私の考えは間違っていた。日本のイノベーションの未来を築くのはスタートアップではない。(2/3)【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Image credit: fberti / 123RF

第1編からの続き〉

ここ10年の間に、事態は中企業にとって一層厳しくなりました。数十年もストイックに不名誉と屈辱に耐えてきた系列グループのリーダーらは、自社のサプライチェーンの多様化や、中国、東南アジアやその他世界各国からのより安い製品の輸入を始めました。大企業の側に立てば、こうしたサプライチェーンの最適化は明らかに真っ当な措置でしたし、極めて率直に言って、それまでの数十年間ずっと必要とされてきたことでした。しかし、中企業が依存するようになっていた、大企業による売り上げと収益の保証が瞬く間に消えていくことにもなりました。これと同時に、多くの日本の中企業が倒産に追いやられていくのが見られるようになります。

これは素晴らしいことです。実際、日本経済の将来はここにかかっています。

もちろん、それは倒産する者からすれば素晴らしいことではありません。ひどいことです。しかしとりあえずこうした傾向からすでに始まった大きな転換に注目してみましょう。

ご存知の通り、企業系列のしがらみと売り上げ保証から脱却し、現在多くの日本の中規模製造企業が突然マーケティング方法や製品の売り込み方を学ぶ必要に迫られています。日本の国内市場は低成長で人口も減少している中、多くの中企業は成長を求めて海外に目を向け始めています。

これは素晴らしいことです。このうち一部の日本の中企業は、海外でかなり成功していくでしょうから。これは倒産した中企業の埋め合わせ以上のものになるでしょう。

どうして私はここまでこの考えに自信があるのでしょうか。それは日本の中企業が今世界的に見て極めて驚くべき革新的な製品を生み出しているからです。

このことをリスナーの皆さんにどう証明するのが一番よいか、いろいろと考えました。日本政府の報告書や公式な統計はたくさんありますが、問題をありのままに見たいと思います。日本政府がイノベーションに関して最も権威ある情報源だというわけではありません。

そうではなく、Apple に証明してもらうことにしましょう。Disrupting Japan のリスナーが52%の確率で持っているとされるお手元の iPhone を見てください。52%というのは、特定の個人1人について言っているのではありませんよ。リスナーのあなたは、いつも自分の使う機器でこのポッドキャストを聞いていて、その機器を100%の確率で所有していらっしゃるわけですからね。そうではなくて、統計では全リスナーのうち52%の方がこのポッドキャストをiOSデバイスで聞いているという意味です。

話が脇道に逸れました。

ですから、iPhone のための Apple のサプライチェーンの話にこれから移ろうということです。これを通じて日本の中企業のイノベーションについて多くのことが分かるからです。

Apple は、自社製品のための部品と労働の調達の点で羨ましいほどの境遇にあります。自社製品の製造に必要な製品やサービスを理想レベルで供給する企業を、アクティブに積極的に世界中から探して選べるだけの資力が、彼らにはあります。Apple のサプライチェーンは実に関連技術の最高の組み合わせなのです。

そしてこのサプライチェーンは実にグローバルなものです。iPhone を1台作るのに700を超える企業が関わっています。一番企業数の多い国はどこか分かりますか? もちろん中国です。249社があります。しかし2位は日本で、139社です。日本の次に来るのはアメリカで60社、そしてその後は台湾42社、韓国32社、他の26ヶ国が残りを占めるというように、企業数がどんどん減っていきます。

ですから、139の日本企業が iPhone のサプライチェーンに属しています。これは中国企業の半数以下ですが、アメリカの2倍以上です。これらは正確にはどういった日本企業なのでしょうか。

それには予想される通り、ジャパンディスプレイ、村田製作所、シャープ、ソニー、東芝、TDK といった大企業も含まれます。しかし当該企業のほとんどはおそらく名前を聞かれたことのないもので、大企業ではなく中企業です。

しかし、大・中企業にとって、中でも中企業にとって、何が中企業の魅力なのか問うてみるに値します。それから、大規模にかつ低コストで製品を生産できる中国が第1位に来るのは理解に困りませんが、なぜ日本が強力な第2位なのでしょう。こちらはさらに興味深い問題です。

実際、中国企業が企業のサプライチェーンにとって魅力である理由は日本企業の魅力の理由とほとんど反対のものです。中国は労働コストが安く、環境規制もほとんどなく、大規模で融通の利く労働力があり、労働保護も緩い国です。他方日本は、労働力不足を抱え、賃金も高く、物的設備費用もかさみ、その上、日本の環境保護、労働保護に関する法規の厳しさは世界でも有数のものです。

それでいてなお、日本の中企業は世界のその他の国々との競争に勝っているようなのです。

それはなぜか? 簡単に言えば、日本の数千の中企業に存在する驚くべきイノベーションのためです。これら中企業は常に自らの系列の影にいながら、韓国や台湾より常に5年先を行くような技術を地道に生み出してきました。これらの日本企業は、どれも低コスト生産企業ではなく、すべて世界的なイノベーターです。

今日のアメリカでは、製造業の仕事を回復させることについてよく議論されています。これは目指す価値のある目標です。しかし、ほとんどの政治家はコスト削減に重点を置き、環境および労働保護を緩和して、アメリカを中国のような国にすることが解決への道だと考えているようです。しかし、こうした政策立案者や政治家は、アメリカと比べて規制は厳しくコストは高いのに、世界的に製造業を率先しており、かつ労働者に高い生活の質を提供している日本やドイツのような国に目を向けた方がよいと私は思います。優れた製造業の仕事を回復させるのに良いモデルが実際にあるのですから。

実際、アメリカを見ていると、日本は中小企業のイノベーションという点でカリフォルニアにとてもよく似ています。ここでは賃金と土地代がとても高く、低コスト製造者としてはもはや生き残れません。世界のベストになる必要があります。環境、労働関係の法や税政策の点では日本の規制枠組みは特に事業者に対して優しいわけではありませんが、これらの法は国民に広く受け入れられており、近いうちに変わるなどということはないでしょう。

しかしまた話が脱線してしまいました。日本の中規模でグローバルなイノベーターに今後何が起きるか、話すのが目的でした。

Apple にはこのような日本の中企業を独自に見つける資力がありますが、系列とのつながりを断つ日本の中企業が増えるにつれ、海外での積極的な売り込みとマーケティングを始める中企業が増えていくでしょう。どうして海外なのでしょうか。なぜなら、国内需要が伸び悩む中、世界市場が成長への唯一の道だからです。

これは完璧に論理的に筋が通ります。何が起こるべきか、何が起きなくてはならないか、私たちは知っています。しかし、今後10年間で実際に日本の中企業に起きる可能性が最も高いことは何か、私たちは予想できるでしょうか。

具体的な数値を見てください、いや具体的な数値を聞いてください。

間違いなく、日本の中企業は多くの苦難に直面するでしょうし、その多くは廃業になるでしょう。目下のところ、日本政府はビジネスを拡大しようというよりは、日本全国の弱い、または存続不能の中小企業に対して融資を広げることによって、苦難の到来を先延ばしにしようとしています。

第3編に続く〉

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