「投資は、ライフスタイル確立手段の一つ」——独自のブランディングで、ミレニアル世代の顧客獲得に成功したお金のデザイン【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本のリーテル金融業界は、アメリカほどは洗練されていないか料金が高い傾向にある。さらに、年金や税金は一般的に雇用主によって徴収されるので、たいていの人にとって投資について熟考する理由も多くない。

お金のデザインの中村仁氏は、ミレニアル世代をターゲットにするという興味深い戦略で、そのような状況を変えようとしている。価格競争がすべてとされる市場において、お金のデザインは、金融に関係のないプレミアムなライフスタイルブランドを構築することを決めた。

そして、その戦略はうまくいっているようだ。

今回も興味深い話なので、お楽しみいただけると思う。

お金のデザイン 代表取締役社長 中村仁氏

Tim:

お金のデザインの戦略とプロダクトについて、教えてください。

中村氏:

我々の会社、そしてプロダクトの「THEO(テオ)」は実にシンプルです。ロボアドバイザリーサービスを提供していて、我々の顧客は毎月少額を投資し、我々はそれをバランスよく、コストの低い ETF(上場投資信託)のポートフォリオに投資しています。

Tim:

ということは、WealthfrontBetterment のようなアメリカ企業と似ていますか?

中村氏:

基本的には同じアイデアですね。我々は、いくつかの質問をして顧客毎に最適なポートフォリオを設計します。しかし、主なインターフェイスとしてはモバイルを使っており、たいていの金融業界よりも若い世代の投資家に特化しています。

Tim:

たいていの会社は、お金をたくさん持っているシニア層に特化しているんですよね?

中村氏:

そうですね、しかし、今若い人々は成長し豊かになるでしょうから、今からリーチしておくことには意味があります。実際には、我々の顧客の51%が30代で、15%が20代です。昔からある金融機関では、20代の顧客は5〜7%程度です。彼らもこれが問題だと認識してはいるものの、若い世代にリーチするのに苦戦しています。

Tim:

では、どうやって、お金のデザインは若い世代にリーチしたのでしょうか? 投資に回すお金をあまり持たない人々を巻き込むのは難しいに違いないですよね?

中村氏:

いいポイントですね。例えば、我々の新しい顧客の89%には投資経験がありません。ですから、THEO を使いやすくわかりやすいものにする必要がありました。昔からの金融機関では、ウェブサイトも UI も大変複雑になりがちです。おそらくシニア層に専門知識やノウハウを披露しているのでしょうが、若い世代はそのように考えません。我々は物事を大変シンプルにし、顧客がサインアップするのを簡単にしたのです。

Tim:

シンプルさをアピールされるのはわかりました。しかし、どうやって若い人々に、最初に出会ったアプリで投資してみようと促すことができたのでしょうか?

中村氏:

我々のブランディングは、金融を中心に据えていません。むしろ、ライフスタイルを中心に置いています。欲しいライフスタイルを築くために、投資をしようというものです。我々には「Outliers(アウトライヤーズ)」というオウンドメディアがあり、自ら選んだライフスタイルで生活する人々を取り上げています。有名登山家、シェフ、アーティストなどのインタビューなどで構成され、金融や THEO についての記事はないですが、最後にスポンサーとして THEO が紹介されているだけです。記事をソーシャルメディアでシェアしてくれる人々も多く、これが強いブランドウェアネスとブランドローヤルティの構築につながっています。大きな金融機関は、我々の400倍以上の口座を持っていますが、ソーシャルメディアのフォロワーは我々の方が多いと思います。

Tim:

金融サービスが複雑になるほど、特にその戦略は的を得ていますね。

中村氏:

そうなんです。金融商品に関して、顧客が決断するのは難しい。常に、情報が少ないか多すぎるかという状況です。信頼できるブランドとなり、シンプルであることが、大きなアドバンテージになるのです。

Tim:

最近、銀行や大手金融機関と提携されましたよね?

中村氏:

はい。これらの提携は、我々の長期的な成長において重要になると思います。日本では、ほとんどの人が銀行口座を持っているので、そこにユーザ数の増加は見られませんが、多くの人は金融アドバイスへのアクセスを持っていません。銀行は一般的に、この種のアドバイスを提供するような専門知識を持っていないので、我々がそれを提供できるよう提携したわけです。

Tim:

それは、銀行のブランドのもとで提供するのですか? それとも THEO のブランドで?

中村氏:

共同ブランドのもとです。ビジネスモデルは銀行毎に多少違っていて、紹介した顧客毎に我々から手数料を受け取る銀行もあれば、プロフィットシェアに近い形を取る銀行もあります。

Tim:

より広い分野の顧客層を手に入れられるという点で、このような提携は貴社にとって素晴らしいと思います。しかし、銀行の視点からは、新しいビジネスラインとして見ているのでしょうか、あるいは、若い顧客層にリーチする手段として見ているのでしょうか?

中村氏:

彼らは新しい売上を確保する手段を得ることに前向きだと思いますが、銀行にとっては、ミレニアム世代の顧客にアピールできることが、より重要なのだと思います。彼らは自分たちが提供するサービスのイメージを変えたがっています。今こそ、ブランドローヤルティが確立されるべきときなのです。

Tim:

THEO のようなプログラムを開発するための技術スキルはさほど高いものではないのであれば、銀行が自らロボアドバイザーを開発しようとしないのはなぜでしょうか?

中村氏:

自前での開発に挑戦した銀行も数行あります。彼らはソフトウェア開発会社に構築を依頼しましたが、開発・維持には多額の費用がかかり、品質も低いものになることがわかったのです。我々と組んで、可能な限り最良のロボアドバイザーを我々に開発・維持させた方が、銀行にとっては利益が生まれるわけです。


お金のデザインの「価格では競争しない」という戦略には感銘を受けた。日本はコストに敏感な市場だ。昔からのブローカーたちは費用が高く取扱手数料も高いが、アメリカやヨーロッパに比べると、投資家らはその費用の高さにあまり関心がない。この環境において、ライフスタイルブランドとして差別化を図ることには合点が行く。

しかし、投資家からの関心と透明性の確保が増すにつれ、手数料に関する強いプレッシャーが働くことは確実だろう。それがいつになるか言及することは難しいが。

お金のデザインによる銀行との提携は、スタートアップ提携のほぼ完璧な一例と言える。銀行は大市場へのアクセスをお金のデザインに提供し、他方、お金のデザインは銀行に新サービスを提供する。買収につながらない限り、このような提携は短期的なものになりがちだ。スタートアップと大企業の双方が常に成長機会を求めていると、最終的に利益は整理できなくなり転落が起こる、

言うまでもなく、お金のデザインはもはや提携を必要としないまでに成長しているが、素晴らしい成長軌道に乗っているように思えた。

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