インド・テック業界の起業成功者Nandan Nilekani氏が1億米ドル規模のファンドをローンチ、時価総額1億米ドルの壁を前に伸び悩むスタートアップを支援

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Fundamentum 共同設立者の Sanjeev Aggarwal 氏と Nandan Nilekani 氏
Photo credit: Fundamentum.

Merriam-Webster の辞書によれば、「fundamentum」とは、「論理的根拠または支配原理」を意味する。馴染みのある形容詞「fundamental」はこの言葉から派生したものだ。インドの工科大学では、あれこれの原理(fundamentals)に関する本を学生たちは持ち歩いており、そこでは「funda」と略して言うことの方が多い。

本日(7月4日)、スタートアップ向けの新たなグロースステージファンドがインドでローンチされた。その名は The Fundamentum Partnership。この名前にも論理的根拠があるというわけだ。世界有数の IT 企業 Infosys の共同設立者である Nandan Nilekani 氏が、ベンチャーキャピタル業界で長年投資に携わってきた Sanjeev Aggarwal 氏と共同で、この1億米ドルの新ファンドをローンチした。初期出資金は2億米ドルまで拡大する可能性もある。

この新ファンドの「funda(原理)」は、すでにプロダクトマーケットフィットを達成し、拡大に向けて勢いがついてきたばかりのスタートアップを支援することにある。そして、その目標は、インドが抱える問題の解決に取り組むか、もしくはインドの優位性を活かしてグローバル企業にサービスを提供する、持続可能性の高いテック企業の構築を支援することである。各社への投資規模は1,000万米ドル〜2,500万米ドルとなる予定。

Nilekani 氏は6人のメンバーと共に1981年に Infosys を共同設立した。2000年代に入るとインドは IT サービスが最も多く集まってくる地域となり、それを目の当たりにした同氏は Infosys の CEO 職を辞した後、積極的にテックエコシステムに参加するようになった。Aadhaar(アドハー)と呼ばれる、インド国民一人ひとりに固有の ID ナンバーを割り振る政策の実施にあたっては同氏が指揮をとり、これまで10億人以上に ID ナンバーが配布されている。また、彼はスタートアップに投資を行うエンジェル投資家でもある。

Nilekani 氏は次のように語る。

インドの起業家がインド特有の問題をどのように認識し、どのようにテクノロジーを利用してそれらを解決するのか、非常に楽しみながら観察してきました。以前からインドは驚くほど起業家の人材に恵まれており、このプラットフォーム「Fundamentum」の試みによって、どのようにすれば彼らの成功を大きなものにできるかが分かるでしょう。

同氏は今後、スタートアップへの直接投資からは離れて、Fundamentum の候補者選びと彼らに対する「リーダーシップや組織開発、スケーラブルなテクノロジーアーキテクチャの構築、資金調達や無機的成長といった転換点における舵取り」の指導に集中していく予定。業界の慣例に反し、Nilekani 氏も Aggarwal 氏も手数料やファンドの運営による成功報酬は受け取らないという。

スタートアップからスケールアップへ

Nilekani 氏のパートナーである Aggarwal 氏は、2004年にビジネス処理企業 Daksh を IBM に売却した後、ベンチャーキャピタルの Helion を共同設立した。Aggarwal 氏は引き続き Helion の経営にも携わっていく予定で、今後は掛け持ちすることになる。

Aggarwal 氏は次のように説明する。

インドはスタートアップ大国として認めらるようになりましたが、スケールアップに関してはまだ実績を残せていません。10年前は Helion で、インドにおける「スタートアップ」エコシステムの構築に取り組んでいました。現在は Fundamentum で、切望されている「スケールアップ」エコシステムの構築を支援していきたいと考えています。

Fundamentum は、インドのエコシステムからテック業界のベテランや起業家をメンターや投資家として招く予定。

共同設立者の中にはすでにスタートアップシーンに携わっている者もいる。Kris Gopalakrishnan 氏と S.D.Shibulal 氏は、Infosys の幹部である Ganapathy Venugopal 氏と Srinath Batni 氏と共に、アーリーステージにおける資金調達でスタートアップをサポートするアクセラレータ Axilor を共同設立している。Narayana Murthy 氏と K.Dinesh 氏は自己資金による投資を行い、Infosys の元 CFO である Mohandas Pai 氏も積極的に投資を行っている。

しかし、Fundamentum は、インドのエコシステムにおける重要なミッシングリンク、すなわち、より多くのスタートアップが時価総額1億米ドルの壁を乗り越え、後に続く者たちに手本を示すことができるような資金調達構造および支援構造を見出すことで、エコシステムを次の段階へと引き上げようとしている。iSPIRT の共同設立者で多くの実績を持つエンジェル投資家でもある Sharad Sharma 氏は以前、Tech in Asia とのインタビューの中で、インドで設立されたスタートアップの内でバリュエーションが1億米ドルに達する見込みのある企業は極々わずかであることを指摘している。

彼はこう語る。

エコシステムが脱出速度を得るためには、最低限の成功が必要となります。

Tesla の CEO、Elon Musk 氏は「第一原理に基づいて思考する(to reason from first principles)」という信念を持っている。インドのスタートアップが小さなイノベーションではなくディスラプションを生み出せるようにするための支援に集中する Fundamentum は、Elon Musk 氏の考えを実践しているとも言える。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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