本稿は、イスラエル・テルアビブを拠点に事業展開している、Aniwo 共同創業者兼 CEO 寺田彼日(てらだ・あに)氏による寄稿である。Aniwo は2014年8月の創業、2015年1月にサムライインキュベートからシードラウンドで10万ドルを資金調達していることを明らかにしている。
Aniwo は現在、イスラエルのスタートアップと投資家のマッチングプラットフォーム「MillionTimes」を運営している。これまでに Aniwo による寄稿はこちら。

【情報開示】著者が経営する Aniwo は、以下に掲載されたスタートアップのうち、PumaPay、LeadCoin、Sirin Labs の3社について、契約関係があります。
グローバルで存在感を放つイスラエル
イスラエルスタートアップエコシステムの日本での認知度は年々高まっている。一般的に、サイバーセキュリティ、ヘルスケア、自動運転関連で注目されるイスラエルスタートアップだが、新たなトレンドとしてブロックチェーン領域での盛り上がりは見逃せない。2017年から新たな資金調達手法 ICO(Initial Coin Offering)が世界中で拡大したが、グローバルトップクラスの額を調達しているプロジェクトには、イスラエルのスタートアップコミュニティが深く関わっている。
2017年の資金調達額 Top10 のプロジェクトに絞って見ると、1億5,700万米ドルを集め、ブロックチェーンスマートフォンと OS の開発を進める SIRIN LABS が第3位にランクインしている。それに続く形で、トークンの流動性担保プラットフォームを開発する Bancor、また KIN を発行する Kik の ICO には、後述の Orbs チームが深く関わっている。

イスラエルがブロックチェーン領域で先端を行く3つの理由
このように、資金調達額、そして打ち出しているコンセプトの新しさで見ても非常に注目度の高いプロジェクトがイスラエルから多数輩出されている。その理由は大きく3つ挙げられる。
1. 未来志向のイスラエル人
よくイスラエル人は10〜20年先の未来を見据えた事業を創ると言われる。例えば、昨今重要性が増しているサイバーセキュリティであるが、業界最大手の Check Point Software Technologies は1993年設立、自動運転の核となる視覚システムを開発し2017年に Intel に153億米ドルで買収された Mobileye も設立は1999年であり、来る未来を見据えて研究開発と事業展開を行ってきたことが見て取れる。
そんなイスラエルで多くの起業家や投資家がブロックチェーン領域への転換を図り初めている点は興味深い。例えば、イスラエルで最もアクティブなVCの一つである Singulariteam は2017年よりブロックチェーン特化のファンド、Hub、コンサルティングサービスをワンストップで提供する Alignment Group を設立し、経営資源をそちらに集中している。

Image credit: Aniwo
2. イノベーター気質で層の厚いエンジニア
イスラエルから多数のテクノロジードリブンのスタートアップが生まれていることは良く知られているが、それを支えるのは多数のエンジニア、サイエンティストによる R&D 活動である。OECD の調査によればイスラエルは人口当たりのエンジニア数が世界トップとのことだ。
ソフトウェア開発の領域では特に Java Script や Python のエンジニアが多く、ブロックチェーン領域との相性が良い。現地での肌感覚としても優秀なエンジニア程、好奇心が強くイノベーター気質があるため、ブロックチェーンスタートアップの立ち上げや初期メンバーとしての参画を始めている例を散見する。
3. ユダヤ人のグローバルネットワーク
イスラエルの人口は約868万人だが、世界のユダヤ人の人口は約1,400万人を超え、特にアメリカやヨーロッパに多くのユダヤ人が分布している。彼らは、各国のスタートアップ、金融、法律、研究等領域で重要なポジションに居る場合が多い。それらの領域は規制、新技術、資金調達等でダイレクトにブロックチェーン領域の発展に繋がるため、ユダヤ人の人脈が活きる。
2018年注目プロジェクト7選
上述のようにブロックチェーンスタートアップを生みやすい土壌を持つイスラエルだが、ここではイスラエル人が関わる注目のスタートアップ7社を紹介する。
1. PumaPay
PumaPay は、2018年5月に世界で7番目の規模となる ICO で1億1,700万米ドルの資金調達を行い、ECや事業者向けの決済プロトコルを開発する。従来の暗号通貨での支払い、ブロックチェーン上の処理では不可能だった、従量課金、口座引き落とし、割り勘といった支払い方法を可能にする。また独自のインセンティブプログラムとマーケットプレイスをウォレットに実装し、多くの暗号通貨ホルダーを呼び込むエコシステム構築を行っているのが同社の特徴。
2. Infinity AR
AR 開発のためのプラットフォーム構築を行ってきた Infinity AR は、これまで Alibaba(阿里巴巴)やサン電子等から累計2,500万米ドルの資金調達を行ってきたが、2018年にエクイティと ICO を融合したラウンドで4,000万米ドルの調達を計画している。TGE(トークン生成イベント)を通して、トークンエコノミーの形成、ブロックチェーンによるコンテンツマネジメント、トークンによる決済を含む XR の総合マーケットプレイスである IAR ストアを開発する予定。
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3. Orbs
Orbs は Kik が ICO を行う際にトークンエコノミー設計、システム開発等に携わった経験から、多数のユーザーを抱えるコンシュマー向けのアプリにおいてブロックチェーン技術の導入を容易にするクラウドサービスを提供しブロックチェーン、分散化時代の AWS を目指す。バーチャルチェーンと Helix Consensus Algorithm によってスケーラブルでスピーディーな処理を可能にする。
4. LeadCoin
LeadCoin は、ブロックチェーン技術を用いた分散型 Web マーケティングプラットフォームを開発。リード(購入見込み顧客)の購入意欲・購入希望商品などに応じて LeadCoin がリアルタイムでデータを更新し、事業者に情報提供を行う。LeadCoin のネットワーク上でのリードの売買は独自トークン LDC を用いて行われる。現在約97%が休眠データとなっている Web マーケティング業界で、分散化技術による高度なセキュリティを実現した新たな手法としてスタンダードになることを目指す。2018年3月に行われた ICO では30分以内に5,000万米ドルを調達した。
5. BlockTV
BlockTV は、現在中央集権的に情報のコントロールを行うテレビメディアをブロックチェーン技術を用いて非中央集権化することで、信頼度が高く意味のある情報を発信していくことを目指す。PoW(Proof of Watch)により、新たな形の広告モデルを構築し、視聴者限定の独自トークンBTVの配布を通じて新たなコミュニケーションを可能にする。2018年8月テルアビブでスタジオをオープンし、2018年12月より配信を開始予定。その後、ロンドン、東京、ニューヨークにもスタジオを開設予定。
6. Zinc
Zinc は、イスラエルのアドテク業界のユニコーンである ironSource とパートナーシップを締結し、ブロックチェーン技術を用いた広告配信プラットフォームを開発する。Zinc のウォレットアプリでユーザー自身の個人情報を入力することで、ユーザーに最適化されたトークンのリワード付き広告を他のアプリ上で閲覧が可能になる。
7. SIRIN LABS
SIRIN LABS は、世界初のオープンソース・ブロックチェーン・スマートフォンを開発する。同社が開発する FINNEY はハードウォレットを搭載しており保有するビットコインやイーサリアム、ERC20 ベーストークンの安全な保管が可能になる。また、SIRIN LABS のトークン SRN の利用によって、Dapp ストアからのアプリ購入や課金、ユーザー間での送受金が手軽に行えるようになる。既に鴻海の子会社と連携し、台湾にてデバイスの開発を進めており2018年末の発売を予定しており、東京にもストアをオープンする計画だ。
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以上のように、多数のブロックチェーンスタートアップが生まれており、インフラやユーザーベースが整ってきた状況を鑑みると、2018年後半から2019年にかけてイスラエルを筆頭に世界中で多数の Dapps スタートアップが生まれてくると考えられるので、その動向にも注目したい。
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