クラウドキャスト、エムティーアイから1億円を資金調達——経費精算アプリ「Staple」の拡販、AI技術やフィンテック事業で連携へ

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左から:エムティーアイ 常務取締役 松本博氏、クラウドキャスト 代表取締役 星川高志氏

経費精算アプリ「Staple(ステイプル)」や「bizNote Expense(ビズノート・エクスペンス)」を開発するクラウドキャストは21日、モバイルコンテンツ等大手のエムティーアイ(東証:9438)から1億円を調達したことを明らかにした。クラウドキャストにとっては、2015年11月に実施したシリーズ B ラウンド(調達額非開示、数千万円と推定)、2014年に実施したシリーズ A ラウンド(調達額非開示)、2013年5月に実施したシードラウンド(調達額2,500万円)に続くものだ。公表されている情報を総合すると、クラウドキャストの創業以来の資金調達総額は2億円程度に上るとみられる。

エムティーアイとクラウドキャストという2つの社名を聞いたとき、この2社の間のシナジーが容易に想像できた読者は、相当な業界通と言えるだろう。ガラケー時代から music.jp やルナルナといった月額課金制のコンテンツサービスで名を馳せたエムティーアイだが、スマホシフトはもとより、キャリア自らのコンテンツサービス参入やコンテンツサービス無料化の波に押され、近年では月額課金サービスの有料会員はピーク時の半分ほどにまで減っているという。

そこでエムティーアイが最近力を入れているのは、異業種の買収や出資を伴う提携を含んだ事業の多角化だ。携帯販売ショップ向けのリアルアフィリエイト事業の展開のために作り上げた全国の営業拠点を武器に、企業や自治体向けのヘルスケアサービスやフィンテックサービスの販売展開にも力を入れているという。数あるサービスの中でも、自治体向けの電子母子手帳サービスは、ワクチン接種による乳幼児の事故に不安を持つ母親からの強い支持により、全国で導入が相次いでいるそうだ。

エムティーアイがフィンテックに寄せる関心の高さの表れとしてわかりやすいのは、2016年12月に実施したクラウド型認可サービス Authlete への出資・関連会社化と、2010年11月に実施した Automagi(当時、Jibe Mobile)の連結子会社化だろう。これらを受けた最近の動きとしては、Automagi が持つ領収書の画像から精緻に経費精算に必要な情報を読み取る AI 技術を使って、エムティーアイは今年6月、領収書読み取りアプリ「FEEDER(フィーダー)」をリリースしている。また、今年7月からは常陽銀行と共同で、スマートフォンを使った口座直結型決済サービスの PoC をスタートし、目下、常陽銀行内で行員によるヤクルトの購入に利用されている。これらのプロジェクトを通じて獲得した知見は、エムティーアイが準備中の決済サービス「MTI-SmartPay(仮称)」の開発に生かされることになるだろう。

クラウドキャストは、今回の調達を通じたエムティーアイとの関係強化には、次の3つの意図があるという。

  1. エムティーアイが持つ営業ネットワークを活用した、企業への Staple の拡販……クラウドキャストがスタートアップや中小企業ををターゲットにしているのに対し、エムティーアイは比較的大きな企業への営業力が強い。地方における営業展開も期待できる。
  2. Automagi が持つ AI 技術……経費精算の自動読み取り技術の Staple への応用。Automagi は自動読み取りを API 提供しており認識精度が高いので、クラウドキャストはこの部分機能の技術開発にリソースを割くことなく、本来の Staple の UI/UX 改善や機能向上に集中することができる。
  3. フィンテック分野における共同事業展開……エムティーアイが持つヘルスケア事業の既存顧客層が、フィンテック事業における潜在顧客層とオーバーラップしている。エムティーアイは準備中のフィンテックサービスの、クラウドキャストは Staple のユーザとして、この層をターゲットに据えることができる。

特に3つ目の共同事業展開にかける両社の期待は大きい。例えば、日本の法人口座間の送金手数料は、先進国の中でも高い方だ。中小企業などでは、オンラインバンキングでの送金手数料が割高との理由で、未だに経理担当者が ATM に並ぶケースが見受けられる。割高な手数料の根元的な理由は、日本の金融システムがこれまでに多額のコストをかけて作ってきた堅牢なインフラの上に成り立っているからだが、両社ではいずれはこのような問題を解決するソリューションにも取り組んでいきたいようだ。

エムティーアイがフィンテック分野で取り組み始めたサービスと、クラウドキャストが提供する Staple は、本質的には、企業のキャッシュフローを改善しようという共通課題にフォーカスしている。ただし、フィンテックサービスが広く認知されインフラとして機能するには、ユーザを面として取りに行く必要があり、営業力を持つエムティーアイとクラウドキャストが組んだ理由はそこにあるようだ。

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