Amazonが銀行業へ参入検討ーー次なる標的「口座を持ちたくない10代/Z世代」と「Amazon経済圏」の拡大

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Image by  Robert Scoble

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Amazonが10代を中心とするZ世代(1995年-2012年までに生まれた世代)向けに銀行口座を開設するサービスを予定していると Bloombergが報じました

同記事は、AmazonがZ世代の顧客獲得に苦戦している理由を2つ指摘。1つは、Z世代が持つ実店舗ニーズの高さ。

ミレニアル以上の世代はオンライン購入の習慣ができているため、顧客囲い込みに成功していると指摘。一方、Z世代は商品購入前に実店舗で体験をするニーズが強く、Amazonのオンライン戦略が効かないために、囲い込みに苦戦していると述べています。

実際、 IBMが発表しているZ世代の購買活動データ によると、67%が実店舗での商品購入を頻繁に行うと回答。ウェブ購入は22%、アプリ内購入は13%に留まっています。

もう1つは銀行口座を持たないことから、デビット・クレジットカードの所有率が低いこと。今回のAmazonの動きは、まずはZ世代に口座を持たせることで、購入導線を作ることが目的であるとBoombergは報じてます。

現在、普通口座を開設できるサービス立ち上げのため、JPモルガン・チェース社およびCapital One Financial社と交渉中だそうです。

口座入金のオムニチャネル化

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Amazonは過去にもZ世代のオンライン購入率を高める施策を打ち出しています。2017年4月には最寄りのスーパーのレジでAmazonアカウントに預金できるサービスAmazon Cashを発表。

米国で代表的な小売チェーン「CVS」を筆頭に、提携店舗レジで専用バーコードを提示。店員がバーコードを読み込んだ後、15ドル-500ドルの幅で現金を支払うことで、同額がAmazonアカウントに入金されるサービスです。

Amazon Cashを利用することで、デビット・クレジットカードを持たずとも、手軽にAmazonで購入出来るようになりました。今回の銀行口座開設サービスは、Amazon Cashを通じたZ世代顧客の囲い込み戦略の延長にあると考えて間違い無いでしょう。

ここで非常に秀逸な戦略であると考えられる点は、口座入金をオンラインとオフラインの両方で手軽に行えるオムニチャネル化を狙っていることです。

たとえば、普通口座を開設できるようになれば、アルバイトの賃金や親からの仕送り金をオンライン上で手軽に受け取ることができます。加えて、すでにAmazon Cashを通じて、特定の銀行ATMだけでなく実店舗での入金も可能となるため、従来の銀行口座以上にお金を入金するインフラすでに整っているのです。もし実店舗での現金引き出しも可能になれば、出入金の利便性の高い魅力的な口座サービスとなります。

「収入」ではなく「将来性」で発行するクレジットカードAMAZON_BANK_003

Amazonで口座を開設し、購買履歴が集まればクレジットカード発行も考えられます。しかし、Z世代がすぐに十分なクレジットスコアーを貯められるわけではありません。そこで最近登場しているのが、AIを通じたクレジットカード発行サービスです。

過去の収入や支払い履歴ではなく、職業や学歴を基にAIが将来の支払い能力を分析することで、顧客の支払い能力を推測。AIが計算した支払い額に応じてクレジットカードを発行します。AIクレジット分野で代表的なものが「 Deserve 」です。同社はクレジットスコアを持たないZ世代をターゲットにカードを提供しています。

また、同じくAIを活用した支払い能力の推測を使っている融資サービス「 INSIKT 」が登場している背景を考えると、クレジットカード・融資サービスへの展開も考えられるでしょう。

カナダ拠点の銀行ScotiabankはAIスタートアップDeepLearni.ngと提携し、仮にクレジットの未払いが発生しても、顧客がいつまでに支払いを完了できるかを事前予測するサービスを提供。Amazonも同じようにZ世代の未払い問題に対して、AIを使ったソリューションを提示することが考えられます。

長期戦略を見据えた際、口座開設サービスをきっかけに、AIを使ったフィンテック分野のトレンドにAmazonが乗ってくるのもそう遠くなく、フィンテックスタートアップの買収も今後相次ぐかもしれません。

Amazon経済圏確立まで、あともう1歩

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Image by  sⓘndy°

現在保有している銀行口座に追加して、Amazonの普通預金口座を開設したい事前需要は既に発生しています。

Bloombergの記事では、20代を中心としたミレニアル世代の27%、30代を中心としたミレニアル世代の32%が追加開設したいと希望。ミレニアル世代に特化していえば、約60%が口座開設をしたいという結果も出ているそうです。

30代を中心としたミレニアル層の口座開設需要が高いことから、彼らが10代の子供を持つであろう10年後には、家族で口座開設をする何らかのインセンティブを作ることも考えられるでしょう。

これまでは1顧客単位の獲得戦略を組んでいましたが、これからは1世帯単位で「Amazon経済圏」に囲い込む可能性が十分に考えられます。

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Image by  Ben Sutherland

従来、カスタマージャーニーは商品購入検討から始まっていましたが、Amazon銀行口座開設を含めた支払いインフラにまで顧客体験の概念を拡大しようとしています。

顧客の購買体験の川上(口座開設)から川下(購入後体験)までの全てを抑える垂直統合を完成させる図式です。加えて、既に実店舗「 Amazon Go 」や、購入前体験サービス「 Prime Wardrobe 」、自宅内配達事業「 Amazon Key 」を展開していることから水平統合戦略も着実に進めています。

銀行口座を開設させ、購買体験のオムニチャネル化を軸に、Z世代を中心とした新規プライム会員獲得を目指すAmazon経済圏の拡大はまだまだ続きそうです。

Via Bloomberg

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