本稿は社員数10人未満のスタートアップに飛び込んだ人、すなわち「社員番号1桁」な方に、時を経て当時のことを振り返ってもらう連続インタビュー企画。起業家の柴田陽氏と川村亮介氏が「社員がほとんどいない最初期のスタートアップのリアルな情報や認知が少ない」という問題意識に端を発した連載である。
日本を代表するハウツーメディア「nanapi」は、2014年にKDDIに巨額で買収され話題になった。今回インタビューする寺本智也氏は、そのnanapi(当時の社名はロケットスタート)に社員番号7番で入社。管理部長として同社の屋台骨を作った人物で、現在はマネーフォワードにて経営企画などに携わっている。
これまで本インタビューでは、エンジニアバックグラウンドの方々からお話を伺ってきたが、今回はバックオフィスの視点から、社員番号1桁として非エンジニアの人物にスタートアップに入社することについてお話をお聞きする。
※筆者注:nanapiはKDDI傘下の子会社と合併して現在はSupershipとなっている。寺本氏が入社した頃の社名はロケットスタートだが本記事では全て「nanapi」として表記を統一する
新規事業に手を挙げ「色んなことを経験した」リクルート時代
寺本氏は夜間の大学を卒業後に半年間プラプラした後、目に止まったリクルートの求人に応募。求人媒体の営業マンとして社会人人生をスタートさせた。「当時はスタートアップへの興味は全くなかった」という寺本氏だが、営業として1年ほど働いた頃、ふとリクルートの社内ベンチャーの公募に手を挙げたことが事業立ち上げとの最初の接点だったと言う。
「カンパニー内に別会社を作り、そこの設立メンバーとして、営業、営業企画、商品企画、ディレクター、事業統括など、バックオフィス以外のいろんなことを経験しました」。
バックオフィスはリクルート本社がサポートしてくれる仕組みだったため、唯一と言っていいくらい経験できなかった領域だったそうだ。立ち上げ期は5名のメンバーと一緒に、サービス開始までに3000本の求人広告を作る体制を構築したり、どういうクライアントに狙いを定めるかといった営業企画からサイト構築のディレクターなど、業務の垣根なく幅広い仕事をこなした。
3年ほど経過して業務が再び営業メインになってきた際に「自分は営業はそこまで向いてないな」と感じるようになり営業以外の道を探し始めることになる。
管理系でもWebサービス系でもないのにnanapiに入社
営業ではない仕事を探していると、当時nanapiで役員を務めていた人物の耳に届き、寺本氏に誘いの声がかかる。
「正直なところ、当時はスタートアップに明るかったわけではなかったので、得体の知れない業界・会社に入社することに不安やリスクを感じなかったわけではありません。しかし、このまま今の仕事に残り続けて、10年後どうなるのかな?ということに対しての危機感の方が大きかったです。ただ、立ち上げは色んなことを経験できることは分かっていたので、いい経験にはなるだろうとは思ってました」。
これまでのインタビューでは、結婚、出産をした場合、創業期のスタートアップには参加しにくくなるのではないかという意見が多かったが、その点で寺本氏は異なるようだ。寺本氏はすでに結婚しており、一児の父でもあった。なんとかなるという気持ちの反面、転職して給料が下がることについての悩みもある。そんなある日、MBAスクールに通うリクルートの同僚からこんなアドバイスを受けたそうだ。
「彼は『僕は給料からMBAの高い学費を払ってる。スタートアップに行けばMBAで学ぶようなことがもっと実践的に会得できるはず。給料の差は、MBAの学費だと思えばいいよ』っていうんですね。自分の背中を押された気がしました」。
寺本氏は最終的に7番目の社員としてnanapiへの入社を決意することになる。
経験も知識もないのに手を挙げて管理部長に
入社してしばらくすると監査法人のレビューが始まり、同社の管理部門に責任者を置く必要がある状況がやってきた。入社後しばらく編集ディレクションなどの業務をしていた寺本氏は、自分以外の社員がエンジニアやデザイナーだったため「自分がやるしかないなと思っていたし、役員陣もあいつがやるだろうと思っていた」そうで、自然な成り行きで管理部長のポストへ収まることになる。
「自分はインターネットバックグラウンドではなく、ディレクターとしても強いわけではない。エンジニアリングもできない中で、この会社の中で最もいい経験になりそうなポジションはどこだろうと考えると、それはバックオフィスだったんですよね」。
日本最大のハウツーメディアを運営するnanapiのビジョンは「できることをふやす」で、多くの社員が自分の担当職務を超えて自発的に幅広い仕事に取り組んでいた。
「最初の1年は、会社の監査役にだいぶ助けてもらってましたが、業務で分からないことが出てきたら、すぐに調べたり、士業の先生方に質問して必要な知識を吸収してできることを増やしていきました。創業期のスタートアップは、やったことないことを要求されることが多いし、それができない理由にならないところがいいところ。そもそも新しいことは分からないことが多いので、周辺情報を集めて何とかするしかないんです」。
「友だちになりたいかどうか?」
創業期のスタートアップに入社するにあたっての見逃せないポイントとして、寺本氏は2つのポイントをあげてくれた。
「1つは創業者やメンバーなど一緒にやる人との相性。もう1つは、その会社がやっている事業を好きになれるかどうか。創業期のスタートアップに入社すれば、良くも悪くも人生の大きなシェアを使うことになるので、この2点は不可欠です」。
相性をどう見極めるか?については、逆面接をするわけにもいかないので、どちらかと言うと採用する側の見極め裁量が大きいと説明する一方、けんすうさん(元nanapi代表取締役の古川健介氏)のユニークな選考基準を紹介してくれた。
「けんすうさんの選考基準は、その人と友だちになりたいかどうかが大きい。結果的にそれが人の相性の見極めに関していいフィルターになっていました」。
初期スタートアップの入社を検討する際に、面接などのミーティングを通して創業者や他のメンバーと友だちになりたいか?を考えてみるのは、比較的簡単で有効な見極め方法のひとつになるだろう。インタビューの最後、社員番号一桁台の会社で働く魅力について、寺本氏はバックオフィスらしい視点でこうアドバイスしてくれた。
「会社が大きくなっていくと機能が増えていき、自分の陣地を確保するための陣地取り合戦みたいになっていきます。でも初期のスタートアップではそもそも機能がないため、自分が持ちたい機能を持つことができる。そういう意味で、非エンジニアの総合職として創業期のスタートアップに入社する方には、バックオフィス業務をオススメしたいですね。バックオフィスのポジションが昇華していくと、経営企画などの経営層に近い位置で戦うポジションになり、かなりのスピードで幅広い経験をすることができますよ」。
こうして創業期のスタートアップで、自らキャリアを切り拓いていった寺本氏は、nanapiのM&Aを成功に導いた後、現在は急成長中のフィンテック系スタートアップであるマネーフォワードで200名もの所帯の会社の経営企画・管理業務を担当している。
終わりに
総合職(非エンジニア)として初期スタートアップへの入社に興味のある方にとって、そこで自分が将来持ちたい機能を取ってしまえるというのは非常に参考になる考え方だろう。
MBAで専門性を深めてキャリアチェンジするのとは真逆のアプローチだが、創業期のスタートアップに入社し、速いスピードでバックオフィス含めた幅広い業務を経験し、事業サイドも管理サイドも経営サイドも理解しながら、実務をこなす。そうやって自ら新しいキャリアパスを切り拓いていきたい方にとって、社員番号一桁のスタートアップは、ある意味でMBAと同じくらいよい環境と言えるのないだろうか?
創業直後のスタートアップに会える合同説明会「社員番号一桁ナイト」を開催します。
THE BRIDGE では柴田陽氏、川村亮介氏らと協力し、社員数10名未満のスタートアップに出会える場「社員番号一桁ナイト」を定期開催いたします。創業メンバーとして「イケてる」スタートアップに参加したい方はぜひご参加ください。(詳細はこちらから)
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