月間20億再生の料理動画メディア「Tastemade」が常設カフェ開店ーー“分散型メディア”がオフライン進出する際の落とし穴とは?

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<ピックアップ : Tastemade tests brick-and-mortar cafes as new revenue stream>

月間視聴者数2億人、動画視聴数20億回にのぼる世界有数の料理動画メディア「Tastemade」が常設カフェをブラジルで開店させる予定とDigidayが報じています

Tastemadeにとってブラジルは視聴者流入数が世界2位の市場。十分な潜在顧客層がいると想定しカフェ開店へ踏み切ったといえます。店内にはTVスクリーンが置かれ、各メニューに関する動画が流れ続ける内装になるとのこと。

今回の実店舗開店は初めての施策ではありません。2年前、米国カリフォルニア州サンタモニカでTastamadeへ料理動画を提供していた2人の著名料理クリエイターが開いたレストランBondi Harvest Cafeのサポートを行っています。

これは視聴者にとってTastamadeの世界観を直接体験できる機会であり、また、Tastemadeにとっても、初めてのオフラインコンテンツがどの程度のリアクション、収益を生むのかをテストする事業機会になりました。こうした経験を踏まえ、常設カフェでも最低限の収益を生み出せると判断したのでしょう。

“分散型メディア”の欠点はユーザーデータの管理体制

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Image by Alan O’Rourke

Tastemadeは、各SNSのユーザー属性に最適化した動画コンテンツを投稿することで大量の視聴数を稼いで巨大プラットフォームへと成長。一定数以上の視聴者数を獲得した後、広告スポンサーを募って収益化するモデルを採用しました。

こうしたSNSを使って大量の視聴者を集め、広告収益を獲得する事業モデルは“分散型メディア”とも呼ばれ、今や世界中の動画メディアが模倣しています。しかし同モデルの最大の欠点はユーザーの視聴データを管理できない点にあります。

たとえば、FacebookとTwitterのタイムライン上でTastemadeの動画を視聴したとしましょう。視聴者が同一ユーザーであったとしても、どの媒体で、どのコンテンツを、どの時間に、どのくらい視聴したのかなどのデータ連携を行うことができません。

コンテンツ投稿先が全く違うサービスであるため、ユーザーのアカウントを一元管理できない点が仇となってしまっているのです。この点、ユーザー属性・コンテンツ趣向データが収集できないことから、各視聴者に合わせたオススメ動画の提案ができません。

一方でNetflixやAmazon Prime Videoのように、ユーザーの動画視聴データを蓄積でき、最適なコンテンツをお勧めするパーソナライズ提案の仕組みを持っているサービスの方が、長期的に見れば利用価値が高いといえるでしょう。

試されるのはオンラインとオフラインの連携戦略

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Tastemadeのメディア戦略は、“マルチチャネル化”とも言い換えられます。

これはオンラインとオフラインの複数チャネルを持ち、ユーザーは独立した複数のタッチポイントを持ちます。また、ユーザーとの接点を増やすことだけが目的であるため、ユーザー体験に一貫性がないのが特徴です。

たとえば、日本版Tastemadeでは日本人、米国版Tastemadeではアメリカ人をターゲットにコンテンツ制作が行われていることから、全く別々のセグメントとして区分けされています。今回のカフェの場合、ブラジル人しかターゲット顧客でしかないため、日本人ユーザーの私たちとは全く独立したチャネルとして成立しています。このように、ユーザーにとって、TastemadeのSNSチャネルと、カフェという店舗チャネルに全く一貫性がありません。

そのマルチチャネル化の先にあるのが、“オムニチャネル化”です(正確には“クロスチャネル化”が途中で入りますが本記事では割愛します)。

ここでは複数のチャネルを持ちながら、顧客管理を一元化できている点が強みです。Amazonが展開している実店舗Amazon Goはまさにオムニチャネル化の戦略に沿って拡大を続けています。

つまり、AmazonのEコマースサイトで買い物をしたオンラインでの購買履歴と、Amazon Goでのオフラインの購買履歴を結びつけることで、顧客データをオン/オフ隔てることなく、一貫して管理することができます。顧客データをチャネルを問わずに管理できれば、一貫したサービス体験を提供することが可能になったり、先述したパーソナライズ提案の精度を向上させることができるようになります。

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なので、世界200カ国以上で展開しているTastemadeが目指すべき姿は、まさにAmazonが行なっている顧客データの一元管理にあると考えます。

たとえ常設カフェを開店したとしても、来店客がどのような自社動画コンテンツを視聴しており、どのような食べ物の好みがあるのかというオンラインデータが反映されない限り、一貫した顧客体験を提供できません。1回切りの来店で飽きてしまう新規顧客しか囲えず、単にチャネルの数を増やすだけの施策に終わってしまうでしょう。

サービス立ち上げ時からユーザーのデータ管理に注目していないオンライン企業が、たとえいくらユーザー数を囲っていようとも、オフライン市場へ進出した際、これまで培ってきたオンラインユーザーのデータを活かせず、失敗してしまう可能性が高まります。

顧客ごとにパーソナライズ化したコンテンツ提案ができない限り、オフライン市場へ参入したとしても、競合優位性を保つのは至難です。今回のカフェもこの視点が欠けているのであれば、一過性のコンセプト店舗としてしか認識されないでしょう。

多くのメディアが脱SNSを目指し、自社サイトへとユーザーを流入させ、アカウント作成まで漕ぎつけようとする動向には納得がいきます。一度でもアカウント情報を獲得できれば、たとえばイベントや店舗事業へと進出した際にも、オンラインデータを最大限活用することができます。

これから登場するメディアには、ユーザーデータの一元管理を軸に、オンラインとオフラインの両方をうまく活かした事業展開が求められると考えます。

via Digiday

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