできるプラットフォームで、VR空間にいる人と現実の人をリンクさせてコミュニケーションさせる試作段階のプロダクト。

1月末日に出展しようとするも、その時期はもうブースの募集は締め切っており、福永氏は翌年のイベントに参加するための視察に行くことを決意。ただ、観光気分で行っても仕方ないので、ゲリラデモをしてきた、というわけだ。
「(SXSWのブース出展してないので)場所がないから自分たちが動かなきゃ、ということでゲリラ的にデモをして立ち去ってました。とにかくチャンスは逃さないぞと。結果として突発的な取材依頼があって地元の新聞紙や撮影依頼など100件近くいただきました。あと、HoloLensを作ってるMicrosoftのチームリーダーに存在を知ってもらったり」。
浴衣を来てHoloLensを付け、さらに光る靴を履いて街中を歩いた福永氏。ジャパニーズカルチャーとの融合は海外の方にウケるんじゃないかという予想は的中。
随所で声をかけられた彼は「日本語と英語でコミュニケーションするので所属してる国がわかりやすいことが大切」と語る一方、着物を着たままWi-fi環境やバッテリーなどの環境を持ち歩くのは相当に骨が折れた様子で「オペレーションコストは高かったです」という感想も。

ブースを持ったほうが取材は楽かもしれないが、派手なデモが許されるSXSWではこういうゲリラ的なデモもまたひとつ効果あり、という実感を得たという。今回の経験を元に、来年のブース出展などの展開も目論んでいるということだった。
フジテレビ・ホウドウキョクチームも現地で取材参加
報告会イベントを主催したニュースメディア『ホウドウキョク』もまた現地で取材あたり、過去にTwitterなどが受賞してその後の大きな弾みとなった「インタラクティブ・イノベーション・アワード」で、東京大学の学生チームが見事受賞した話題をいち早く伝えるなど、現地の熱気をレポートしていた。

現地取材にあたったホウドウキョクのニュースコンテンツプロジェクトリーダー、清水俊宏氏は帰国後に参加した別の国内カンファレンスの話題と比較してこんな風にSXSWを振り返っていた。
「スマホが便利じゃないからどうしようというマイナスからの思考ではなく、楽しい未来を作るためにじゃあどうしようか、という考え方なんですよね。例えばリーバイスのジャケットがデバイスのようになっていて、タッチするだけで何でも検索ができてさらに洗濯できたら更にいいよね、という『思い描いた』未来をこの場所でみんなが一緒になって語っている。だから行ってない人が聞いても訳が分からなくて、結果的に『体験してないとわかんない』ってことになるんじゃないでしょうか」。
報告会の様子はこちらのビデオでも確認ができる。(機材トラブルで一部音声が乱れている箇所があります予めご了承ください)

※情報開示:THE BRIDGEはフジテレビグループのコーポレートベンチャーキャピタルであるフジ・スタートアップ・ベンチャーズから出資を受けています。
編集/平野武士
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