ブロックチェーン界のGoogleを作る、Ant Financial(螞蟻金融)の元経営者たち

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Nebulas(星雲)コミュニティミートアップで、COO の Wang Guan(王冠)氏(中央)
Image credit: Nebulas

中国でも屈指の名門建築学校で学士号を取得した Wang Guan(王冠)氏のキャリアは順調だった。いくつかの中国の不動産会社で働いた後、彼は中東で不動産を築く契約を獲得した。

すると2009年の金融危機に見舞われた。この経済的ショックで彼のプロジェクトは頓挫し、彼の顧客はお金に困ることになった。

彼は疲弊していたが、問題は経済暴落だけではなかった。彼が不満だったのは、時間がかかる国際送金システムのせいで送金が遅れてしまうことだった。

Wang 氏はこのように話す。

顧客は送金を行うのに2週間かかるという有様でした。時には、中国本土に直接というのではなく、香港を経由しての送金になることもありました。間に多くの摩擦があるわけです。

不動産ブームが破綻した際、Wang 氏は考えた。不必要な摩擦を伴わずに大量市場にアクセスできる方法はないものだろうかと。答えはブロックチェーンだった。

2017年に共同設立されたスタートアップ Nebulas(星雲) は、ブロックチェーン技術に賭けている。もし成功すれば、同社はビジネスモデルを覆し、インターネットの仕組みを再定義することになるかもしれない。同社は設立以来6,000万米ドル以上相当のイーサリアムを調達してきた。

このチームは、専門分野での深い経験を持つソフトウェアエンジニアから構成されている。共同設立者の Hitters Xu(徐義吉)氏と Robin Zhong(鐘馥百)氏は、Alibaba(阿里巴巴)の決済子会社 Ant Financial (螞蟻金融)用のブロックチェーンプラットフォーム開発に取り組んだ経験を持つ。また、Xu 氏と Wang 氏は Antshares(小蟻)についても協同して取り組み、これは彼らによれば中国初のオープンソースのブロックチェーンであるという。

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左から:CTO Robin Zhong(鐘馥百)氏(左)と CEO Hitters Xu(徐義吉)氏
Image credit: Nebulas

Wang 氏は2011年に初めてビットコインを購入した際に、ブロックチェーンの可能性に気づいたという。当時はデジタル通貨が金融システムに関する従来の常識に挑戦している時で、世間は仮想通貨を支える第1世代のテクノロジーを認識し始めていた。ブロックチェーン1.0と名付けられたこの技術によって、投資家は中央統制のない P2P ネットワーク上でバーチャルな通貨の取引を行えるようになった。

しかし、ブロックチェーン1.0ができるのはそこまでだった。オープンソースのパプリックプラットフォームであるイーサリアムが、第2世代のブロックチェーン技術の到来を告げた。この技術により、エンティティはインフラストラクチャー上に分散型アプリケーション(Dapp)を作り上げることができる。買い手と売り手の間の契約を自動的に実行するコンピュータプロトコルであるスマートコントラクトにより、ブロックチェーン2.0は、単にデジタル通貨を交換できるという価値をはるかに越えた。

さて、今 Wang 氏と彼のチームは「ブロックチェーン3.0」という名の技術を作ることで勝負を進めようとしている。この技術では、現在のブロックチェーン技術が直面している制約に対処できるというのだ。現在の技術の第1の問題は、スケーラビリティである。Visa が1秒間に4万5,000件の取引を処理できるのに対し、イーサリアムは1秒に15件ほどしか処理できない。

第2の問題は、「ハードフォーク」の名で知られるシステムの亀裂で、これは(しばしば何らかの問題を直すために)中核となるコードを改定することにより、ネットワークを2つに分裂させてしまうというものだ。

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Image credit: Master The Crypto

一方では、古い型のブロックチェーンネットワークを使い続けているユーザがいて、他方では、ブロックチェーンのアップデートを行ったユーザがいる。この状況により、取引コストが増加するなどの問題が生じてしまう。

アメリカに本社を構え北京で影響力を持つ Nebulas は、次世代型ブロックチェーンを開発している多くの企業の1つだ。こうした企業としては他にも EOS、NEM、IOTA、Zilliqa などがある。しかし Nebulas のアイデアは全く独自のものだ。

ブロックチェーン用の Google

Nebulas の第1のソリューションは、Nebulas Force(NF)と呼ばれるものだ。これは、ブロックチェーンのハードフォークを起こさずに開発したりスマートコントラクトを更新したりすることを可能にするという点でこれまでに例がないものだ。

同社のホワイトペーパーにはこう書かれている。

NF は Nebulas ブロックチェーンと、そのブロックチェーン上に築かれた分散型アプリケーションに自己発展する能力を与えます。NF により開発者は、ハードフォークを引き起こすことなく変更を加えたり、新しいテクノロジーを組み入れたり、バグを直したりすることができるようになります。

突き詰めると、プログラマーがネットワーク全体に影響を及ぼすことなくブロックチェーンのコアプロトコルを微調整できるということだ。ネットワークの混乱を起こさずに、バグの修正、新たな機能、スケーラビリティのソリューションを試すことができるのだ。ネットワーク全体への変更が提案された場合には、最も影響力の強いユーザが投票することができ、彼らはブロックチェーンの将来について発言権を行使することができる。

NF のもたらす影響としては2つある。第1に、NF が機能するためには、ブロックチェーンネットワークにおいて最も影響力あるユーザが誰なのかを決定する方法が必要となる。第2に、もしも NF が成功すれば、それは Dapp が爆発的に生まれることにつながるかもしれず、そうするとユーザは有用で適切な Dapp を見つけにくくなるかもしれない。

Nebulas はそうしたギャップを埋めるために、Nebulas Rank(NR)を作っているところだ。これは、PageRank(ウェブページをランク付けするために Google が用いているアルゴリズム)のような働きをするオープンソースのブロックチェーン用アルゴリズムである。NR は、ユーザと Dapp をネットワーク上でのアクティブさの度合いによりランク付けする。NR は同一のブロックチェーン内だけでなく複数のブロックチェーンの間でも比較することができる。

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NR は、Nebulas が制作している第3の技術の主要構成要素だ。これまでのブロックチェーンは2つのよく用いられる方法によって取引を認証している。ビットコインやイーサリアムによって用いられる主要な方法は、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)であり、マイナー(採掘者)たちが競って数学の方程式を解き、トークンを得るというものだ。この方式は持続可能というわけではない。なぜなら、より大きな演算能力が必要となり、ますます大量の電力を消費することになるからだ。

現在使用され始めている代替策は、プルーフ・オブ・ステイク(PoS)だ。PoS ではマイニングを行うために演算能力を利用するのではなく、あるブロックチェーンで最も多くの資産を所有する者であれば誰でも、取引を認証できることになっている。しかし、これには、集団の利益に反して行動するような裕福な利用者によってブロックチェーンが支配されてしまうかもしれないというリスクが伴う。

Wang 氏は次のように言う。

PoW では、最も大きな利潤を生みだす者がルールを決めます。PoS では、最も多額の財産を誇る者がルールを決めます。私たちは、これら両方の方法は問題だと考えています。

Nebulas は、これらの古い既存のアルゴリズムを捨て、プルーフ・オブ・ディヴォーション(PoD)を採用している。この方式では、ブロックチェーン上で高い NR スコアを持つ開発者に、取引を認証して報酬を獲得する権利が与えられる。

これらの技術、すなわち Nebulas Force、Nebulas Rank、そしてプルーフ・オブ・ディヴォーションが組み合わされば、有益な Dapp を作る意欲を開発者に与えることになるだろう。つまり、トラクションを得て、ブロックチェーンエコシステム全体をより便利なものにしてくれるような Dapp である。

電気と同じほど重要なブロックチェーン

実際、ビジネス界はブロックチェーンに着目し始めている。4月には、Berkshire Hathaway の子会社 Helzberg Diamonds、Richline Group などダイアモンドを扱う企業が、IBM と協力してブロックチェーン技術を用い、宝石の出所の認証を行おうとしていると発表した。Facebook はデータ漏えいの不祥事で未だに混乱しているが、プライバシーの問題を扱うためにブロックチェーンを研究する部署を設けると発表した。

ある予測によれば、ブロックチェーンソリューションへの世界全体の出費は、2021年には97億米ドルに達する見込みであり、これは2017年の9億4,500万米ドルから10倍近い数字だ。

中国では、ブロックチェーン技術は政府や企業からも関心を集めている。

4月には、中国東部の杭州市がブロックチェーン産業パークを立ち上げ、スタートアップ育成のために政府資金4億7,900万米ドルを充当した。5月に中国のある高官が明かしたところによると、中国はすでに国のブロックチェーン基準を作り始めており、2019年までに完成予定だという。これは中国政府がブロックチェーン技術を支援しているという証だ。

これほどの熱狂が見られるものの、同技術が広く採用されるまでにはまだ時間がかかりそうだ。インターネットリサーチ企業 Gartner が行った最近の調査によると、調査対象となった様々な企業の情報課長のうち77%が、ブロックチェーン技術に興味がない、または同技術を採用する計画がないと答えたのだ。

Gartner のバイスプレジデント David Furlonger 氏は次のように語ったとされる。

ブロックチェーン技術は、セキュリティ、法、価値交換、分散型統治、プロセス、商業的構造に関する根本的な理解を必要とします。したがって、従来の事業部門や企業のサイロは、これ以上今までの構造の下では動かなくなるということになります。

Wang 氏も、新奇だという理由で自らの仕事を人々から無視された経験がある。Nebulas を設立する前、彼は家族から反発され、ブロックチェーン技術の可能性を両親に完全に理解してもらうことはできなかった。大学での仕事をすでに退職した彼の両親は、仮想通貨を単なる数の連なりにすぎないと思っているのだ。

しかし、Wang 氏はくじけず楽観的だ。

「ブロックチェーン技術」の到来は「電気の発明のようなもの」だと彼は言う。

電気の発明前と発明後の世界は別世界だということを私たちは分かっていますから。

注記:Nebulas は2017年6月28日に8,000イーサリアム(同時点で約229万米ドル相当)を調達した。2017年12月17日には、6,000万米ドル相当以上のイーサリアムを調達した。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】