中古アパレルECマーケット「ThredUp」が店舗を10倍に増やす理由とは?ーー店舗活用型キュレーション戦略を紐解く

SHARE:

ThredUp_001

<ピックアップ : Online reseller ThredUp plans to open more than 100 stores >

中古アパレル品を売買するリ・コマース(”Re-commerce”)分野は成長市場です。

中古転売市場の49%はアパレル品が占めており、2021年までには年間市場成長率13%を保ちつつ330億ドルまで市場規模が拡大すると見込まれています(2016年度は180億ドルの市場規模)。

中でも「 ThredUp 」は中古アパレル売買市場の主要プレイヤーといえるでしょう。同社は2009年にサンフランシスコで創業され、累計1.3億ドルの資金調達に成功したオンライン中古アパレルマーケットプレイスを運営する企業です。

同社サービスの顧客は、ウェブサイト及びアプリから手軽に中古アパレル品を購入できます。アパレル品の販売者は、専用キットを取り寄せて不要になった品を送るだけで出品プロセスが完了。品分けから販売までの負担作業を全て代行してくれる販売者にとって利便性の高いサービスを提供しています。

ThredUpの強みは高いキュレーション力にあります。毎月200万以上のアイテムが集まりますが、そのうち50%に当たる100万品のみを出品していることから、どんな商品も売り出してしまうP2Pマーケットと差別化を図っています。キュレーション性はUIデザインにも反映されており、ユーザーが撮影した写真ではなく、まるで新品を扱っているような綺麗な写真を使って商品提案を行っています。

ThredUp_002

「ThredUp」の競合他社で代表的なスタートアップは次の3社です。

  1. P2Pマーケットプレイス「Poshmark
  2. 高級アパレル品売買に特価した「TheRealReal
  3. ThredUpと同じ販売代行モデルを展開した「Thredflip

Poshmarkはメルカリと同様、誰でも出品できるオープンプラットフォームの形式を採用している点で大きく戦略が異なります。加えて在庫を抱えないEコマースビジネスに特化するため、販売者自身がリスティングから配達準備を行わなければならない点も大きな違いです。一方、TheRealRealは高級品のみを扱っていることから分野が全く異なるといえます。

Threadflipは専用キットに洋服を詰めて送るだけでリスティングから転売までを代行するコンシェルジュサービス「 White Glove 」を展開しており、ビジネスモデルがThreadUpと酷似していることから直接競合の関係でした。

しかし、資金調達に苦戦し、150万人の利用会員を抱えながら、2016年に突然サービスを閉鎖。一方、ThredUpはゴールドマンサックスからの投資を取り付け、8100万ドルに上る潤沢な資金調達に成功しています。

さて、両社の運命を分けた戦略分岐点は一体何なのでしょうか。その1つの答えとして、ThredUpがオンラインとオフラインの両分野をまたいで、顧客のパーソナライズデータを収集・活用する戦略を綺麗に描けていた点が挙げられるでしょう。

Eコマース企業ThredUpが店舗展開をする目的は、パーソナライズデータ収集にあります。次の章ではコストのかかる店舗戦略へと舵を切った同社のビジネスモデルを紐解いていきます。

キュレーション提案の質を上げるための店舗戦略

ThredUp_003

ThredUpとThreadflipの両社の共通点は、不要となったアパレル品を送付すれば面倒な作業を全て請け負ってくれる「代行業態」を採用している点です。販売側から見れば非常に秀逸なUXを提供していますが、在庫を抱えるオペレーションコストが課題となります。そこで重要な指標となるのが在庫回転率になります。

前述したようにThredUpでは毎月販売者から送られてきた100万点以上の在庫を抱えます。加えて、中古品は小売価格と比べて75〜90%の割引がされており、 利益率が非常に低い収益モデル を強いられます(ちなみに「Marshalls」や「Nordstorm Racks」のような新品売れ残りを販売する場合、20〜60%の利益率)。そのため商品を効果的に売りさばくビジネスモデルを構築しない限り、日々在庫管理コストがかさみ利益を確保できません。

在庫回転率を上げて利益を確保するための戦略コンセプトとなるのが、データを駆使した各顧客向けのキュレーション提案です。この戦略の一環として欠かせないのが店舗展開になります。

ThredUp_004

ThredUpは2018年度内に全米10店舗の拠点を構える予定です。今後数年以内に100店舗まで数を増やすと報じられています。店舗数を拡大する目的は2つ挙げられます。1つは、商品選択のチャネルを拡大させることです。

従来、マーケットプレイスの利用者はオンライン上でしか商品選択が出来ませんでした。しかし、人気商品カテゴリーに近しい形状・色合いの商品を幅広く各店舗に展示しておくことで、購入者は実物の雰囲気を味わうことが出来るようになりました。オンラインとオフラインの両方で商品選択ができるようになったのです。

また、Eコマース企業であることを前提に運営が行われているため、店舗で商品を購入してもらわなくてもオンラインで売上が立てば問題がありません。いかに利用者に納得して商品を購入をしてもらうかに焦点を絞っているわけです。この点、商品を店舗で売ることを前提とせず、商品体験の場として店舗展開する「Bonobos」と同様の業態といえるでしょう。

もう1つの目的が顧客のフィッティングデータの獲得です。ThredUpが店舗拡大を果たす最大の理由といえます。

各店舗のフィッティングルーム内にはiPadが置かれており、自分の好み・サイズに合った洋服をスキャンして登録ができます。各顧客データとスキャンしたお気に入り商品データを紐付けることさえ出来れば、今後店舗を訪れることがなくともオンライン上で最適な商品をキュレート提案できるきっかけになります。

つまり、たった1回の来店であってもフィッティングルームを通じた顧客データを収集できれば、再来店しなくてもオンラインで効果的な商品提案が可能になるのです。

オフラインでデータ収集し、オンライン購買へと繋げる販売モデルは「ZOZOSUIT」のコンセプトと同じです。ちなみにThredUpの場合、1フィッティングルーム当たりの開設コストに1000ドルの費用がかかるため、ZOZOSUITの方がより低コストで、多数の顧客データを収集できるモデルであるといえるでしょう。

購入前体験の最大化を図る

ThredUp_005

従来のアパレル店舗は、顧客にリピート来店してもらい、商品を購入し続けてもらわないと収益を維持できない不安定なビジネスモデルを採用していました。一方、ThredUpは顧客データを収集するために店舗拡大を行っていることが伺えます。

ThredUpの店舗展開は顧客のLTVを高めるための起点として機能し、高い在庫回転率と収益を確保できるEコマースモデルを維持するための足がかりになっているといえるでしょう。店舗で商品を売り切ろうとは考えていないはずです。この点において、Threadflipはオンラインとオフラインの両輪を上手く活かしたデータ戦略とキュレート提案の視点が欠けていたのだろうと筆者は考えています。

店舗でのデータ収集に加え、オフラインで顧客の趣向データを得るために、ThredUpは2017年12月から、購入前の試着ボックス制度「Goody Boxes」の展開を始めています。購入者は自宅にいながらにして、購入検討中の商品を試着できるサービスです。試着品の中から実際に購入された商品データから、顧客趣向データを集めることができるでしょう。

このように、顧客データの収集ポイントを各所に作り、Eコマースでの購入に繋げようとするモデルが支持されています。

繰り返しになりますが、1回でも顧客データの獲得ができれば、各顧客に合わせたキュレート提案の運用が可能となり、商品を購入検討する段階「購入前体験」の最大化を図ることができます。ある程度の規模にまで成長したEコマース企業に求められているのは、店舗とEコマースの両方を活かした顧客データのフル活用ではないでしょうか。

Via Glossy

BRIDGE Members

BRIDGEでは会員制度の「Members」を運営しています。登録いただくと会員限定の記事が毎月3本まで読めるほか、Discordの招待リンクをお送りしています。登録は無料で、有料会員の方は会員限定記事が全て読めるようになります(初回登録時1週間無料)。
  • 会員限定記事・毎月3本
  • コミュニティDiscord招待
無料メンバー登録