メディアが小売へ攻めてきたーー大手料理動画メディア「Tasty」の製品開発から考えるメディア指標「ROR」とは?

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Image by  Blogtrepreneur

<ピックアップ :  Buzzfeed, Walmart collaborate on line of cookware, kitchen tools

皆さんは、「ROR(リターン・オン・リレーションシップ)」という言葉はご存知でしょうか?

おそらく「ROI(リターン・オン・インベストメント)」は聞き覚えがあると思いますが、「ROR」はあまり馴染みがない指標用語かもしれません。ということでこちらの記事に沿ってご説明します。

SNSが普及した現代、特定の投稿に対して寄せられる、いいね!やコメント、シェア数の多さが、メディアの評価を測る尺度になっています。しかし、オーディエンスからの反響は、金銭価値に変換できない「不換数値」です。その一方、オーディエンスからの反響というのはブランド構築の視点ではとても重要な指標になります。

このように、財務上の視点からでは計測できないブランドを形作る資産や、オーディエンス・コミュニティの力強さを「ROR」と呼びます。ここでは平たく、主にSNS上に投稿したコンテンツに対しての反響を「ROR」と定義しておきましょう。

「ROR」は、定性データとして処理されてきました。たとえば、SNS投稿のコメントを通じて、どのくらいポジティブ(もしくはネガティブ)な反響を呼んでいるのかを分析し、次回のコンテンツ制作に活かす具合です。私が自社メディアを運営していた際も、オーディエンスのコメント分析を行い、大きく反響を得そうなコンテンツカテゴリーを考え、試行錯誤したものです。しかしオーディエンスからの反響が大きく、たくさんシェアされた投稿があったとしても具体的にどのような点を活かす、もしくは改善すればいいのか、正しい判断基準が存在しないので扱いが難しいと感じていました。

このようにして「ROR」はメディア運営者が行っていたコンテンツ運用・改善を繰り返すための基本指標となってきました。ところが「ROR」のコンセプトは、単なるコンテンツ運用に留まらず、オンラインメディアの製品開発のための情報源へと変わりつつあります。その際たる例が「Tasty」です。

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料理動画メディアTastyは、BuzzFeed傘下のメディアブランドです。2018年3月、 大手小売チェーン「WalMart」と提携をして、90を超えるキッチン製品を発売すると報じられました。値段は4.44ドルから99ドルまで幅広く、こちらの記事 によればTastyは5億4000万オーディエンスへとリーチできるメディア規模を持つそうです。料理動画を投稿する度に得られる「ROR」は多大なものです。

同ブランドが採っている非常に上手い戦略は「ROR」を売上へと変換する戦略展開をしている点です。

2017年、Tastyはスマートキッチン製品「 One Tap 」を発売しました。これは専用アプリに映し出されてる動画レシピに沿って、温度や焼き具合を調節できるスマートコンロです。

TastyはOne Tapの発売を通じて、これまでSNS上で動画視聴を楽しみ、何かしらのリアクションを行うことで完結していたオーディエンス体験を、リアルの場まで拡大させました。つまり、Tastyの世界観を自宅のキッチンで楽しめるような施策に打って出たわけです。そして、オーディエンスがOne Tapを購入することで、5億4000万人によって構築されたブランド資産「ROR」を売上へと変換することに成功したのです。

従来、SNS上の反響は、ブランド力という漠然としたものとして判断されていましたが、Tastyはオーディエンス体験をキッチンで再現させるOne Tapの売上を伸ばすことで、ブランド力を金銭価値へと変えるビジネスモデルを構築しました。今回のWalMartとの提携を通じた製品販売も「ROR」を売上へと変換することで収益化を狙う戦略の一環とみていいでしょう。

Tastyの親メディアBuzzFeedも、オーディエンスからのコメントからアイデアを得た 新製品を高速で開発する体制を整えている と報じられており、「ROR」から売上を立てる戦略に打って出ているといえるでしょう。

このように「ROR」はブランド資産を指していましたが、製品開発のためのリサーチ情報源になり、売上に繋がる指標へとコンセプトが変化しているのです。

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ここで大切になってくる考えは、オンラインメディアが自社メディアの高い「ROR」指標を背景に、プライベードブランド製品開発へと参入を果たしてきていることです。

既存の小売メーカーが容易に顧客データを数億人単位で集めることは不可能です。しかし、オンラインメディアは膨大な反響データを分析することで、製品開発に役立てることが可能になっています。特にバイラルメディアでは一つの投稿コンテンツに対して、数百万から数千万の閲覧・視聴が期待できます。

オンラインメディアは、ページ閲覧数や動画視聴数のような定量データから、売れ筋製品のトレンドを掴むことができるでしょう。また、コメントを通じた定性データの解析を通じて、より顧客満足度を高める製品開発を行うことができます。

通常、メディアの収益モデルはイベントやリサーチ、コンサルティングなどに絞られていましたが、メディアが持つブランド資産「ROR」のコンセプトを製品開発へと活かせる新たなトレンドが生まれつつあります。また、オンラインプレイヤーがオフラインプレイヤー市場へと参入することは、オフラインの小売企業に新たな競合が登場したといえます。

BuzzFeedのような超大規模メディアがオフライン市場へと攻めてくれば、数年で製品開発の流れや、販売のあり方が根底から覆る可能性を秘めています。この点、メディアにとっては新たな収益源を構築できるかもしれない朗報である一方、既存小売企業は新参プレイヤーにどう戦うのか、対応が迫られるのは必至でしょう。

via CNET

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