ミドリムシ大量培養技術のユーグレナ、IPOが同社にもたらした資金調達以上の価値とは?【ゲスト寄稿】

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本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本のスタートアップにとって、SaaS や IoT 企業よりも遥かに多いものがある。最近では、バイオテックスタートアップの存在が目立ち始めた。

今日はバイオテックのパイオニア出雲充氏とともに、ユーグレナでの彼の画期的な仕事について話をしてみたい。ある面では、ユーグレナは NASA が失敗したことにさえ成功している。同社は、ミドリムシという微生物を手頃な価格かつ産業規模で培養するプロセスを開発した。

出雲氏と彼のチームは、ミドリムシを使って安価な栄養補助食品からバイオジェット燃料まで、あらゆるものを作り出している。

ユーグレナ 創業者 兼 代表取締役社長 CEO 出雲充氏

Tim:

ユーグレナについて話を始める前に、ミドリムシについて説明してもらえますか?

出雲氏:

ミドリムシは小さな微生物です。サイズは0.1mm程度、人の髪の直径程度です。光合成をするので緑色です。ミドリムシは藻に似ていますが、植物と動物の両方の特徴を持っています。光合成を行うので植物に分類されますが、厚い細胞膜がなく自ら動き回ることができます。

Tim:

これまで、ミドリムシはどのように使われてきたのですか?

出雲氏:

食品や栄養補助食品として使われています。ミドリムシは植物繊維、食物繊維、脂肪酸、魚油など59種類の栄養素を作り出すことができます。植物のように直射日光のもとで培養できますが、植物のように硬い細胞膜を持たないので、人間や他の動物が消化して栄養素を摂取するのが非常に容易です。

Tim:

ミドリムシは昔から大量培養が難しいと考えられてきました。現在、どのくらい生産されていますか?

出雲氏:

この5年間は、毎年生産量を倍増させてきました。2017年にはミドリムシの乾燥粉末を約160トン生産しました。我々の主要な培養施設は、日光の強さの理由から沖縄県の石垣島にあります。

Tim:

以前はなぜミドリムシを培養するのが難しかったのでしょう?

出雲氏:

ミドリムシは非常に多くの栄養素を含んでいて消化しやすいことから、多くのバクテリアやプランクトンにとって好まれる食べ物です。したがって、その種の生物の汚染を受けずに培養することが大変難しいわけです。以前からのアプローチならクリーンルームのような施設を作ることになるわけですが、それは非常に高価でミドリムシを大規模培養することが困難でした。我々の大きな革新は、ミドリムシだけは増殖でき、他の生物は成長できない新しい培養技術を開発してきたことです。

沖縄・石垣島にあるユーグレナの生産技術研究所
Image credit: Euglena

Tim:

ミドリムシ生産の技術的な問題を解決したとして、さらに、その市場を作らなければならなかったわけですよね? どのように販売したのでしょうか?

出雲氏:

最初は大変でした。製品にミドリムシを取り入れてもらえるよう500社超と話をしましたが、成功したのは数社でした。ターニングポイントとなったのは、伊藤忠との取引です。彼らは我々に出資し、日本中に8,000店舗超あるファミリーマートへのアクセスを与えてくれました。

Tim:

投資を受けたことで、他の事業機会を得ることにもつながったのでしょうね。

出雲氏:

そうです。我々は伊藤忠向けに多くの製品が作り始めていましたが、出資者と販売提携先として伊藤忠を迎えたことで、他社にも販売がしやすくなりました。以前は我々に懐疑的だった企業の多くが、伊藤忠での成功を目にして以降、自社製品の一部にミドリムシを使ってみようと考えてくれるようになりました。

Tim:

アメリカのスタートアップと日本のスタートアップで、その成長過程における最も大きな違いの一つは、アメリカのスタートアップよりも日本のスタートアップは、かなりアーリーな段階で IPO する傾向にあるということです。ユーグレナは IPO したとき、年間販売成長率はまだ50%という若い会社でした。その状況では、たいていのアメリカのスタートアップは株式公開したがらないものですが、上場を決めたのはどうしてでしょう?

出雲氏:

その一つは、私が東大発のスタートアップから、最初の上場創業者になりたかったというのがあります。2005年の大学発スタートアップは1,773社ありましが、そのほとんどが失敗に終わっています。しかし、上場の決断には、他に重要な側面がありました。東証一部に鞍替え上場したことで、大企業や政府に製品をもっと効果的に宣伝できるようになったからです。

Tim:

つまり、以前、伊藤忠を出資者に迎えて中小企業から信用を得られるようになったと同様、公開会社になったことで大企業に求められる信用を得られたということですか?

出雲氏:

それは的を得た見方ですね。製品は言うまでもなく重要ですが、日本企業は製品を見ただけで決断をしません。他に誰が使っていて、どのような関係性を築いているのかを見たがります。アメリカ企業は、(日本企業よりも)製品そのものの評価で判断する傾向にあると思います。

Tim:

これまで、ユーグレナは食品や化粧品として使い方に注力してきました。他の使い方はないのでしょうか?

出雲氏:

たいていの使い方は、コストに依存してきます。食品以外にも、まったく違った種類のミドリムシを使って全日空や JXTG と提携しバイオジェット燃料も開発しています。ミドリムシは信じられないほど柔軟な微生物です。NASA は1970年代、ミドリムシが食品としてだけでなく、燃料や二酸化炭素を酸素に変換する能力もあることから、長期宇宙飛行に使える可能性を研究しました。NASA は素晴らしい仕事をしましたが、最終的には断念しました。ミドリムシを大量に培養する方法を見つけられなかったからです。


出雲氏の話の中で最も面白かった部分の一つは、彼らが外部から資金調達や IPO を求める決断をした理由だ。日本企業は欧米のそれに比べ、遥かに早い段階で、また少ない資金調達額に対して、IPO する傾向にある。

実際のところ、たいていの日本企業は IPO の結果、一社あたりの時価総額が2,000万米ドル未満に終始している。しかし出雲氏が説明してくれたように、日本では IPO が尊敬を意味する。非公開企業のときには、彼はモノにすることができない取引があった。ユーグレナは急速に成長していて多くの民間資金を利用することができたが、上場は財政的な理由よりも、航空会社、石油会社、食品小売業など保守的な企業に対して威信を示す意味があったわけだ。

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