シミュレーション:ブロックチェーンの適用で、これからの出張や旅行はこう変わる

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Trond Vidar Bjorøy 氏は、旅行マネジメント企業 ATPI で商品開発および実装部門(スカンジナビア地域)の責任者を務めている。

本稿は著者の LinkedIn のブログ記事で最初に掲載されたもので、転載にあたり、THE BRIDGE は Bjorøy 氏 から独自に転載許可を得た。


スマートバンドから通知を受けたのは、仕事を終えて帰宅している時だった。私の旅行マネジメント会社(TMC)のボットの Pat が言うには、3週間後に迫った定例のロンドンオフィスへの出張のフライトを一番お得な価格で予約するには今が理想的なタイミングだという。

Image credit: maciejbledowski / 123RF

Pat は、飛行機や宿泊のスケジュールを含むお勧めの旅程を私に送ってくれた。私にとって最適な料金計算をしてくれたのに加えて、TMC は会社の旅費規程、過去の出張履歴、個人的な好みも考慮に入れてくれる。そしていつも確実に実行してくれる。提案は好ましい内容だったので、あとは旅程の確認をするだけでよかった。

Pat によると、私の今回の予約は、宿泊1週間以上前になされた今年の予約のなかで200回目に当たったという。そのため、当社とホテル間で交わされているスマート契約の条項の1つに該当し、契約料金から20%のディスカウントを受けられることになった。フライトと宿泊の代金はすぐさま会社の口座に請求される。一銭も支払わずに出張ができるという感覚にまだ慣れていないせいかラッキーな気持ちになる! 旅費規程に従い、適切なチャネルで予約をするという善良な社員であるのは、以前ほど難しいことではなくなった。

ロンドン行きの便はたいてい遅延することを思い出したので、私は Pat の提案を受け入れて、その出張に運航遅延の保険を付けておいた。備えあれば憂いなしだ。この種のサービスの支払いは自前なので、送金決済はすぐ実行される。

予約を終えて手を下ろすと、私のバンドは再び何十億という別の接続デバイスのネットワークに加わり、余りの処理能力をマイニングに活用していた。私がこのデバイスを使用していない間、ピア・ツー・ピアのネットワークに対応し、私がほとんどの資産や情報を保存しているブロックチェーンの運営に協力しているのだ。

搭乗便の出発が遅れた。私のバンドに送られた航空会社のアナウンスによると、機体の部品の一部が故障したそうだ。現代のサプライチェーンはかつてと比べて良くなったとはいえ(今では航空機が必要なパーツの設計図を、ファイルが改ざんされていないことを証明するブロックチェーンを活用してダウンロードし、それを3Dプリントするだけでよいそうだ)、古い部品を交換するには少し時間がかかりそうだった。そのため、新しい機体が持ち込まれた。

2時間後、私はようやく顔認証スキャナーを通過して機内に向かった。離陸時に Pat から通知を受け取った。私の運航遅延保険が適用され、プレミアム分がウォレット(財布)に加算されたという。楽してお金を手に入れられた。

さらに別の通知が入り、航空会社が私のリワード(報酬)ポイントをウォレットに加算してくれたという。ポイントの一部を使用して機内ショッピングすることにして、残りはその晩の宿泊をスイートルームにアップグレードするために利用した。こうした相互利用可能なロイヤルティープログラムがなければ、どのようにポイントを管理していたのか私にはよくわからない。

飛行機はヒースロー空港に着陸し、私は入国審査に向かう(ブロックチェーンは国境そのものを消滅させていないが、いつの日かそうなるだろう)。私はその時、このユニバーサル ID のようなものは実に素晴らしいと思った。同じデジタル ID を使って旅行予約、航空機搭乗、国境越えが実に便利になっている。何より優れているのは、私のデータが中央データベースにもなければ、どの企業も保有していないことだ。

情報はブロックチェーン上にあり、認証可能で改ざんされることがない。出張中の私にタッチポイントがあるサプライヤーは全て、必要な時に同一のデータベースに接続して私のデータにアクセスできる。例えば、TMC は通常私の連絡先や旅行に際しての好みの情報を必要としている。一方、航空会社は予約認証のために私の身分を確認する必要がある。さらに入国審査では、パスポートもしくはビザの情報が必要だ。

ここで美しいのは、どのデータを、誰にそしていつシェアするか私自身が決定していることだ。私は異なるデータを異なるサプライヤーにシェアすることができ、まさにその瞬間に、先方が必要としている情報を提示できる。スマート契約を活用して、台帳にコード化された条件付きロジックのように特別な許可を設定することもできる。それは、私の情報や文書に誰がいつアクセスできるかを定義付けすることだ。情報は私のウォレットにあり、必要な時にいつでも利用できる。ここでは、自由、プライバシー、セキュリティが美しく1つにまとまっている。そして、私のビッグデータが会社のデータベースの中でふらふらと浮遊するようなことはない。私のデータはプライベートだ。実にありがたい。

ロンドンにあるターミナルの外に出ると、私は遅延した時間を取り戻さなくてはならなかった。それで Pat にメッセージを送り、配車を頼んだ。数分後、会社が優先的に契約している分散型ライドシェアサービスが提供する自動運転車に私は乗っていた。オフィスに向かう間、こうした分散型の自動サービスが生まれる前は本当の意味でのシェアリングエコノミーはなかったのだと考える以外にほかなかった。数年前には「シェアリング」ができると謳っていた企業もあったが、実際には、他人が提供するサービスをただ寄せ集めてそれに課金し、消費者間の仲介をしていただけだった。

当時、こうした新しいタイプの企業が現れた頃は条例の範囲内だけで存在していたが、最終的には法律が改正されて、 かつてはディスラプティブなスタートアップとしてその頃時価総額数十億ドルの規模に進化していた企業は、結局自らのディスラプションに向かっていたのだった。今日、すべての収入は自動車の保有者に直接還元されている。真ん中で注文の仲介をしている企業の手数料などはない。そのような企業が存在しないからだ。また、決済は数日数週間もかかることはなく、数分や数秒で行われる。

オフィスで生産的な1日を過ごした後、私はホテルに向かった。近距離通信(NFC)経由でスマートロックがバンドに接続されて、宿泊する部屋のドアが開錠された。その時私のロイヤルティーポイントが加算され、それを妻のウォレットに転送した。最終的に、夏休みに宿泊ができるくらいのポイントが貯まった。

翌日空港に向かう際、私はちょっとした不注意で道路を横断中に自動車に少しはねられ、足を負傷してしまった。重大な事故ではなかったが、検査のため救急に運び込まれた。ブロックチェーンがメリットを享受できるのは何も旅行だけではない。ヘルスケアはさらに効率的、安全になっている。私の医療記録がシェアされており、応急処置が2、3時間で済んだ。ただ、飛行機には乗り遅れた。Pat が翌日朝の便を選択し、予約までしてくれた。

私はもう1晩宿泊しなくてはいけなかったので、Pat が空港隣接のアパートに連絡を取り、分散型の宿泊サービスを通して予約をしてくれた。こうしたサービスを快適に利用したことはこれまでなかったが、住宅や家主の評判はブロックチェーンで保証されていた。それによって安心できるし、思いもよらない不快な思いをすることはもうないだろう。そうそう、借り手としての私の評判も付けられている。だから私には、いい人であろうとするインセンティブがある… 私の評判は、希望すれば他のベンダーやサービスに伝えることもできるので、いい人であり続ければメリットがある。

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承知している。これまでの話はやや不自然なものだが、いくらかインスピレーションを与えられればと思っている。すべての障害(技術、規制、セキュリティ、プライバシー、費用、社会、文化など)が克服され、サービスが本当にブロックチェーンと統合されるようになれば、以上の話は私たちが目にするイノベーションの一部になるだろう。

ブロックチェーンは最終的に、これまでのモバイル、インターネット、コンピュータのようなものにはならない。ブロックチェーンはモノではない。それは、モノを動かすモノなのだ。

Bart Suichies 氏によるこの言葉は、他の新興テクノロジーを見ているとはっきりしてきた。1つの例が IoT だ。ブロックチェーンの分散性がもたらす信頼がなければ、こうしたデバイスに備わっていなくてはならないセキュリティ、効率性、インターオペラビリティを確保するのは困難だろう。IoT は、リスク軽減のためにブロックチェーンが必要だ。

3Dプリンターについて言えば、 ブロックチェーンは二重使用防止のために活用でき、それによりこのテクノロジーの真の潜在性が実現されて、ただ「モノ」をプリントすることからユニークで特別なアイテムや知的財産を保存・プリントすることまでできる。端的に言えば、ブロックチェーンは、他のテクノロジーやその一部がブロックチェーンの手助けをするのにも役立つのだ。

ブロックチェーンに関して私がここで示したユースケースについては、Don Tapscott 氏による著作『Blockchain Revolution(邦題:ブロックチェーン・レボリューション)』が詳しいのでお勧めしたい。私のインスピレーションのほとんどは、この本からもたらされた。

【原文】

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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