SaaSビジネスにとってフリーミアムモデルが最良とは限らない——飲食業向け「TableSolution」運営の谷口優氏に聞く【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2018.11.24

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


無料のプロダクトを揃えるのは、潜在顧客にプロダクトを評価してもらうリスクの低い方法を与えることで新たなユーザを獲得するという、スタートアップには常套手段だ。しかし、単に販売した方が、簡単ではるかに利益を出しやすいということもよくある。

TableCheck CEO の谷口優氏は、レストランオーナーが予約を管理したり顧客を理解したりするのを支援する SaaS プロダクト「TableSolution」を開発している。谷口氏と私は TableSolution のビジネスモデルについて話をし、彼は中小企業への販売や新市場への進出について、素晴らしいアドバイス、直感だけではわからない洞察を共有してくれた。

今回も素晴らしいディスカッションなので、お楽しみいただけると思う。

(編注:原文掲出後 Vesper から TableCheck に社名改称されたのに伴い、本稿では新社名で記述しています。)

TableCheck CEO 谷口優氏

Tim:

レストラン予約は大変競争が激しい業界ですよね。その中で、TableSolution はどうやって突出していますか?

谷口氏:

TableSolution は、ぐるなび、食べログ、OpenTable といった企業と競合関係にありません。こういった企業は、予約や客席確保に特化しています。我々も同様の機能を提供していますが、完全なテーブル管理やレストラン向け CRM に特化しています。

Tim:

つまり、機能群が違うだけということですか?

谷口氏:

我々は顧客であるレストランと(既存のしくみとは)違った形の関係を作っています。たいていの予約特化システムは無料で使えますが、予約毎に料金が発生します。こういった取引発生毎の関係ではなく、TableSolution では1万2千円から2万円の月額均一料金制をとっています。均一料金なので、レストランは(TableSolution 経由の流入件数を気にせず)自店舗の Facebook ページや広告から(TableSolution 上に開設された)予約ページにリンクを張ることができます。

Tim:

たいていの SaaS 企業は潜在顧客にプロダクトを試してもらえるよう無料メニューを用意していますが、このモデルを採用しないと決めたのはなぜですか?

谷口氏:

簡単な決断ではありませんでした。フリーミアムから広告収入モデルまで、あらゆる売上モデルを試しました。プロダクト開発の過程で300人を超えるレストランオーナーやマネージャーにインタビューしたところ、オペレーションがスムーズにできると確信できるものに対してなら、月額1万円を喜んで支払うと彼らは言ったのでした。そこで、レストランのオペレーション改善に特化することに決めたのです。当時、弊社にはあまり資金がありませんでしたので、すぐにでも顧客に課金を始める必要があったことも事実です。

Tim:

なるほど。新しいプロダクトを使うために、レストランがスタッフをトレーニングして手順を変更する必要があるとすれば、必要コストのほとんどはトレーニングに関するものになりますね。そういった顧客にとって、月額が無料か1万2千円かは、大きな違いになりませんね。

谷口氏:

そうなんです。レストランが TableSolution の本当の価値の恩恵を受けるには、時間をとって TableSolution のシステムを学習してもらう必要があります。受動的な使い方では、大きな改善は望めません。例えば、TableSolution ではお客様毎の好みの情報を提供し、そのお客の収益率やトータルライフタイムバリューを計算することもできます。レストランにとっては大変価値のある情報ですが、それを使いこなすためには時間が必要です。

TableSolution
Image credit: TableCheck

Tim:

どれくらいのレストランに使ってもらっているのですか?

谷口氏:

ヒルトン、インターコンチネンタル、ハイアットといった世界的ホテルチェーンをはじめ、2,000軒のレストランにご利用いただいています。日本での成功をテコに、海外進出も行なっています。例えば、日本国内で IHG が運営する全ての施設で、また、タイやベトナムなどの施設でも TableSolution が使われ始めています。

Tim:

素晴らしいですね。トップダウン戦略をとるアメリカ企業では、アメリカ本社が新しいプロダクトを試した後、世界の支社でそのプロダクトを標準として使う、という手順を余儀なくされることは、しばしばお聞きになっていると思います。そんな中で、ボトムアップで似たようなアプローチをとる日本のスタートアップが生まれてきているのは素晴らしい。

谷口氏:

これまでのところ、世界的リーダーになった日本のインターネットサービスは存在しません。その一番乗りになることが私の目標です。

Tim:

非常に価値がありそうな多量のデータを手にすることにもなりますね。例えば、過去1ヶ月間に20代の女性が食べるクリームパスタの注文数が増え始めたとか、トマトパスタの注文数は減り始めたとか、ドイツ料理のレストランでワインの注文数がいつもより増え始めたとか。レストランにてとってはメニューを変えたり、プロモーションを計画したりする上で、非常に参考になりますよね。

谷口氏:

はい。そういったサービスは、我々の長期にわたる事業計画の中で大きな部分を占めます。しかし、我々は全く違った方向にも価値を提供できます。例えば、Tim がボロネーゼのスパゲティを大好きだとしましょう。従来からあるレビューサイトは、レストランの提供するメニューの中で特定のメニューを評価するわけではないので、役に立ちませんね。我々はボロネーゼのリピート客が多数の割合を占めるレストランをお勧めしたり、ボロネーゼ好きが高い確率でボロネーゼを注文する場所をお勧めしたりすることもできるでしょう。

Tim:

それはお勧めをする上で、極めて効率がいいですね。でも、保守的な飲食業界で、レストランはそういったツールを導入するんでしょうか?

谷口氏:

導入が速いところも遅いところもあるでしょう。ツール群が提供する価値を考えれば、たいていのレストランは最終的に、これらのツールを使ってくれるでしょう。

Tim:

数年前、BeautySalon というプロダクトをローンチされましたが、そちらはシャットダウンを決められましたね。なぜですか?

谷口氏:

当初、美容業界をはじめ、レッスンやイベント、医師や病院などで我々のプラットフォームを活用してもらえるのでは、と考えたのですが、2つの問題があることがわかりました。まず我々の開発リソースが限られており、既存ユーザから多くの改善要望を受け取っていること。そして、美容業界に対して私はあまりパッションを抱いてないからです。私はレストランで食事するのが大好きだし、飲食業界には胸をわくわくさせられます。でも、ヘアースタイリングにそれと同等レベルの関心はありませんでした。最前を尽くせるところに特化したのは、明快な選択だったと思います。


谷口氏のレストランのみに特化した決断は当然のことのようだが、反対のことを勧める VC は多い。皆が共通して持つべきスタートアップの戦略は、あるニッチで技術を証明し、それを迅速に他の新しいニッチでも再利用するというものだ。

しかしながら、スタートアップが持つ技術は往々にして自分たちが思うほど重要ではなく、谷口氏は良い戦略をとったと思う。ある層の顧客に特化することで、特定のニーズに訴求できる、世界でも唯一のプロダクトを作ることができる。

たいていの場合、結局あなたの技術は本来の競争優位性をもたらしてくれない。重要なのは、顧客との関係を理解することである。

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