〝発電した人の顔が見える〟みんな電力、シリーズAで1.8億円を調達——SMBC-VC、みずほキャピタル、横浜キャピタル、高野真氏が参加

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みんな電力 創業者 兼 代表取締役の大石英司氏
Image credit: Masaru Ikeda

新電力事業(PPS、Power Producer and Supplier)を展開するスタートアップ、みんな電力は27日、シリーズ A ラウンドで1億8,000万円を調達したことを明らかにした。このラウンドに参加したのは、SMBC ベンチャーキャピタルみずほキャピタル横浜キャピタル、投資家の高野真氏が率いる MT パートナーズ。同社では調達した資金を用いて、発電事業者と需要家をつなぐクラウド型電力 P2P プラットフォーム「ENECTION(エネクション)」を機能強化するとしている。

みんな電力は2011年、凸版印刷でデジタルコンテンツ流通事業「ビットウェイ」(2005年に凸版印刷から事業分社化、2013年に出版デジタル機構に事業譲渡)を起案した大石英司氏(現在、みんな電力代表取締役)が設立。2016年4月の電力小売完全自由化後、一般的に需要家は価格比較により新電力を選んでいるのに対し、みんな電力では発電した人の顔、発電した方法がわかるプラットフォームを構築し、ユーザに電源(発電事業者)を選んでもらえる環境を提供している。スーパーの店頭で「どこの誰が作った野菜か」を確かめて買えるフードトレーサビリティの感覚に似ているかもしれない。

ある日、有楽町線に乗っていてケータイの電池が今にも切れそうだったとき、ふと目の前を見たらソーラーキーホルダーをカバンにつけた女性が女性が立っていたんです。このおねえさんの作っている電気を買うようなことができたらいいなぁ、と、そしたらこの人も喜ぶなぁ、と思ったんです。(中略)

そこで、電気って誰でも簡単に創れるんだ、って気づいた。例えば、プロレス団体に発電所を作る手伝いをしてもらって、ファンに「オレが作った電気を買ってくれ」とか。そうすればファンの人たちは買ってくれるんではないかと。(大石氏)

実際に、音楽プロデューサーの小林武史氏、櫻井和寿氏(Mr. Children)、坂本龍一氏の3人が立ち上げた NPO である ap bank の運営する木更津のメガソーラーで発電された電力は、みんな電力に供給されており、彼らの考えに賛同するファンらが電力を購入しているのだそう。

発電所(発電事業者)によっては、電力の購入代金に加えて応援のための寄付(100円)を投げ銭できたり、電力の産地(発電所)を見に行くツアーが組まれたり、発電事業者が農業や酪農を営んでいると、野菜やヨーグルトがもらえたり、電力を軸としてさまざまなコミュニティ活動が発電事業者と需要家の間で繰り広げられている。大石氏は、このような活動が地方創生にも一役買うのではないかと期待している。

企業にも、電力のトレーサビリティが求められる時代へ

みんな電力が開発した発電する巻物「solamaki(ソラマキ)」。カバンなどに貼り付けて、スマートフォンの充電などに利用できる。
Image credit: みんな電力

2019年は、ソーラー発電においては一つの山場になるようだ。政府が主導で進めてきた家庭用太陽光発電システムの固定価格買取制度(FIT)による買い取りが終了し、ソーラー発電による電力の買取価格が大幅に下落すると見られるからだ。

しかし大石氏はこれを商機と見ている。現在、多くの新電力は日本卸電力取引所(JPEX)という発電事業者のマーケットプレイスから電力を調達しているが、みんな電力の場合「P2P プラットフォーム」と前述したように、発電事業者から電力を直接調達・購入しているからだ。FIT 終了後には JPEX 周辺では買い取られられない電力があふれる一方、みんな電力ではあふれた電力をも買い取り需要家に届けることで、さらなる価格競争力が打ち出せるのではないかと、大石氏は展望を語る。

時代も、みんな電力にとって追い風だ。世界的企業116社が参加する100%再生可能なエネルギーでの事業運営を目指すイニシアティブ RE100 の周辺では、企業が本当に再生可能なエネルギーを使っているかどうかを監視する Carbon Disclosure Project(CDP)という民間活動が立ち上がっており、企業がどのような電力を使っているかを投資家にレポートし、その結果如何によって株価が上下するという事態まで起きているのだ。結果として、RE100 に参加する企業の中には調達元の新電力に対し、電源証明(どの場所で、どのような手段で発電されたか)をつけるように求めるところも現れ始めた。

実際のところ、みんな電力でもアップルストア銀座が入居するサヱグサ本社ビル、世田谷区の区立保育園、長野県、神奈川県など、個人需要家以外への電力供給にも拍車がかかっている。現在のところ、みんな電力の供給エリアは東京電力パワーグリッドがカバーする首都圏管内に限られるが、発電事業者と潜在需要家の数が増えれば、全国でサービスが展開することが期待される。

この分野では2014年に設立されたオランダ拠点のスタートアップ Vandebron が、昨年200万ユーロを調達している。

<参考文献>

みんな電力が帽子ブランド「CA4LA(カシラ)」と共同開発した「発電する帽子」。CA4LA 店頭などで受注生産販売。
Image credit: みんな電力

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