東大女子が世界8カ国を巡って開眼した「アプリ開発」の道ーー隠れたキーマンを調べるお・口コミコスメアプリLIPS松井さん

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AppBrew取締役の松井友里氏

編集部注: 「隠れたキーマンを調べるお」は、国内スタートアップ界隈を影で支える「知る人ぞ知る」人物をインタビューする不定期連載。毎回おひとりずつ、East Venturesフェローの大柴貴紀氏がみつけた「影の立役者」の素顔に迫ります。

ティーン向けのコスメ口コミアプリ「LIPS」を運営する東大発スタートアップAppBrew。その共同創業者で「LIPS」の発案者でもある取締役の松井友里氏。アメリカで育ち、帰国して東大に入学。世界を巡ってスタートアップを取材するなど勢力的に活動し、AppBrewを共同創業。これまでの生い立ちや想いなどを伺ってきました。

大柴;本日はよろしくお願いします!ところで海外での生活が長かったとお聞きしましたが。

松井:アメリカのニューヨークにいたんです。7歳から18歳までいました。

大柴:アメリカでは日本人学校に通っていたのですか?

松井:いや、現地校です。

大柴:そうなんですね。じゃあ英語はもうバリバリ。

松井:妹ととは英語で会話していました。家族とは日本語です。

大柴:なるほど。アメリカでの生活はどのようなものでしたか?

松井:友達がそんなにいなかったんですよね(笑)。いわゆる「オタク」でした。アニメを見たり、ネットをしたり。pixivやニコニコ動画、あと「こえ部」ってサービスがあって。これらのサービスはかなり利用していました。

大柴:日本のネット好きと変わらない生活(笑)。

松井:そうですね。匿名でのやり取りが良かったのかもしれません。ネットにはそういう空間があって、心地良かったです。

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松井さんが発案した口コミコスメアプリLIPS

大柴:そんな生活を経て、日本に帰国し、大学に入るわけですが。なぜ東大を選ばれたのですか?

松井:当初は美術系に興味があって、美大を受けようかなって思っていました。ただいろいろと考えていくうちに「センス無いかも」って思ってきてしまって。自信が持てなかったし、食べていくのが大変そうだな…って思ってしまって。それで一般の大学にしようと思い、東大に入りました。

大柴:「東大に入りました」って簡単に言うけど、なかなか入れないっすよ(笑)。大学に入学してからのことをお聞きしたいです。

松井:はい。大学入ってすぐに勉強に飽きてしまったんですよ(笑)。それで夏にASHOKAでインターンをすることにしたんです。友達に誘われたのがきっかけなんですが。新しいことに挑戦したかったので、やってみることにしました。

大柴:ASHOKAというのは?

松井:ASHOKAは「世界最大のソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)のネットワーク」で、世界各地に拠点を持っている団体です。そこで「社会起業」っていうものがあるんだなって知り、興味を持ちました。

大柴:松井さんはその時に「解決したい社会課題」ってあったのですか?

松井:端的に言うとメンタルヘルス関連です。根本的に人間が病んでしまうことを解決するのは医学ではないのではないかという仮説を持っていて、それを実証解決する取り組みをしていきたいと考えていました。

大柴:現代においてメンタルヘルスの問題って数多く出てきてますし、ストレスチェックの義務化など企業においてもその取り組みが進み始めていますね。でも既存のものは僕自身も不満足というか、課題しかないなぁと感じています。

松井:そうですね。そこには課題があるなぁと悶々としてたんですが、そんな時にあるIT企業が主催する学生向けイベントに参加したんです。仲さん(ウォンテッドリー代表取締役CEOの仲暁子氏)が講演するというイベントで、友達が熱烈に仲さんのファンだったんです(笑)。でも彼女、そのイベントに参加できなくなってしまい、「私の代わりに仲さんにコレを渡して!」って手紙を預かったんです(笑)。

大柴:なんかすごい(笑)。

松井:私はその友達の代理でそのイベントに参加して、仲さんの話を聞いたんです。そうしたら、仲さん、めちゃくちゃカッコイイ!って私も感じてしまったんです(笑)。

大柴:仲さんって、なんかすごいオーラありますよね。カッコイイなって僕も初対面の時に思いました。で、手紙は?

松井:渡しました(笑)。友達から預かった手紙を渡した時に、仲さんから「君、意識高いの?うちでインターンやらない?」って誘って頂き、後日実際にメッセを頂きました。正直めちゃくちゃ嬉しかった(笑)。

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大柴:おー。それでインターンはされたんですか?

松井:はい。ウォンテッドリーでインターンすることになりました。

大柴:初めてのスタートアップ、どうでしたか?

松井:実際に入ってみて、今までやってきた事とはスケールの仕方やスピード感が全然違いました。圧倒されました。エンジニアの近くの部署だったんですが、エンジニアがまたすごくて。自分でもコードを書いてみたい!って思うようになりました。

大柴:ウォンテッドリーではどのくらい働かれたのですか?

松井:約1年くらいです。その後は妹と二人で「世界8ヵ国を巡って、各地のスタートアップを取材し、ブログを書く」という事をやりました。クラウドファンディングで資金を募って、80万円ほどの資金を調達しました。その資金で3ヶ月間、東南アジア、アメリカを巡りました。

大柴:すごい!実際に何社くらい取材されたのですか?

松井:70社ほどです。とても良い経験ができました。

大柴:なるほどー。そもそも何でその企画をやろうとしたんですか?

松井:ウォンテッドリーで社内ブログを書いていて、比較的好評だったというのもあるのですが、私はウォンテッドリーでスタートアップの素晴らしさを感じましたし、そういうスタートアップは世界中にたくさんあるので、それらの企業を得意な英語を活かして取材し、日本語で発信できたら、スタートアップを知らない日本の大学生などにも熱気を伝えることができるんじゃないかと考え、実行してみることにしました。

大柴:なるほど。面白いですね。8ヵ国を巡ったということですが、印象に残る国、都市はありますか?

松井:ジャカルタは「ここには住めそうだなぁ」と思いました。あとはイスラエル。イスラエルは良かったです。環境も気候も良かったです。

大柴:イスラエルはIT先進国として有名ですよね。ただ日本人にとっては少し危険な地域という印象もありますが。

松井:そうですね。実際にイスラエル人の起業家と話した時に「イスラエルでは起業家マインドを持つのは一般的なことで、それはなぜかというと、いつ死ぬかわからないからやりたいことをやろう、という気持ちからきている」と語っていて、とても印象深かったです。

大柴:なるほど…確かにそうですね。

松井:また、インドやインドネシアを訪問して「これはやっぱりスマホの時代だ」と感じ、自分でアプリを作れるようになりたいなと思ったんです。それで帰国後は知人が運営してたアプリの制作をお手伝いすることになり、そこでRailsエンジニアとして育ててもらいました。その頃に深澤(AppBrew代表取締役の 深澤雄太氏)から「抱えてる案件が忙しくて手が回らないので手伝って」と言われたんです。

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写真左:AppBrew代表取締役の 深澤雄太氏

大柴:深澤さんとは元々面識はあったのですか?

松井:そうですね。授業で会ったりはしていました。

大柴:最初の印象って?

松井:哲学の授業だったんですが、私の友達が彼と話をしていて。「きっと哲学オタクなんだろうな」って思ってたら理系で、プログラミングをやっていると聞いて、面白いなと。哲学も詳しかったんですが。

大柴:(笑)

松井:深澤はフリーランスとしてシステム開発を受託していて、そこで私も手伝うことになりました。

大柴:まだ会社では無かったんですね。

松井:はい。受託が一旦一段落した時に「自分達のサービスをやりたいよね」ってなって。気づいたら登記してて、気づいたら私も取締役になっていました(笑)。

大柴:その辺は深澤さんが全部?

松井:そうですね。基本は全部いつの間にかにやっていました。

大柴:AppBrewを立ち上げてからのお話を伺いたいんですが、現在のメイン事業である『LIPS』をリリースするまでにいくつかのプロダクトを世に出したそうですが?

松井:はい。何個も作ってリリースしました。すぐに閉じたものもあります。いろいろ試行錯誤をしている中で作ったのが『LIPS』です。元々私がTwitterやInstagramなどでコスメの情報を収集し、参考にしていました。既存のサービスや検索などではわからない「リアルな声」を反映したコスメサービスがあったら良いなぁと思っていて。それで作ろうってなったんですが、最初は社内でもあまり評価高くなくて(笑)。

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大柴:そうなんですね(笑)。

松井:でもニーズがある事はわかっていたので、そのまま開発を進め、今年1月にリリースしました。現在は40万ダウンロードくらいされています。本格的なプロモーションはこれからですね。

大柴:なるほどなるほど。プロダクトに関しては松井さん、開発に関しては深澤さんっていう役割分担だとは思うのですが、松井さんから見て深澤さんってどういう人ですか?

松井:技術力はもちろんの事、自分には持っていないたくさんのものを持っている人だなって思っています。技術力は知識が広く、深いんです。それだけじゃなく、営業もファイナンスもマーケティング戦略もできるのでオールラウンダーです。私は目の前の事で頭がいっぱいになるタイプで、目の前に現れた問題を都度解決していく感じ。その時に必要なことをその時に覚える。深澤はもう少し広い視点で今やることに落とし込む。そういうタイプです。

大柴:なるほど。良い役割分担ですね。これから会社も大きくなっていくと思いますが、どういう人達と一緒に会社を作っていきたいとお考えですか?

松井:数値に落とし込んで、数値で改善していく。自分のこだわりや先入観ではなく、数値で物事を語れる人達と一緒にやっていきたいと思っています。規模が大きくなればなるほどそういう考えが必要かなって思っています。

大柴:なるほど、確かにそうですね。松井さんの野望というか、今後の展望というか。どういうことをやっていきたいですか?

松井:そうですね、まずは『LIPS』をもっともっと成長させたいというのが当面の目標です。たくさんの人に使ってもらえるサービスにしていきたいです。生活の一部になるような、そんなサービスを作っていければと思っています。そのもっと先は…一個人にとって深い悩みを解決できるようなことができたら良いなと思っています。

大柴:良いですね!引き続き頑張ってください!今日はありがとうございました!

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