「ClassPass」から始まったサブスクリプションはなぜ失敗するのか?ーーオフラインプラットフォーム事業が直面する「提案の限界」

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2018.3.21

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オフライン事業を成功させることは非常に難しいです。

たとえば駅前で、小規模のスポーツジムや個人経営のレストランの従業員がチラシやティッシュ配りをする姿を目にしますが、顧客獲得につながる転換率が低いのは明らかでしょう。

こうした集客に苦戦をしている施設・店舗事業者から注目を集めたビジネスモデルが「 ClassPass 」です。同社は、スポーツジムの集客問題を解決し、特定のジム契約に縛られない柔軟なプランを顧客に提供する画期的なモデルとして登場しました。

スポーツジムは大手と個人経営の2種類に分かれます。

従来、大手スポーツジムは月額100ドル前後のメンバーシップ制度を敷いていました。しかし、顧客にとって特定のジムへ長く通い続けると、徐々に変わり映えのないコンテンツに飽きを感じ始めてしまいます。そうして通う頻度が少なくなり、最終的には退会する事例が頻繁に発生していました。

会費制度を採らない個人経営のジムは、教室を開く度に体験者を集客する必要がありました。その代わり1回の参加料が高いケースが多く、顧客が集まらない課題を抱えていました。

「ClassPass」はこのようなスポーツジムの抱える課題を解決するため、これまでバラバラに集客・運営をしていたスポーツジム事業者を、同社プラットフォームに参加させる「組合型モデル」を採用したのです。

顧客は月額75ドルを支払うことで、「ClassPass」のプラットフォームに参加する好きなジムの中から毎月4〜6つのクラスへ自由に通えるようになりました。ジムに通う出費を抑えられ、かつ豊富なジムコンテンツへアクセスできるようになった、というわけです。

一方でジム側は「ClassPass」のプラットフォームに参加することで、より多くの顧客へリーチすることが可能となり、顧客獲得コストの削減や教室の空き人数の埋め合わせができるようになりました。ちょうど航空会社が、空き席をフライト予定日時の直前になってから安売りする仕組みと同じです。

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「ClassPass」のように、特定分野の業者を自社プラットフォームで一元管理するモデルは、今や全米のスタートアップのお手本となりました。競合も数多く出揃い「 Fitset 」や「 Fitreserve 」「 Equinox 」など、多数登場しています。

その中でも、筆者が利用していた「 MealPal 」は「ClassPass」のビジネスモデルをレストラン業界に用いて急成長を遂げているスタートアップの1つです。同社は2016年に創業され、すでに3,500万ドルの資金調達を行っています。

「MealPal」の顧客は月額約100ドル(月15回の利用)か120ドル(月20回の利用)を支払うことで、平日のランチ時間帯に提携レストランが提供する特定メニューの中から、好きな料理を選択できるようになりました。

アメリカの大都市では、日本と比べてランチの価格が非常に高く、1食当たり5.99ドルはかなりリーズナブルな価格設定と言ってよいでしょう。従来、1回当たり10ドル以上していたランチ料金が月額会員になることで40%ほど出費削減につながります。

レストラン側も「MealPal」の傘下に入ることで、集客コスト削減につながります。

さて、「ClassPass」のモデルは非常に魅力的にみえるかもしれませんが、同社が価格変更や会員プランを幾度となく変更していることからも、プラットフォームビジネスの難しい側面が垣間見えてきます。日本でもグリーが月額9800円で提携スポーツジムに通い放題のサービス「レスパス」をローンチしていましたが、現在ではサービスを閉鎖しています。

そこで本記事では、「ClassPass」と「MealPal」の事例をもとに、顧客視点からプラットフォーム運営における課題点を洗い出していこうと思います。

顧客の心をフックできない

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Image by  Steven Taschuk

「ClassPass」と「MealPal」の提供価値は、価格の非効率を解消している点です。しかし、両ビジネスには顧客のリピート率を高める「フック」の仕組みに欠点があると考えています。

筆者が「MealPal」を使い始めた頃、仕事場近くのレストランが30〜40カ所ほどリスティングされていました。行ったことのないレストランの名前があることから、新しいランチメニューを開拓できる「発見欲」と「探求欲」をそそられたのを覚えています。毎日高い期待値を持ってサービスを利用していました。

ところが、いかにサービスローンチ時にリスティング数を多く揃えていても、1カ月もすれば飽きてしまいます。コンテンツに変化がないと、顧客の心はフックしないのです。

ここで運営側が採る戦略は、コンテンツのバリエーションを増やすため提携店舗の拡大の道しかありません。日々新しいコンテンツを追加させて、多様性を持たせないと顧客に飽きられてしまう構図です。「ClassPass」も今となってはオフライン提携の拡大路線に限界を感じ、 室内で楽しめるオンラインコンテンツの充実化 を図っています。

筆者の場合、「MealPal」を利用して1〜2か月も経った頃には特定の2〜3店舗に通うだけになり、毎回同じメニューをローテーションする羽目になりました。サービス体験の軸であった「選び放題」という提供価値が、私には刺さらなくなってしまったのです。サービスを使う楽しみがなくなり「今日も同じメニューか」と諦めながら使い続けていると、リピート利用する際の期待値が日に日に下がっていきました。

このように「ClassPass」をはじめ、オフライン事業者をプラットフォーム化するビジネスの課題点は、提携店舗数に必ず限界が来てしまう点です。運営側が提携店舗数の成長率をローンチ時期と比べて高く維持できなくなり、顧客に対して新しいコンテンツを提供できなくなる、いわば「提案の限界」に突き当たってしまうのです。

限界に達した時点で顧客は飽きを感じ始め、単に価格の非効率を解消しているだけではリピートさせることが難しくなってきます。

「提案の限界」を超えるには

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Image by  Leo Hidalgo

「提案の限界」を突破するには3つの戦略が考えられます

  1. コンテンツのバリエーションを増やす
  2. オンラインコンテンツへと進出する
  3. キュレーションモデルにしてサービスの質を高める

1つ目に挙げたコンテンツのバリエーションを増やすモデルは、月額25ドルで音楽ライブに行き放題サービスを提供する「 Jukely 」が最も成功している事例です。同社は2012年にニューヨークで創業されたスタートアップです。

「Jukely」の顧客層は18〜24才のジェネレーションZ世代が中心。 TechCrunch によればリピート率は72%にも及んでいるとのこと。同社サービスの巧みな点は、行きつけの会場に通い続けることになったとしても、提供される音楽ライブ体験は毎回異なることです。

「ClassPass」や「MealPal」では提携施設・店舗数が増えない限り、最終的には2〜3個の同じコンテンツをルーティン消費する結果になってしまいます。一方「Jukely」では、同じベニューであっても、披露される曲や会場で得られる体験は毎回異なります。このように、毎回新しい体験コンテンツを提供できる音楽ライブ分野に進出することで、「提案の限界」を突破しているのが「Jukely」なのです。

最近登場した定額サブスクリプションモデルで映画館に通い放題の「 MoviePass 」も、コンテンツの入れ替えが早いため「Jukely」同様に顧客をフックさせることが可能でしょう。

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2つ目に挙げたオンラインコンテンツへの進出は、「ClassPass」と室内スポーツバイクを開発する「 Peloton 」との提携事案が好例でしょう。「Peloton」はバイク本体を2000ドルで販売。毎日ニューヨークのスポーツスタジオからライブ配信される動画コンテンツを観ながら、世界中の人たちと一緒にスポーツ体験を楽しむことができます。同社ライブ動画コンテンツのサブスクリプション料として月額39ドルを支払う必要があります。

「ClassPass」は 「Peloton」と提携 することで、同社が提供する動画コンテンツの中から好きなクラスを好きな時に受けられるオンラインスポーツコンテンツ事業にも進出しました。ライブ配信されるため、コンテンツ数が日々増えていく仕組みです。

このように、オフラインでの成長限界を、オンラインコンテンツでカバーする動きが出てきています。レッドオーシャンであるスポーツジムプラットフォーム市場では、オフラインとオンラインの両方を抑えた戦略が必要とされるでしょう。

言い換えれば、オンラインコンテンツを先に抑えた事業者が、十分な顧客数・満足度を携えた上で、最終的にオフラインコンテンツに進出するモデルを構築した場合、「ClassPass」モデルを構築しているプレイヤーにとっては脅威になるかもしれません。

事実「Peloton」は3000ドルの価格帯でビジネス向けのバイク販売を2017年に開始し、ホテルやスポーツジムでも同社コンテンツを楽しめる戦略展開を始めました。オンラインからオフラインへと戦略拡大を始めた証左といえるでしょう。

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3つ目のキュレーションモデルに関しては、以前ご紹介した「 SELECT 」のモデルが当てはまります。同社は年会費300ドルの低価格版ブラックカードサービスを展開しており、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスにいる各地域の担当マネージャーがキュレートした高級レストランのVIPコースを「SELECT」のカード登録さえしていれば体験できます。

「SELECT」のモデルでは、顧客が無数の選択肢の中から最適なものを探し出すやり方ではなく、予め運営側がキュレートした選択肢を提示することで、リピート率を上げる仕組みを採用しています。たとえば、サンフランシスコ市内にある「SELECT」の提携レストランは50店舗もありませんが、ほぼ全ての店舗が高い可処分所得を持つリピート顧客の獲得につながっています。

「ClassPass」に代表されるような、単なるプラットフォームビジネスに終始しては、各スポーツジムはいつまでたってもリピート顧客の獲得にはつながりません。この点、提携先をしっかりとキュレートした上で「顧客に選ばせない」提供価値を与えるモデルも「提案の限界」を超える戦略の1つでしょう。「レスパス」も提携店舗の拡大を続けるのではなく、キュレーションモデルに戦略の舵を切ることで生き延びることができたかもしれません。

ここまで、プラットフォーム事業者が抱える課題点は顧客をフックできない構造にあり、具体的にはオフラインコンテンツの拡大限界を迎える「提案の限界」に原因があると説明してきました。現在、私の知る限り「ClassPass」と同様の月額サブスクリプションモデルでサービス拡大を続けられているのは「MealPal」,「 KidsPass 」、「Jukely」、「MoviePass」くらいでしょうか。

日本でも今後同じように、サブスクリプションモデルを用いたオフラインのプラットフォーム化を図るビジネスは増えるでしょう。しかし、ユーザーの心を掴む「フック戦略」には気を使わなければ、事業採算の取れないビジネスに成り果ててしまうので、注意が必要であると考えます。

 

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