ターゲットは孤高な「お一人様」ーー試着室を売場にした、お一人様向けアパレル店舗を展開する「Reformation」とは?

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洋服屋さんの試着室を利用した際、「サイズはいかがですか?」と店員がすぐ外から声をかけてきたりして、購入を急かされた経験はないでしょうか?

サンフランシスコに店舗を構える「 Reformation 」は、このような試着室のコンセプトを変えようとしています。同社は、2009年にロサンゼルスで創業された、環境保全をミッションとする女性向けD2Cアパレルブランドです。これまでの 合計資金調達額は3,700万ドル で、製造からデザイン、企画開発、発送までのほぼ全てのプロセスを自社ロサンゼルス工場で行っています。

高いデザイン性は折り紙付き。 テイラー・スイフトに代表される、数多のセレブ達に愛用されるブランド で、主にインスタグラムを中心に話題となり、根強い人気を誇っています。

ストレスフリーな試着室体験

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「Reformation」が2017年にサンフランシスコでオープンさせた新店舗が話題になっています。同店舗を通じて解決しようとしている課題点は、試着室の利用法及び顧客体験にあります。

たとえば、試着室に持ち込んだ洋服のサイズが違う場合、顧客は別のサイズのものをわざわざ売場に戻って取ってこなければなりません。こうなると、試着を待つ長蛇の列に再度並ぶ手間がかかります。また、セレクトショップでは、店員が付きっ切りで対応することも珍しくないため、試着中にも関わらず、大きな声でサイズや着心地の感想を求めてきます。これでは、購入を急かされるばかりで、適切な購入判断ができなくなりますし、早く決めなければいけない焦燥感にも襲われるでしょう。

「Reformation」のサンフランシスコ店には、商品訴求をしてくる店員はいません。店内に入ると、5つの大型タッチスクリーンが設置されています。展示されている洋服の中で試着したいものがあれば、最寄りの店員に頼んでスキャンしてもらうか、自らタッチスクリーン上で選択します。試着品の選択後には指定の試着室に案内されます。

試着室数は全部で5つあり(サンフランシスコ店の室数)、それぞれの部屋に同じく商品情報を閲覧・選択できるタッチスクリーンが設置されています(詳細は こちらの動画 から)。

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従来の試着室と違うのは顧客が自ら商品を持ち込むのではなく、室内の洋服ダンスを通じて試着品が届けられる点です。選択されたサイズ・柄の商品が、洋服ダンス型の開閉式クローゼットを通じて、顧客に渡される仕組みです。

洋服ダンスは試着室と商品補充担当のいるスタッフルームの両方向から開閉可能。スタッフが商品を洋服ダンスへ詰め込んでいる最中は試着室側から開けることができないので、スタッフと試着室の顧客が直接目を合わせる心配はありません。用意が整えば、タッチスクリーンを通じて知らせが来ます。必要なものをオンデマンドで補充する洋服ダンスの仕組みは、コンビニの商品補充オペレーションに似ているともいえるでしょう。

もし試着した商品が気に入らなかったり、違うサイズを求める場合は、室内のタッチスクリーンを通じて改めて試着品を選択。準備が整えば洋服ダンス内に新しい試着品が置かれています。

試着室内は、自分好みの照明・音楽をかけることができます。各顧客好みの空間にアレンジができて、店員から急かされることもありません。購入したいものがあれば、近くの店員に声をかけて、スマホを使ってキャッシュアウト。アップル・ストアーのようにレジ置き場はなく、スムーズな購入体験を実現しています。

情報開示は大きな購入動機になり得る

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「Reformation」が持つユニークポイントをまとめると2点あります。1つは「製品情報の透明化」です。D2Cアパレルブランド「Everlane」は、同コンセプトを用いた商品展開で有名です。製造過程で、どのような人が関わり、どのくらいコストがかかっているのかを全て消費者に開示することで、企業活動の透明化を図ります。

「Reformation」では、特に環境情報の開示にこだわっています。各商品を製造する際に使用した、環境資源の消費量を、市場平均と比べてどのくらいコストカットしているのかを明らかにしているのです。このような製品情報は、店舗内のどのタッチスクリーンからでも参照できます。

特に20〜30代のミレニアル世代を中心に、製品情報の開示ニーズが高まっています。 こちらのデータ によると、33%の消費者が、社会・環境保全に対して行動しているブランドを好み、92%がこのようなブランド企業に対して好印象を持つと指摘しています。今や積極的な情報開示は、消費者の購買インセンティブの大きな要因の1つにもなっており、「Reformation」の人気の理由にもなっています。

試着室が主役。ターゲットは孤高な「お一人様」

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「Reformation」が持つもう1つの特徴は、試着室における「一人の体験」を最大限まで高めたこと。従来のアパレル店舗では、たくさんの顧客と店員が入り混じる売場が主役になっていました。しかし、「Reformation」は、一人でゆっくりと買い物をして商品を吟味・購入したい「お一人様」層をターゲットに、店舗オペレーションをゼロから再構築しています。その上で、これまで顧客の購入フローでは脇役に追いやられ、時には顧客にストレスを与える場になっていた試着室を店舗体験の中心に据えたのです。

一方、セレクトショップの体験のように、一人一人に合ったパーソナルアドバイスを求める需要も確かにあります。 こちらのデータ では、18〜34歳の女性のうち、18%が他人からのアドバイスをもとにアパレル商品の購入に至っています。特に18〜24歳の女性のうち、12%がパーソナルアドバイザーを求めているとのこと。一方、25-34歳の男性は、18%がパーソナル・スタイリング需要を持つと報告されています。このような、商品選択のステップで最適なアドバイスを与えたり、データを使ってより個人の趣向に合わせた洋服を届ける仕組みで急成長してきたのが、洋服レンタルサービス「Stitch Fix」や「LE TOTE」です。

また、「Reformation」と同様に、実店舗の形態で急速な事業拡大を進めてきた代表的なアパレルブランドが「Bonobos」。同社は、「Apple」が提供するジーニアス・バーのオペレーションと同じく、顧客が事前に予約を入れることで店舗体験を受けられます。各顧客毎にアドバイザーが店舗内を案内してくれて、最適な商品を提案してくれます。少スロット生産を確立するため、店舗に在庫を置かず、購入プロセスはECサイトで行われます。「Bonobos」にとって、店舗はあくまでも展示スペースの役割を持っていることから同社の店舗コンセプトは「ガイドショップ」と呼ばれています。

この点、「Reformation」も同じ店舗コンセプトを導入していますが、ターゲットとしている顧客は、「Bonobos」とは180度違う、自分の価値観・判断基準に沿って購入決断を行う顧客です。両社ともにD2Cの業態を採用し、多くのファンを抱え込んでいます。

「Reformation」の試着室を主役にしたコンセプト店舗は全米8店舗の中でも、2、3店舗の広がりしか見せていません。これは未だ顧客のリアクションを集めているからでしょうが、「Bonobos」の全米店舗数が48に及んでいることから、実店舗数の大きな拡大も期待できるでしょう。

店員のアドバイスを聞きながら商品を選びたい消費者欲求と、一人で考えならがらじっくりと選びたい欲求は相反するもの。しかし、どちらかの利用シーンに特化させ、ユニークな店舗体験設計を通じて、着実にコアファンを獲得しているブランドが登場しつつあることをお伝えしてきました。

日本ではデパートに出店する大手アパレルブランドや、中小規模のブランドを含めて、ほぼ全てが従来の店舗体験を踏襲したものがほとんどでしょう。この点、思い切ってどちらかの消費者趣向に舵を切ることで、新たな市場機会が誕生する可能性は十分にあると考えます。

 

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