中国最大のライブストリーミングアプリ「YY(歓衆時代)」、シンガポールのBigoが実施した2億7,200万米ドルのシリーズDラウンドをリード

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中国で最大の収益を上げる動画ストリーミングアプリ「YY(歓衆時代)」が、シンガポールを拠点としてライブストリーミングアプリ「Bigo Live」を運営する Bigo の2億7,200万米ドルのシリーズ D ラウンドをリードし、東南アジアのモバイルエンターテインメントシーンに大きく弾みをつけた。

YY の設立者であり CEO 代理の David Li 氏も個人的な資産を使いこのラウンドに参加した。

Bigo は最初に東南アジアでローンチしたが、この地域を超えて全部で20ヶ所の地方オフィスを立ち上げている。東南アジアの国々だけではなく、サウジアラビア、パキスタン、そしてニュージーランドでも「Bigo Live」は iOS の「ソーシャル/ネットワーク」カテゴリーでトップ10に入るアプリである。

Bigo は2017年の収益が3億米ドルに達したとしている。同社の収益は毎月15%の伸びを示しており、今年は10億米ドルの収益と2億米ドルの利益を達成できると Tech in Asia に語った。

Bigo の広報担当者はこのように言っている。

このビジネスでは、損益分岐点を越えてさらに発展していくために必要となるのはほんの2%から5%の有料ユーザです。

いまや同社はアメリカ、オーストラリア、日本に運営を広げようとしており、グローバルな展望を加速させるために適切なビジネスを買収しようとしている。

直近の投資によって、YY は同社にとって最大のステークホルダーとなった。それに加えて、YY は Bigo の株式の大部分を購入する権利を獲得したが、これはシリーズ D ラウンドの終了から1年後に実行可能となる。

YY と Bigo の関係は設立当時にまで遡る。2016年3月にローンチしたアプリ「Bigo Live」は瞬く間に口コミで人気となった。しかしながら、配信者たちは現金化可能なバーチャルギフトを視聴者からもらうためにやりすぎてしまい、同アプリは性的な内容を含むコンテンツという評価を受けることとなった。その後 Bigo は人工知能の手助けで、そういったコンテンツの排除を始めた。

シリーズ C ラウンドの後には4億米ドルの価値がついた Bigo はライブストリーミングの枠を超えて拡大し、さらに多くのアプリを追加した。モバイルのゲームに特化したストリーミングサービス Cube TV や、ショートビデオの編集・シェアアプリ「Like」などがそうだ。それ以来、Bigo の登録ユーザはたった1年で7,000万人から今日の2億人へとほぼ3倍に増加した。

だが YY は Bigo が正式にローンチするずっと以前から関わりを持っていた。2014年当時、YY は Bigo の株式の27.8%を既に所有していた。Bigo の CEO は他ならぬ David Li 氏本人であった。さらに、Bigo の共同設立者であり CTO でもある Hu Jianqiang 氏は YY の社員だった。

サイバー空間の監視

Bigo は AI に大きく賭けているようだ。同社はシンガポールに AI 技術の研究センターをローンチしており、100人の AI 専門家と技術者を集める計画である。Bigo は自身のプラットフォーム上で技術のロードテストを行い、サイバー空間監視向けのモニタリングツールを使うために政府と手を組んでいる。潜在顧客としてインドネシアの通信情報省がある。同省はソーシャルメディアの監視と規制の手助けとして Bigo の技術を使用するために交渉中だ。

昨年には16億米ドルの収益を上げた YY からのさらなるサポートを受けて、Bigo はライバルにより大きなプレッシャーをかけるものと思われる。

この資金調達はライバルである M17の新規株式公開(IPO)に続いてすぐに発表された。M17はおよそ1億1,500万米ドルの調達を目指している。

利益を上げている親会社のバックアップを受ける私企業であるため、Bigo は利益を上げていない M17よりも資金面で有利である。いったん上場すれば M17は利益を上げなければならないプレッシャーに直面することになる。市場のシェアをめぐる戦いではしばしばマーケティングや助成金の支出が必要になるが、公に財政を調べ上げられる企業は不利になる可能性がある。

M17のライブストリーミングアプリは今年3月31日時点で3,330万人の登録ユーザを持っていたが、これは Bigo に比べればわずかだ。ユーザ数の増加という点でも Bigo は M17を上回っているように見えるが、これはマーケティングに膨大な支出をした結果かもしれない。Bigo の月間アクティブユーザは2018年2月時点で3,660万人だった。

全体として、Bigo の収益は M17の収益の3倍以上である。

M17は上場に先立って必要な沈黙期間にあったため、コメントを拒否した。

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YY の成長は頭打ちになってしまうのか?

中国におけるライブストリーミングが頭打ちになったのではということを考慮すると、YY が Bigo を通じて世界進出するということは理に適っているかもしれない。同国における全体的なライブストリーミング視聴は2016年12月以来減少を続けていると、South China Morning Post(南華早報)は iResearch を引用して報告した

それでもなお、YY の2018年第1四半期の決算はバラ色の景色を描こうとしている。収益、月間アクティブユーザ(MAU)、そして月間有料ユーザはすべて増加していたのだ。

しかしながら、警告のサインも見られる。同社はまだ利益を上げているが、アーティストを留めようとして支払う額が増えるにつれ、マージンは薄くなっている。営業とマーケティングのコストも膨らんでいる。

また、有料ユーザの伸びも MAU の伸びに比べると割合という面では小さく、アーティストのバーチャルギフト(YY はここから分け前を得る)を視聴者に買わせるのは困難になってきているということを示している。

マーケティング分析企業 AdMaster のシニアバイスプレジデント Maggie Wong 氏もまた、中国におけるライブストリーミングが停滞してきていると指摘した。

同氏は以下のように述べた。

弊社では中国におけるブランドのライブストリーミングを追跡調査します。しかしながら、ゲームに注力しているところを除けば、今でもライブストリーミングを追跡しているクライアントは極少数です。中国は変化の速度が速く、顧客の興味も素早く移り変わります。ショートビデオの盛り上がりはライブストリーミングにいくらかのインパクトを与えたのではないかと思います。他の理由としては政府の方針にもあるかもしれません。

「Douyin」と「Kuaishou」 は中国で有力なショートビデオアプリだ。2つを合わせると2億以上のデバイスにインストールされている。

しかしながら、これらのモバイルビデオアプリの人気によって政府の検閲は避けられなくなり、ライブストリーミングサービスのトップアプリは「監察」の対象として標的にされている

締め付けが厳しい中国では、ライブストリーミングが拘束されずに成長できる自由なインターネットへの誘惑が、YY を大きくしてきたのかもしれない。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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