PR視点のメルカリ・コーポレート戦略、社会との関係をなめらかにするその手法(前編)

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スタートアップ取材を続ける中で情報発信、本質的にパブリックリレーションズが上手だなと感じる企業にたまに出会います。こういう方々は社会(社内・外)との関係性がなめらかで、人々が自然とブランドを作ってくれます。

特にメルカリについてはストーリーのあるリリース社内に組み込まれた編集部チームの存在上場時に見せたパーセプションチェンジの手法など、折に触れて事例を整理してきました。こうやって眺めると、同社の経営陣やPRを担当するチームがどのように人々の情報の流れを作り出しているのか、その様子が浮かび上がってきます。

中でも私が注目しているのが小泉文明さんの存在です。過去記事でも言及しましたが、2013年12月に彼が参加してから情報発信の内容は大きく変わります。以降のメルカリは1人の取材者として伝えたくなるエピソードが多く、また、メッセージがコーポレートとしっかり紐付いていたのが特徴でした。

本稿では、先月開催されたメルカリ主催のコーポレート系カンファレンスで小泉さんが語った内容を手掛かりに、その手法を考察してみたいと思います。

そもそもパブリックリレーションズとは

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本題の前にパブリックリレーションズについて軽く整理をしておきます。

ちょうど、前述のカンファレンスでも「成長期の企業PR」をテーマにしたセッションがあり、井之上パブリックリレーションズ執行役員の尾上玲円奈さん、NEWPEACE代表の高木新平さん、メルカリPRグループマネージャーの矢嶋聡さんがお話をされていました。

彼らの言葉を借りると、パブリックリレーションズは「ステークホルダーとの関係構築、リレーションシップマネジメント」(矢嶋さん)というのが簡潔な説明で、メディア対応などの一部機能というよりは、もうちょっと上位の概念に当たるものです。

例えば企業が社会との対話をする場合、別にニュースメディアにインタビューが載ることだけが手法ではありません。プロダクトは日々ユーザーと触れ合ってるわけですし、営業でプレゼンテーションする内容もパブリックリレーションズの一環と言えます。

こういった細かい部分に企業としての考え方、コミュニケーションを織り込んでおく。一方的に伝えるのではなく、相手が自然と口にしたくなる対話の環境を作る。

「新しいものが出るときは軋轢が生まれます。この『目指す世界』を社会との対話や合意形成を通じてファンになってもらう。知ってもらうのではなく中長期の関係性を作るのが本質」(矢嶋さん)。

気がつくのは、企業のパブリックリレーションズが本質的にコーポレート(特にミッションやビジョン、バリュー)と紐付いていることの重要性です。

私も取材先でこの考え方が抜けてる事案に出会うことがあります。そういう場合は表面的な話題(数字だけや機能紹介のみ)に終始することが多く、その企業が社会とどういう関係を構築したいかが理解できません。

逆にこれがしっかり連動していると、ひとつのメッセージが説明コストを押し下げる効果を発揮してくれるので、リソースの少ないスタートアップにとって大きな武器になります。

では小泉さんはどのようにしてコーポレートとパブリックリレーションズを紐付けていたのでしょうか?彼の言葉で印象に残ったものをいくつか挙げて考察を進めてみましょう。

PR視点のメルカリ・コーポレート戦略

セッションは公開インタビューの形式で、日本経済新聞社の奥平和行編集委員とメルカリ取締役社長の小泉文明さんが対談しました。まずは全ての基本となるバリューから考察してみます。

PR視点でみるメルカリの「バリュー」

「(メルカリに入った当時を振り返って)コーポレートは課題山積でした。感じたのはものづくりのプロジェクトチームに近い印象で、ミッションとバリューも定義されてなかった。ミクシィ時代の反省でプロダクトが強い会社は(サービスの)成長がそのまま組織の吸引力になります。しかし、ライフサイクルがあるので、いい時もあれば悪い時もある。みんなの理想像がブレ始める。何が答えか分からなくなって好き勝手言い始める」(小泉さん)。

小泉さんはミクシィ時代に経験した苦い経験から、ミッション・バリューの定義された「コーポレート」とプロダクトを分ける作業をまず最初に手がけます。プロダクトに波があってもコーポレートが明確であれば、そこで働く人たちは信じるものを失いません。

ここで重要なのがミッション・ビジョンなどのステートメントです。特にメルカリのバリュー(Go Bold、All for One、Be Professional)は有名ですが、これが同社のパブリックリレーションズに果たした役割は相当に大きいものがあると考えられます。

例えばメルカリのとあるプロダクトの取材をするとします。その担当者が回答するとして、その言葉がメルカリの全体戦略にあったものなのかどうなのかは、このバリューを基準に判断すればよい、ということになるのです。

社内コミュニケーションも同様です。小泉さんも「モノゴトはOKRとバリューの2軸で決めていて、これによって会社の生産性が得られた」と話していましたが、属人的な判断の排除は企業での人間関係をなめらかにする効果も期待できます。

バリューを浸透させるためにツールやオウンドメディアを駆使する

小泉さんは普段から目にする何気ないツール類にバリューを入れたり、オウンドメディア「mercan」などで度々このワードを使うなど社内外にリーチさせ、バリュー本来の機能である意思決定で正しくこのツールが活かされる環境を構築したそうです。

また、これの浸透のために、経営陣1人1つずつ担当を決めていた、というのも注目したい点です。企業と経営陣や社員を結ぶ大切なツールだからこそ、そのインストール手法は関係性を大切にしたものでなくてはなりません。結果的にバリューは社内だけでなく、社外の私たちにまで広く伝わるものとなりました。

「創業メンバーと私の4人で経営合宿したのですが、その時、ミッションを1つ、バリューを3つ決めて、それぞれ4人で担当を決めて社員に伝えたりする責任を負ったんです。そこまでやらないと言葉ってインストールできない」(小泉さん)。

後半では引き続き、小泉さんの言葉を参考に、パブリックリレーションズ視点でメルカリのコーポレート戦略を考察してみたいと思います。

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