セキュリティ(有価証券)トークンはシード期スタートアップの死の谷を救えるかーー22Xのチャレンジと課題

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左からOHALOのCEO、Kyle DuPont氏と「Freight Roll」のCEO、Jake Koppinger氏

暗号通貨の話題を目にしない日がどんどん減っている。話題の中心は相変わらずテクノロジーの本質からはかけ離れた「Pump & Dump」による一喜一憂だが、まあ流動性やボラティリティの高さはひとつの指標でもあるので否定も肯定もしない。

そしてまたひとつ、判断が分かれそうな案件の取材依頼が届いた。セキュリティ(有価証券)・トークンに関する話題だ。

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)が疑問視される最大の理由は、本来、公開販売や勧誘をしてはならない規制対象の金融商品を「トークンのクラウドセールス」というよく分からないグレーの布を被せて騙し取る輩が後をたたないからだ。

それに比べるとセキュリティ・トークンは潔い。正面から有価証券と銘打ってるわけだから、各国の証券取引委員会に相当する公的機関で承認を受けなければ販売できないし、購入する側もしっかりと個人情報を登録した上でルールに則った売買を求められる「はず」だからだ。

含みを持たせた理由は後述しよう。

22Xがやろうとしていることは、これまでのエクイティの問題を解決してくれる反面、その取り扱いにはいくつかの困難も予想される。(情報開示と注意:筆者は22Xや紹介者と利害関係はなく、また、本稿にてこの金融商品を推奨する意図はありません。購入も一部可能な場合がありますがその際は各国法令をよく確認の上、自己責任にてお願いいたします)

500Startupsに参加する30社への出資相当を商品化したトークン

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まず22Xの紹介をしよう。「Tokenizing Venture Capital」を標ぼうする22Xはいわゆるベンチャーキャピタル・ファンドの名称になる。創設者は自身も500Startups(以下、500)に参加するスタートアップ「Freight Roll」のCEO、Jake Koppinger氏と同じく500のOHALOのCEO、Kyle DuPont氏の2名を中心に30社がプロジェクトに参加している。

22Xの名前は彼らが参加する500の22バッチが由来なのだが、そのファンド自体の運営はSecuritizeという企業がパッケージにしているICOプラットフォームを使っているという話だった。なお、500Startupsとこのファンドは上記以外の関連性はない。(日本法人にも確認したがあくまで彼らのサイドプロジェクト、という認識だった)

ファンドはこの500の22バッチに参加するスタートアップ30社に対して、それぞれ最大10%の株式を引き受ける。ファンドに出資したい投資家はイーサリアムやビットコイン、法定通貨(ドル・ユーロ)でトークンを購入する。

30社の未公開株(それもシード)をまとめたインデックスファンドのようなもの、と言えば理解しやすいだろうか。30社自体は500の22バッチ生なので質については一定基準をクリアしていてその選定にかかる労力がないため、ファンドの成功報酬にあたるキャリーは取らないという設計だった。

最も興味深いのが発行されるセキュリティ・トークンによるリターンの設計だ。パッケージ満期時の配当にあたるのがトークンの買い戻し(コインバイバック)で、投資先のパフォーマンスに応じた額で出資者のトークンを買ってくれるということだった。

そしてもうひとつ大きな特徴となるのが、取引所での売買になるだろう。トークンはブロックチェーンベースで開発されており、資産履歴が残ることから他人への転売が可能になる。平たく言えば、暗号通貨の取引所がこの22Xトークンを扱えばすぐに売ることができる、というわけだ。

さて、実際にそんなことできるのだろうか?

セキュリティ・トークンを国内で売買する壁

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類例と合わせて少し話を整理しよう。22Xのセキュリティ・トークンは次のような設計になっている。

  • 22Xはファンドを通じて500Startupsに参加する30社に同一評価で出資
  • ファンド成果報酬のキャリーはなし
  • 投資家はファンドの発行する22Xトークンを購入して出資
  • リターンはファンドによるトークンの買い戻し(コインバイバック)もしくは投資家の私的な売買

引っかかるのはこのセキュリティ・トークン型のファンドを公的機関が認めたのかという点だ。この件についてKyle氏は少なくともSEC(米国証券取引委員会)とのやりとりで、問題ないという回答をもらっていると説明していた。

ただよく聞くと、これはあくまで「スタートアップに投資するファンドがその資金を適格投資家から集めてその代わりにトークンを発行する」という部分までらしく、このトークンを取引所で売買するのはあくまで個人の責任に委ねられるということのようなのだ。

しかし通常、投資家は当然ながら流動性の高い暗号通貨の取引所でこのトークンが売買されることを期待してしまうだろう。彼らもそこは分かっていて、いくつかの取引所でこの22Xトークンを扱う話を進めている、という説明はしていた。ただ、その場合はその取引所(正確には22Xトークンも含めて)各国の証券取引委員会に該当する機関等が承認する必要がある。

数人の識者に日本で取り扱う場合の方法を聞いてみたが、単純に有価証券型のトークンを販売するだけであれば、例えば株式型のクラウドファンディングを提供しているエメラダのような事業者が販売するというのがひとつ思いつく。ただ、取引となると株式の私設取引所(PTS)でやりとりするのが相当だろうというアイデアも聞いた。まあ、つまり株式と同じ扱で、米国では公開前の未公開株を取引するSecondMarket(2015年Nasdaqが買収)のような取引所もあるので、全く新しい概念というわけでもない。

いずれにせよ、セキュリティ・トークンはこのトレードの流動性が魅力なわけであって、同時に規制が厳しく整備されている部分でもある。本来ブロックチェーンによって資産の移動が容易だったはずの箇所を、ルールでがんじがらめにしてしまえば魅力は薄れる。一方で投資家保護の観点では、明日規制で禁止されるような取引所でトレードするわけにもいかない。

当たり前だが、このトレードオフをどう考えるかがポイントになるのだろう。22Xの説明では、今回のトークンセールスは各国の適格投資家相当に対する人だけを対象にし、同時にオンラインでのセールスは一切やらないということだった。

セキュリティ・トークンがスタートアップ投資に与える影響

指摘されるであろうポイントを書き連ねたが、それでもこの手法には未来を感じる。特に500やY Combinatorなどのようなプログラムですら、手がけるスタートアップには失敗がつきものだ。プログラムの次を担う投資家サイドにも結構な覚悟を求められる。

22Xのセキュリティ・トークンはこのリスクを、まず500に参加したある一定レベルのスタートアップ30社で分散し、さらにそれを共通トークンとして販売することで外部ネットワークも活用して分散化させようとした。購入者の資産管理、透明性はブロックチェーン技術の得意とするところでもある。

もちろんこれまでにも未公開株のリスクをクラウドの力で解決しようとした例はあった。株式型クラウドファンディングの手法を使ったAngelListのシンジケートはその一例だし、ブロックチェーンベースであればFunderBeamがまさにそれだろう。FunderBeamは22Xの抱える最大の課題となる取引所自体を自分たちで持っている。(ここの比較はまた別の機会に)

今回、22Xへの取材はファンドを組成している途中ということもあってあまり詳しい情報は開示されなかった。本文でも一部、ぼやかした表現にしている箇所もある。その点はご了承いただきたい。

実際にファンドが動き、また販売されたトークンが実際に取引されることになった際には続報としてお伝えしたいと思う。

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