人口も賃料も上昇が続くベルリンで続々とオープンするスタートアップスペース、課題は地元住民との調和

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先日オープンしたFactory、クロイツベルクキャンパスのカフェエリア
Credit: Yuki Sato

欧州のスタートアップハブ都市としての勢いが衰えていないドイツの首都ベルリンで、スタートアップ関連のスペースが増加している。

グーグルが出資したことで数年前に注目を集めたベルリンのスタートアップコミュニティスペースFactory Berlinは、最初にオープンしたミッテ地区のキャンパスから約2年半後の昨年末、2番目のクロイツベルクキャンパスをオープンした。まだ改装工事が進行中の部分も多く残っているものの、すべて完成後は5階建ての14000平方米の広大なスタートアップ関連スペースとなる予定だ。

会員数は2000名に、スタートアップ・企業向けの個室を重点的に提供

Factory クロイツベルクキャンパスの建物
Credit : Yuki Sato

クロイツベルク新キャンパスの特徴だが、ミッテキャンパスとの違いの一つは、スタートアップ・企業向けの個室、いわゆるプライベートオフィスと、10-20名が入るサイズの中規模のミーティングルームが格段に増えている点だ。

もともとミッテキャンパスは、固定席のないオープンデスクスペースが中心で、一部パートナーの大手企業が入っている個室もあるものの、ほとんどは少人数のスタートアップチームやフリーランサーがオープンスペースを利用している状況だった。一方で、既に3つの拠点をオープンさせている米大手のコワーキングスペースWeWorkや、同様に3拠点ベルリンにオープンしているイスラエル資本のMindSpaceの中心的な製品はプライベートオフィスだ。

コワーキングスペースがもつコミュニティ性やオープン性、効率的にオフィスを拡大できる柔軟性を享受しつつ、ある程度のプライバシーと集中できる環境が得られるプライベートオフィスは、資金を調達してこれから成長を加速させたいスタートアップチームや、イノベーションを画策している大企業のチームにとっては利点が大きい。

こうした市場のトレンドと需要を反映させた結果、プライベートオフィスが第二キャンパスでは増えたのではないかと思う。実際、クロイツベルクキャンパスのプライベートオフィスは、続々と予約が入っているようだ。

関連記事:コワーキングオフィス運営「Mindspace」が1500万ドルを調達し、ベルリン市内で拠点拡大へ

Factory クロイツベルクの「ライブラリー」は、静かに集中して作業する部屋
Credit: Yuki Sato

その他、システムもアップグレードされた。会員はFactoryの専用アプリを使って、メンバー専用スペース内のドアを開閉したり、ロッカールームを予約・開閉したり、会議室を予約するなどできる。従来は専用のSlackグループ上のメッセージを通じてなされていた機能が、徐々に専用アプリに移行している。

先日会員になったばかりの知人の話によれば、Factory Berlinのコミュニティメンバーの数は2000名に達したそうだが、コミュニティの規模が大きくなると共にオペレーションの自動化も進んでいる。

プライベートオフィスの充実に加えて、オープンスペースのデザインも進化している。筆者が特に気に入ったのは、こちらの「プレイルーム」。大量のボールが入った「ボールプール」やポッド型の空間で作業ができるエリア、そして卓球台が設置されており、気軽に入ってリフレッシュすることができる。

Factory クロイツベルクの「プレイルーム」
Credit: Yuki Sato

ブロックチェーンスペースにグーグルキャンパス・・・ベルリンでオープン予定のスペース

クロイツベルクキャンパスを見る限り、様々な工夫を凝らして魅力的なスペースにしようというFactory側の熱意が伝わってくる。ちなみに、コミュニティのメンバーになれば、月50ユーロという破格の料金で、Factoryの提供するオープンスペースやオンラインコミュニティ、会議室などといった一連のサービスを利用できるようになる。会員になるには、コミュニティへの貢献が可能かどうかを見られる審査と面接を経なければならないが。

Factoryがここまでスペースに投資をしている背景の一つには、ベルリンでスタートアップ関連スペース市場の競争が加熱している点がある。前述のWeWork、MindSpaceといった大きな資本をもつ企業が進出をしているし、また今後もこうしたスペースは増える見込みだ。

同じくクロイツベルク地区の元郵便局の建物は、ベルリンに本社を置くインターネットインキュベータのロケットインターネットの共同創業者であるザンバー兄弟の1人が購入し、近々ブロックチェーン関連のスタートアップが入居するコワーキングスペースがオープンする予定だ。

関連記事:欧州最大のブロックチェーンハブ都市をめざして、ベルリンで始まるブロックチェーンスペース「Full Node」

また、同じくクロイツベルク地区のもともと変電所として使用されていた歴史的な建物には、グーグルが米国外で7つ目となるグーグルキャンパスをオープンさせる予定である。

地元民の反発もーージェントリフィケーションに対する批判が高まる

とはいえ、こうした動きを歓迎する声ばかりではない。Factoryのクロイツベルクキャンパスの建物も、元々はスタートアップコミュニティとはつながりのなかったフリランサーが使っていた場所であり、彼らが立ち退きを命じられたときもFactoryに対する反発、そしてこうした「スタートアップ投資家」が地元のジェントリフィケーションの原因になっていると、批判が沸き起こった。

特にクロイツベルクは、ベルリンにおけるアンダーグラウンドカルチャーの中心地であり、多くのインディペンデントなクラブやバーがある。ロケットインターネットのザンバー兄弟が所有者となった建物は、賃料の急激な上昇やライブイベントの実施に従来よりも厳しい制限を課したことから、もともとそこでクラブを運営していた人やクラブの利用者からも反発が起きている。

グーグルキャンパスオープン予定地の近くに貼られた、デモを呼びかけるポスター
Credit: Yuki Sato

グーグルキャンパスは今年の8月か9月にはオープンする予定となっているが、今でも近くを歩けば、グーグルキャンパスに反対するデモを呼びかけるポスターがあったりと、地元の歓迎ムードはほとんど感じられない状況だ。

個性的なカルチャーが根付いている場所、スタートアップを立ち上げやすい場所として特に数年前から起業家やエンジニア、クリエイターを惹きつけているベルリンだが、ベルリン外からの人口流入と同時に発生している賃料の上昇、住居不足、カルチャーの対立といったさまざまな問題に対する答えはまだはっきりと見えていない状況だ。

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