欧州のブロックチェーン研究・開発ハブとして機能するベルリン【ゲスト寄稿】

本稿は、仮想通貨に特化したシンクタンク Baroque Street による寄稿です。

本稿を担当した Masamichi Matsushima 氏は、日本の都市銀行を退職後、Baroque Street に入社。アナリストとして世界の仮想通貨事情を調査しています。

現在は、エストニアに拠点を置き、ヨーロッパ中心に活動中です。


Full Node
Image credit: Baroque Street

7月26日、ドイツのベルリンにあるブロックチェーン特化型コワーキングスペース「Full Node」で開かれたミートアップに参加した。そこではブロックチェーンのガバナンス——誰が公的なブロックチェーンに変更を加える権利を有するのか、それはどのようなプロセスで行われるべきなのか、ブロックチェーン上で管理されるべきなのか等々——について、業界屈指のガバナンス関連プロジェクトである Tezos、Colony、Cosmos、POANetwork、Polkadot の5プロジェクトが登壇し様々な議論が展開された。

過去に訪れたミートアップのように投資家や業界に関心ある人たちが主な参加者かと思いきや、どうやらその顔ぶれがこれまでとは違う。Consensys、Parity、0x、Dfinity と いった業界でも名の知れたプロジェクトをはじめ、各々ブロックチェーン開発に携わる人たちがリスナーとして参加していたのである。議論の詳細は本稿の主旨ではない為ここでは割愛するが、議論は現在の各国選挙制度の問題にまで発展し非常に有意義な内容であった。各国で開かれている陳腐な開発者向けミートアップとは似て非なるものである。ベルリン滞在2日目にして、これまで訪れたヨーロッパ各国とは一味違った業界の空気を感じることとなった。

Full Node で開催された、ガバナンスに関するミートアップの様子
Image credit: Baroque Street

ドイツのベルリンは、スイスのツーク、イギリスのロンドンに並ぶ、ヨーロッパの仮想通貨・ブロックチェーンの中心地として注目されており、多くのブロックチェーン企業が拠点を構えている。中でも、アメリカに比べた時の開発コストの低さを理由に開発チームを置く企業も多い。ヨーロッパの中心に位置し生活インフラが整っているだけではなく、政府のイノベーションに対する理解も深い為、企業にとっては絶好の開発環境と言えるだろう。何もこれはブロックチェーン企業に限ったことではない。モバイルバンク企業として世界的にも有名な N26 をはじめ、ベルリンには数多くのスタートアップ企業が存在するのである。

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開発ハブとしての Full Node

Full Nodeは 、分散型予測市場の構築を目指す Gnosis とブロックチェーンネットワークの構築を目指す Cosmos とが今年4月に共同で立ち上げた、ブロックチェーン特化型コワーキングスペースである。両社ともに、ベルリンにあるイーサリアム開発コワーキングスペース「EthDev」にて活動をしていたが、そこから独立した形となる。

Full Node という名前はブロックチェーンネットワーク上で取引の検証等を行う〝ノード〟に由来しており、そのコンセプトは開発ハブとしてブロックチェーン技術の成熟を目指すことにある。現在の利用社数は両社を含めて22社。その中には上述した Parity や Dfinity、そして先月にマルタ証券取引所と中国大手取引所 Binance(幣安)との提携を発表した Neufund なども名前を連ねている。

Full Node では、冒頭に述べたようなイベントが毎週のように開かれている。施設内の人がスピーカーになることもあれば、外部からゲストを招くこともあると言う。現状は従来のインキュベーション施設のような法務、税務、マーケティングその他専門分野におけるサポート体制はなく、まさに共同開発スペースと呼ぶのがふさわしいかもしれない。

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Full Node 施設内にあるコンテンツの録音スペース
Image credit: Baroque Street

GnosisのBrand & Content Strategy 担当を務めるNadja Benes 氏は Full Nodeの役割について次のように述べた。

ブロックチェーン技術が成熟する為には、開発が共通の場所で行われることが重要である。互いが競争するのではなく刺激し合うことで相乗効果が生まれ、技術の発展に繋がっていく。

Benes 氏によれば、将来的には海外施設とも提携を結び、ブロックチェーンの R&D、インキュベーション施設としての体制を充実させる予定であるとのことである。

R&D に力を入れる欧州経営大学院(ESMT)

アメリカのスタンフォード大学や、先日ニュースに取り上げられたトルコのバフチェシェヒル大学のように、今年に入り多くの大学がブロックチェーン研究に乗り出している。ベルリンにある欧州経営大学院(ESMT)もその一つだ。彼らは技術研究と事例研究を重ねることで、ブロックチェーンを既存のビジネスモデルにどう応用できるかを日々模索している。また、定期的に業界の知見がある人を講師として招き、ブロックチェーン講義をオープンレクチャーとして行なっている。興味深いのは、この学校の授業料はビットコインで支払うことができるということである。

欧州経営大学院(ESMT)の外観
Image credit: Baroque Street

ESMT の CFO を務める Georg Garlichs 氏はビットコイン決済の導入について次のように述べた。

私たちの学校は国際学生が大半を占める為、多くの学生が学費の仕送り等で外国送金を利用している。ビットコインは外国送金に比べ手数料も安く、PC や携帯で簡単に送金ができるので便利。また、私たちはテクノロジーの分野に力を入れた学校である為、技術研究の一環としてもビットコイン決済を導入した。PRの観点からも導入メリットはある。

ESMT は決済プロバイダと連携してビットコイン決済の普及にも努めており、ベルリン市内のコーヒーショップやレストラン等に直接話をしに行くこともあると言う。Georg 氏によれば、未だに多くがビットコイン決済に懐疑的であり、普及の為にはビットコインの決済手数料も一つネックになってくるのではないかとのことである。

ベルリン市内にあるビットコイン決済を受け入れるバー
Image credit: Baroque Street

このように、ベルリンは確かにヨーロッパにおけるブロックチェーンの研究開発ハブとして機能している。しかし、最後に一つ付け加えたいのは、今回の滞在を通じて出会った人たち全員が「ドイツ国内におけるビットコインの認知度はそれほど高くない」と揃えて口にしたことである。国として広いというのは当然あるだろうが、その実態は各国から集まった優秀な開発者らが局所的に盛り上がりを見せているだけなのかも知れない。

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