Echelon Asia Summit 2018のピッチコンペティションで、決勝ステージを飾った10チームの顔ぶれをご紹介

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6月28日〜29日の2日間にわたり、シンガポールのテックニュース・ブログ e27 が開催する年次のスタートアップ・イベント「Echelon Asia Summit 2018」が開催された。

今回は、国際展示場「Singapore Expo」の例年より大きなホールに会場を移しての開催。あえてメインステージを設けず、テーマ毎に Future Stage、Create Stage、Founder Stage など4つのステージが設けられ、セッションだけではない起業家や投資家のネットワーキングに主力が注がれた。これが功を奏してか、主催者発表で2日間ののべ参加者数は8,000人だったそうだ。

Echelon のハイライトであるスタートアップピッチコンペティション「Top 100」は今年、アジア太平洋地域20都市(スケジュールの都合で東京予選は中止となったが…)で予選イベントが開催され、各国から総数150チーム以上(Top 100 であるが、もはや 100 を超えている)が Founder Stage で行われたピッチセッションに参加した。本稿では、決勝ステージを飾ったファイナリスト10チームの顔ぶれをランダウンしてみたい。

Top100 の決勝ステージの審査員を務めたのは次の方々。

  • Kurt Tanyu 氏 – Openspace Ventures
  • Julian Low 氏 – Vertex Ventures
  • Jeffrey Paine 氏 – Golden Gate Ventures
  • Nic Lim 氏 – 8capita
  • Dr. Clarice Chen 氏 - Enterprise Singapore

【優勝】【プラットフォーム・マーケットプレイス部門賞】TreeDots(シンガポール)

<副賞>

  • シンガポール生産性規格革新庁 Spring Singapore が実施する、スタートアップ支援プログラム「Startup SG」から3.7万シンガポールドル(約300万円相当)の助成金を進呈。
  • 9月に Spring Singapore が開催するディープテックスタートアップイベント「SLIGSHOT@SWITCH」への優先出場権を進呈。

人口増に伴う食料不足が叫ばれる中、食料廃棄が減らないのは世界各所で悩ましい問題となっている。ただし、この問題は、消費者が店頭で注文したり、家庭で調理したりしてから食べ残しが生じているわけでなく、廃棄食料の9割が消費者の手に渡る前の段階、つまり、店頭での余剰在庫や賞味期限切れ前の廃棄処分から生じている。

TreeDots は、シンガポール国内の食料雑貨商と提携し、賞味期限切れを起こす前の食料品を極端に安い値段で買取り。それらを必要なユーザにオンラインで販売し迅速に届ける。いわば、「食料品のアウトレットモール」という位置付け。大量に買い付けることで金額のメリットが出やすいことから、B 向けの販売が多いようで、これまでにレストランなど137軒が登録していて33軒が積極的に購入しているとのこと。

レストランなどは TreeDots から食材を仕入れていることを明らかにすることで、環境保全に寄与していることを顧客に訴求できるだけでなく、仕入代金を安くすることができる。食料を販売した側の雑貨商も、廃棄に関わるコストを減らすことができるだけでなく、むしろ、追加的な収入が得られることになる。

【準優勝】【ロジスティックス・サプライチェーン部門賞】Kargo Myanmar(ミャンマー)

<副賞>

  • シンガポール生産性規格革新庁 Spring Singapore が実施する、スタートアップ支援プログラム「Startup SG」から3.7万シンガポールドル(約300万円相当)の助成金を進呈。
  • 9月に Spring Singapore が開催するディープテックスタートアップイベント「SLIGSHOT@SWITCH」への優先出場権を進呈。

Kargo Myanmar は、ミャンマー国内で運送版の Uber を提供しようとするスタートアップだ。ミャンマーでは、物流サービスが発達していないために、荷物配送のために自社所有のバンを所有することを余儀なくされる。物流ニーズのある企業と、稼働していないバンとを結びつけるプラットフォームだ。

2016年9月にローンチし、これまでのところ B2B ビジネスの企業、中でも同様のサービスを他国で使うことに慣れていることから海外企業を顧客に迎えることに特化しているとのことだ。以前、Tech in Asia 2016 Singapore で紹介されたマニラ都市圏を中心に展開する Mober Technology を始め、東南アジアには GoGoVan(高高客貨車)、Lalamove、Deliveree、Ninja Van など同業の競合が存在する。ミャンマー国外へのスケールには、何らかの戦略が必要になるだろう。

【オンライントラベル部門賞】BookMeBus(カンボジア)

ASEAN 諸国においては、バスサービスは各社毎に分断されていて、基本的に当該会社のカウンターに行かなければチケットを購入できない。BookMeBus は、航空会社における GDS(Global Distribution System)的な存在になることを目指している。バス会社は BookMeBus と接続し空席を販売、さらに BookMeBus は OTA(オンライン旅行代理店)などを通じてバスチケットを販売する。

現在はカンボジアに特化してサービスを提供。これまでに、プノンペン市内のドライバー400人と契約をしており、カンボジア国内、および、カンボジア⇄ベトナムとカンボジア⇄タイのバスサービスのほか、一部フェリーやプライベートタクシーのサービスも提供する。旅行代理店10,000社と契約し販路を確保。販売時に価格の20%を手数料として徴収し、これが主な収入源となる。

同様のサービスは、インドの RedBus、フィリピンの PinoyTravel、タイの Pombai などにも見られ、今後アジアの事業拡大時に競合となることは必至だろう。

【フィンテック・ブロックチェーン部門賞】Energo Labs(中国)

Energo Labs は、上海を拠点とするエネルギーの非中央集権化・自活化を支援するスタートアップだ。同社のプラットフォーム上では、エネルギーはデジタルアセット化され、P2P(peer-to-peer)、M2M(machine-to-machine)、V2M(vehicle-to-microgrid)、V2G(vehicle-to-grid)で取引が可能だ。このプラットフォームを使って実験を行ったところ、ソーラーパネルなど発電施設を持つプロシューマーは最大で44.56%収入が増え、消費者は電力会社に支払う場合に比べ最大で20.44%電気代が下がったという。

先日バンコクで開催された Techsauce Summit でも Exora というスタートアップが、フィリピンの電気代の高さをペインポイントに掲げていたが、Energo Labs も中国スタートアップながら、フィリピンを主要な市場の一つと位置付けているようだ。Energo Labs と同じく、ブロックチェーンを使った電力取引プラットフォームとしては、シンガポール の Electrify なども競合と考えられるだろう。

【 E コマース部門】Hungry Hub(タイ)

Hungry Hub は、コース料理を謳い文句にする有名レストランではなく、ビュッフェスタイルやアラカルトメニューなど、欲しいメニューを必要なだけ注文できるレストランに特化している点だろう。食事1回あたりのコストを少しでも下げたいと考える消費者と、必要以上にディスカウントを提供して顧客獲得しようとするレストランの間でギャップを埋める(顧客はそこまでのディスカウントを店には求めていない、とする調査が得られているそうだ)。

Hungry Hub ではモバイルアプリを使い、ユーザに特に料金の割引などは行わず、レストラン情報の利便性だけを武器に顧客の誘導を図る。レストランからはコンバージョンに応じて、売上の10%を手数料として受け取る。現在タイ国内で、レストラン100店舗が Hungry Hub を利用している。

【ハードウェア / IoT 部門】Yomee by Lecker Labs(香港)

Yomee は、家庭で簡単にヨーグルトが作れる IoT 家電だ。特許出願中のヨーグルト菌の入ったポッドに牛乳を投入することでヨーグルトが出来上がる。作り方はこうだ。牛乳を入れると15分間にわたり煮沸・攪拌がなされた後、摂氏46度にまで冷却される。この状態で6時間にわたり発酵が促され、さらに摂氏10度にまで冷却されヨーグルトが完成する。

ユーザはインターネットを介して、ヨーグルトの発酵状態、食べどきなどがリアルタイムでモニターできるほか、消費状況に応じてヨーグルト菌などの追加注文なども行える。ヨーグルト菌の入ったポッドは最大6ヶ月間の保存が可能で、プレーンのほか、ストロベリー、バニラ、ブルーベリーなどフレーバー入りのものから選べる。

【B2B、SaaS、エンタープライズソリューション部門賞】WebTotem(カザフスタン)

WebTotem は、Web サイトオーナーにセキュリティモニタリングと防御のしくみを提供する SaaS だ。2つの JavaScript を Web ページに挿入するだけで、サーバ内のスキャンニングのほか、WAF(Web Application Firewall)、バックアップ、アンチウイルス、伝播テスト、ブラックリスト適用、異常時の通報など、Web サイトのセキュリティ確保に必要な一連機能を包括的に提供する。

WebTotem は、カザフスタン国内で民間の CERT(コンピュータ緊急レスポンスチーム)も運営。カザフスタン防衛省のコンピュータシステムのセキュリティ防御にも利用されているとのことだ。現在、監視しているサーバ台数は13万台以上。日本から東南アジアへの進出中の競合としては「攻撃遮断くん」が挙げられる。


以下は受賞には至らなかったものの、ファイナリストとして決勝に残った4チーム。

IdealHub.co(マレーシア)

賃貸物件の貸主と借主の間を取り持つマーケットプレイス。借主にとってはアパートをホテルのような感覚で借りられ、貸主にとっては未払の請求が残らないようにする(日本のような敷金制度が無い市場での利用が前提)。賃貸物件の利便性を向上させることで、物件オーナーにとっては回転率(占有率)を高められるメリットがある。

IdealHub.co が借主のクレジットスコアリングを行うことで、異なる貸主からも物件を借りやすい状況を提供。また借主にとっては、不動産サイトにありがちな偽の物件情報掲出、貸主との面接、物件探しにかかる手間などを減らせるメリットがある。貸主からは家賃収入の一部を手数料として受け取るほか、貸主の希望に応じて、家賃の30%を手数料として受け取ることで物件の管理代行サービスも提供する。

RunCloud(マレーシア)

RunCloud は、AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)など、複数のクラウド環境を、Web ベースのダッシュボードで設定できるサービスを、月額15米ドルまたは年額150米ドルで提供。2017年1月にローンチし、顧客数はアカウントベースで7,000件、接続しているサーバ数ベースで5,200台。

昨年11月にマレーシアのアクセラレータ Cradle から77,000米ドルを調達しており、今後、アメリカやヨーロッパでの顧客を獲得するために100万米ドルを現在調達中。類似サービスは他にもあるが、クラウド環境の設定についての知識を持たない人でも、簡単に使えるよう操作を簡便にしているのが特徴だとしている。

Vitaboost(タイ)

Vitaboost は、定期購入型のパーソナライズされた栄養補助サービスを提供するスタートアップだ。ユーザには契約する最寄りの病院で検査を受けてもらい、それに基づいて最適化された栄養補助ビタミン(サプリメント)を定期的に届ける。予防医療として提供することで、病気になる可能性を減らすことを目指す。

2017年1月にローンチした同社では、マシンラーニングを使って、病院での検査結果からどのような病気にかかりやすいかを分析するアルゴリズムを独自に開発。その情報に基づいて、特定の病気を予防する栄養補助ビタミンを提供するほか、ウェルネスコーチによるアドバイスを提供。プレミアム版は月額69ドル、プラチナ版は月額149ドル。

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