貿易や国際物流をクラウドで最適化するZenport、グリーベンチャーズとジェネシア・ベンチャーズからシード資金を調達——オープンβ版を公開

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貿易や国際物流業務を最適化するクラウドプラットフォーム「Zenport(ゼンポート)」を開発・運営する Zenport は10日、シードラウンドでグリーベンチャーズジェネシア・ベンチャーズから資金を調達したと発表した。調達金額は明らかになっていないが、数千万円程度とみられる。これは Zenport にとって、2016年に実施した DG インキュベーションからの500万円の調達に続くものだ。今回の調達とあわせ、同社は4月にクローズド版としてリリースした Zenport を、オープンβ版として公開したことを明らかにした。

Zenport は、エンジニアである加世田敏宏氏(現 CEO)らにより、2015年7月に設立(創業時の社名は、Sendee)。創業当初は、Ethereum 取引所やブロックチェーンを用いた真贋証明サービスなどを開発していたが、2016年に Open Network Lab 第12期参加中、現在の事業にピボットした(デモデイ直前のピボットだったため、デモデイには登壇しなかった)。かねてからブロックチェーンを活用したアプリやサービスの開発に傾倒していた同社だが、「国境を超えた取引活動では、どんな国も国際機関も担保や保証ができない(加世田氏)」ことから、貿易や国際物流こそ、ブロックチェーンの強みを最も活かせる分野と考え、Zenport の開発に至った。

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Zenport のプラットフォームでは、クラウド上で輸入業者(発注側)・乙仲(海運貨物取扱業者、フォワーダー)・輸出側業者(受注側)をつなぎ、発注側のユーザは、どの乙仲を使うか(および、どの物流会社を使うか)、どの海外業者から輸入するかなどをオンラインで自在に選択できる。荷物の運搬状況はコンテナに備わった GPS と連携して捕捉できるほか、通関手続の進捗状況なども把握が可能だ。

Zenport のスクリーンショット(クリックして拡大)

加世田氏らが実現しようとしているのは、ブロックチェーンを用いた「貿易の民主化(democratizing trade business)」だ。このワンフレーズだけでは意味がよくわからないが、Zenport が今後実現しようとしているサービスを見れば、その一端が明らかになる。

  • フェーズ1………Cloud: 貿易管理クラウドソフトとしての「Zenport」を提供、貿易の取引データを収集
  • フェーズ2………Analytics: 集めた取引データをもとにビッグデータ分析し、ユーザに最適な輸送手段やサプライヤを紹介
  • フェーズ3………Marketplace: 海上輸送保険など付随サービスの提供、新規サプライヤの紹介を強化
  • フェーズ4………L/C 決済取引の支援と、それに関連した融資機能の提供
  • フェーズ5………ブロックチェーンによる決済手段の提供

国際貿易においては、L/C 決済(Letter of Credit、信用状決済)という手段を取ることがよくある。これは、いわば C2C 取引おけるエスクローのようなもので、銀行に間に入ってもらうことにより、取引の安全性を高めようというものだ。ただ、L/C 決済は手数料がかかったり書類の到着に時間がかかったりすることから、受発注の両サイドに一定の信頼関係がある前提で、T/T 決済(Telegraphic Transfer、電信送金決済)が増える傾向にもある。

十分な信頼関係がまだ成立していないサプライヤが相手だったり、自分が L/C 決済をはじめとする貿易特有の業務知識を持っていなかったりしても、安心して取引が行える環境を確立する上で、中央集権化しない状態で情報の真正性を担保できるブロックチェーンは、格好のテクノロジーと言える。前出のプランの中で、フェーズ4〜5 までの機能を Zenport が提供できるようになれば、商社でも華僑でもない小規模事業者が、(個人輸入とかではなく)ビジネスベースで貿易取引を行えるようになるわけだ。

この分野には、先ごろシード資金調達を発表した「Shippio」運営サークルインのほか、海外をみてみると Flexport(デジタル版フォワーダー)、GizTixShipwise(物流会社やフォワーダーのマッチングプラットフォーム)などが存在するが、ロジスティクスまわりだけでなく、今後サプライヤの紹介やマッチングを提供していくという点で、Zenport はより一気通貫したプラットフォームを目指していると言えるだろう。

Zenport はサービス開発当初から国際展開を念頭にしており、加世田氏以外のメンバーは、アメリカ・台湾・スペイン・フランスなど、世界中から集めた人材で構成されている。同社では今回調達した資金を使って、日本国内でのクライアント数の拡大に注力するとしている。

前列左から:湊雅之氏(Zenport コンサルタント)、加世田敏宏氏(Zenport CEO)、Kevin Nguyen 氏(Zenport エンジニア)、河野優人氏(ジェネシア・ベンチャーズ アソシエイト)
後列左から:天野雄介氏(グリーベンチャーズ 代表取締役社長兼パートナー)、Chiu Neo 氏(Zenport エンジニア)、田島聡一氏(ジェネシア・ベンチャーズ ジェネラルパートナー)

以下は、投資家からのコメント(いずれも、原文ママ)。

グリーベンチャーズ 代表取締役社長兼パートナー 天野雄介氏:

国内の輸出入を合わせた貿易総額は約150兆円と、過去30年で約3倍に成長をしている巨大市場。一方で、貿易の現場は荷主、フォワーダー、船会社、通関業者等々、多くの業者が電話やメールを主体とした手続きや管理をする等、オンライン化による変革の余地は非常に大きいと考えています。今回グリーベンチャーズは、貿易市場の可能性やそこにチャレンジする Zenport 社の加世田社長とそのチームに魅力を感じ、同社を支援することを決めました。同社の長い航海はまだ始まったばかりですが、今後業界にとってなくてはならない存在になれるよう、弊社も同じ舟に乗り末永く応援していく所存です。

ジェネシア・ベンチャーズ ジェネラルパートナー 田島聡一氏:

輸出入業者やフォワーダー間の取引は、未だに FAX やメールなど極めて非効率なやり取りが行われており、SaaS を活用して生産性を上げる余地が十分にあると考えました。また貿易は、取引額が世界で1,800兆円、日本だけでも150兆円に達する、金融取引としての巨大なマーケットでもあります。この金融マーケットの変革に、ブロックチェーンなどの先端テクノロジーに精通した加世田さんと共にチャレンジしたいと感じました。

<参考文献>

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