誰もが「無人レストラン」を出店できる時代へーー全自動サラダ・レストランEatsaにみる外食業界5つの新常識(前半)

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Image by  Eatsa

2018年は、「無人レストラン元年」となるかもしれません。

大手ハンバーガー・チェーン店の「McDonald’s」は、 2,500店舗にデジタル・キオスクを設置して、数千人規模に及ぶレジ業務の自動化に成功 しています。同様に、大手フード・チェーン店の「Pizza Hut」や「TacoBell」、「KCF(ケンタッキー・フライド・チキン)」もオペレーションの自動化を推進しています。

フード・チェーン店の自動化の流れに乗り、2015年に創業され、サンフランシスコに拠点を持つサラダ・レストラン「 Eatsa 」は、他社に先駆けてレストランのほぼ全てのオペレーションを自動化させたスタートアップです。

コンセプトは「超速サービス」(サービスフローの詳細イメージは こちらの動画 から)。店内に入ると注文用のタブレット端末が並んでおり、クレジットカードを通すことで起動します。カードの名義イニシャルが自動で取られ(筆者の場合 T.F )、新規顧客はメールアドレスを入れて、カード情報と連絡先を連携させます。こうして顧客のログイン情報を獲得します。

顧客は今日の気分や、食べ物の好き嫌いに関する幾つかの質問に答えることで、「Eatsa」側が提案してきたサラダ・ボールから好きなものを選ぶことができます。もちろん自分で食材を選んで、サラダ・ボールのカスタマイズをすることも可能です。リピート顧客に関しては、以前来店した際に利用したカードを使えば自動で過去のオーダー・データが出てきて、自分好みのセットを再度注文できる仕組みです。

注文後は、天井のモニターに表示されるオーダー表を見ながら、リアルタイムで自分の注文がどの順番で来るのかをトラッキングできます。準備が整ったら、日本でいうカプセルホテルのような見た目の、ブロック状に積み上げられたフード取り出し口から注文品を受け取れる仕組みです(タイトル画像右側参照)。

オーダーからサーブまで顧客から見える部分は全て機械化されており、店内には顧客が注文に迷った際や、タブレット端末に問題が起きた場合にすぐに対応できるサポートスタッフ数名がいるだけ。調理室も、その大半がロボット運用されています。

非常に効率性の高いオペレーションと、秀逸なサービス・デザインがウケて、 1時間当りの顧客数は300-400人ほど だそうです。オフィス街に店舗を構えていることもあり、筆者が来店したランチタイムには常に20〜30人の行列が並んでいました。

しかし、店舗拠点をサンフランシスコからニューヨークへと拡大していた矢先の2017年10月、 同社は全米7店舗中、ニューヨークとバークレー(カリフォルニア州)にある5つの店舗を閉じると発表 。この舞台裏にはどのような意図が隠されていたのでしょうか?

本記事では「Eatsa」の事例を中心に据えながら、今後の無人レストラン事業の業態変化に関して5つの切り口から迫っていきたいと思います。

1. 無人レストラン技術外販の開始

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Image by  Eatsa

さて、「Eatsa」が実店舗ビジネスの縮小を選んだ理由には、無人レストラン技術の外部販売への戦略変更が挙げられます。

実際、2017年12月にはアジアン・フードチェーン「 Wow Bao 」が、「Eatsa」の無人レストラン技術を使った店舗展開をシカゴで開始。オペレーションプロセスは前述したものと全く同じ。シカゴ店の運用から2か月ほどしか経っていませんが、 顧客の待ち時間が50秒以内に短縮された とのトラクションデータも上がってきています。 待ち時間の業界平均が5分と言われている ため、6分の1に滞在時間を短縮させた結果になります。

「Wow Bao」は全米5都市に展開しており、シカゴ市内には6店舗を構えています。今後12か月以内に「Eatsa」の無人レストラン技術の活用によって、 市内店舗数を2倍の12店舗に拡大する意向を示しています

また、来店して注文するのではなく、 モバイルアプリを使った注文比率を40〜50%にまで向上させる ことも目標に掲げています。モバイルオーダーを利用すれば、顧客の店内滞在時間は50秒よりさらに短くなり、利便性が上がるのは自明です。ちなみに 「Eatsa」サンフランシスコ店でのモバイル・オーダー率が40%である ことから、現実的な数値とみていいでしょう。加えて、「Wow Bao」は、モバイルアプリ施策のために10ドルのクーポンを発行しており、単純計算で1顧客の獲得単価が10ドル前後になるはずです。

「Wow Bao」の事例にみられるように、無人レストラン技術の外販事業は、既存フード・チェーンが店舗数の急拡大へ戦略転換・加速させる大きなきっかけとなります。自社で0からオペレーションを作るより、はるかに低コストで済むことでしょう。

また、自動化することで顧客の利便性が上がったり、モバイルアプリの活用加速に拍車をかけるきっかけ作りにもなります。オペレーションの自動化から顧客のデジタル体験向上まで、一貫したサービスレベルの向上が見込まれるわけです。

外販は始まったばかりですが、技術に国境はありません。「Eatsa」のモデルが黒船として日本を席巻する可能性も十分にあります。

2. AIロボットの活用

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Image by  Miso Robotics

顧客からのオーダーは様々です。「McDonald’s」のように、セット販売されているわけではないので、調理場のロボットにも複雑なオペレーションが課せられます。

「Eatsa」で、具体的にどのようなロボットを開発・利用しているのか公表されていないため、あくまでも推測でしかありませんが、「自動で野菜の種類を見分け、各サラダ・ボールに適切量を詰める専用のロボット」を運用していると考えられます。「Eatsa」で使われているであろうロボットを仮定した上で、他社の類似事例を挙げます。

カリフォルニア州パサデナに拠点を構える「 Miso Robotics 」は調理プロセスの自動化を行うロボットです。2018年から、世界展開しているバーガー・チェーン「 CaliBurger 」と提携してロボット導入を開始する予定です。

「Miso Robotics」はディープ・ラーニングを使ったコンピュータ・ビジョンシステムを用いて、各種食材・調理段階を的確に見分けます。例えば「CaliBurger」で導入された場合、ハンバーガー用の肉が焼けているのかどうか、肉の上に置かれたチーズの焼け具合はどうなのか、他のチキンやハンバーガーに使う食パンの焼け具合は適切かどうかを、それぞれ正確に認識する具合です(活用事例の動画は こちら )。

「Easta」の無人レストラン・システムにも、「Miso Robotics」同様にコンピュータ・ビジョン及びAI技術が搭載されたロボットが活用されている点は、リテール市場のトレンドから見て間違いないといえるでしょう。

加えて、「Eatsa」の強みは、AIロボットの開発から顧客体験の向上までを綺麗にまとめあげている点です。一つ一つの技術やサービス・プロセス開発に特化した企業は数多ありますが、2015年の段階で全てをパッケージ化している点は高く評価されるべきですし、自社店舗ビジネスの展開に限界を感じた時点で、パッケージ外販に舵を切った理由にも納得できます。

後編はこちらから

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