ブロックチェーン時代の「価値主義」とはーーモバイルゲーム「DIG STAR」×マーケットプレイス「TEMX」のエコシステムを聞く

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本稿は11月18日から20日に東京ミッドタウン日比谷で開催されたブロックチェーンカンファレンス 「NodeTokyo 2018」編集部による寄稿(前半からの続き、インタビュワー:増渕大志/構成・執筆:平野武士)

エコシステムを支える「価値主義」とコンセンサスアルゴリズム

少し話を変えてメタップスの考える価値主義について尋ねたい。ブロックチェーンやスマートコントラクトの登場によって人々はデジタルデータを資産にすることが可能となった。創業者の佐藤航陽氏も2014年頃からポスト資本主義として度々この考え方を発信している

青木:価値主義とは、お金などの資本ではなく、その他の価値を最大化することを重視する考え方です。当然、企業や個人が経済活動をするためには、一定の資本は必要になりますが、価値をいつでも資本に変換できれば、価値がこれまでの資本代わりになります。

既に、フェイスブックやGoogleのようにデータやユーザー数を収益に転換しながら経済活動を行っている企業はありますし、SNSなどでフォロワー数を収入に転換している個人も多く存在します。既に、価値主義へのシフトは起こっています。

一方で多くのデータやユーザー数を保有している企業や個人でないと経済活動に必要十分な資本に転換できない

青木:そうですね。さらに言えば人脈や実績、評判を活かして良い条件で就職したり、起業時の資金調達をするケースも、価値を資本に転換する例ではありますが一部の人に限られます。

価値を資本に転換する仕組みはまだまだ限定的であり、特に個人に関しては、価値の恩恵を享受できるのは一部の特別な人といった印象があります。価値を資本に変換する仕組みが増え、多くの人が享受できるようになれば、価値を重視する人は増え、価値主義が加速すると考えています。

ブロックチェーンがそのソリューションとなり得る

青木:ビットコインやイーサリアムなどのパブリック・ブロックチェーンでは、誰でもブロックチェーンの運用に参加でき、ブロックの作成・検証というかたちで運用に貢献した人には、報酬が与えられる仕組みになっています。そのため、パブリック・ブロックチェーンの運用への貢献は、社会的な貢献と捉えることもできます。

マイニングは余ってるコンピューターリソースを「お金」に変換する仕組みとして期待していた

青木:しかしビットコインやイーサリアムで採用しているようなPoW(プルーフオブワーク)では、一部のマイナーが集中的にブロックの作成・検証を行っており、マイナーが集権化しています。大量の資本を投入してコンピューターリソースを確保できるマイナーが、報酬の大半を享受できてしまうので、結局は資本が資本を生み出すものになっています。

コンセンサスアルゴリズムについては様々な設計が検討されている

青木:例えばEOSで採用しているDPoSは、資本主義と価値主義のハイブリッドな仕組みのようにみえます。EOSでは、ブロックを作成・検証するBP(ブロック・プロデューサー)の数が21ノードと決まっており、投票制で選出されます。投票はEOSトークンで行われ、自身にも投票できるので、EOSトークンを大量に保有している組織や個人は、投票において有利になります。

ただし、投票においては、EOSコミュニティーへの貢献度や信頼性、運用するノードの可用性・構成なども考慮されます。ある程度EOSトークンの保有量が分散していることを前提とすると、BPに選出されるためには他者からの票もかなり必要になるので、自己資本(EOSトークンの保有量)だけでなくEOSコミュニティヘの提供価値も重要になると考えられます。

資本主義から価値主義への移行期とも言える。ただこういった下層レイヤーで全ての企業や個人がリソースを価値に変換できるとも思えない

青木:そうですね、そもそもこの仕組みも期待通り機能するかは今はまだ検証段階なので、今後どうなるかはわからないところです。

今後はコンセンサス・プロトコルより上のレイヤー、つまりブロックチェーンの上に築きあげられるシステムやサービスの中から、価値主義を加速させるような仕組みが色々と出てくる可能性はあると考えています。

メタップスはすぐにビジネスになりそうな下層レイヤーではなく、ユーザー体験が感じられる上位のレイヤーを率先して手がける理由にもつながる

青木:ブロックチェーンは非中央集権という思想のもとに生み出された技術であるため、ブロックチェーンを活用して何かを作ろうとする人には、非中央集権という思想に共感した人が多く存在します。そのため、ブロックチェーンを活用するプロジェクトの多くは分散的に運用されるシステム/サービスの実現を目指しています。

多くのプロジェクトでは、分散化されたシステム/サービスの運用を実現させるために、システム/サービスに貢献した人に報酬を与える仕組みを盛り込んでいます。この仕組みが狙い通りに機能すれば、システムやサービスへの貢献といったかたちで、価値を資本に変換できる仕組みが成り立つでしょう。

トークンエコノミーは本来あるべき「貢献」と「報酬」というバランスよりも、取引所でのトレードばかりが注目されてしまった。何か注目している事例は

青木:Enigmaというプロジェクトではプライバシーが保護された状態で、個人が企業や組織などにデータ提供できる仕組みを開発しています。ユースケースとしては、マーケティング会社がニーズ調査をするために、Eコマースでの購買履歴やSNSの利用履歴を個人から提供してもらうようなケースです。

データを提供した個人にはENGトークンによる報酬が与えられる

青木:前述しましたが、これまでは大量にデータを保有する企業でないとデータを資本に変えることは難しかったわけです。しかしEnigmaによって個人がデータを資本に転換する仕組みが実現する可能性があります。

あとEnigmaでは、データ提供者に報酬を配布する処理にスマートコントラクトを使っています。データが使われたタイミングで、報酬の配布処理がスマートコントラクトによって自動執行され、データ提供という行為がすぐに資本化されるようになっています。

個人の価値を資産に転換するのに自律的なシステムでなければワークしない

青木:スマートコントラクトは、価値から資本への転換スピードを高めています。効率的に価値を資本に転換する装置として、スマートコントラクトは価値主義において大きな役割を担う可能性があります。

インタビューも終盤になったので、最後に技術面について。現在はイーサリアムベースの開発になっているがこれらはどのような意思決定で進めていくのか

青木:色々な要素を考慮して、最も普及する可能性がありそうな技術を選定するようにしています。現状は、開発環境や開発者数、利用者状況などを考慮して、イーサリアムを使っています。ただ、現時点では処理性能やgas代、秘密鍵の管理方法などの課題が多く残っています。

代替するものとして注目しているプラットフォームはあるのか

青木:これらの課題を劇的に改善するようなブロックチェーンが登場した場合、一気にシェアが変わる可能性があるということも念頭に、必要に応じて、然るべきタイミングで使用するブロックチェーンをシフトできるように動向をウォッチしていますね。

Cosmosのように異なるブロックチェーンを相互接続する仕組み(クロスチェーン)が発展する可能性もあると考えています。クロスチェーンが発展すると異なるブロックチェーン間の連携が可能になり、用途に合わせてブロックチェーンを使い分けできるようになります。一つのブロックチェーンに絞って使うのではなく、複数のブロックチェーンを組み合わせて使うケースも出てくるんじゃないでしょうか。

そうなると普及率だけでなく、用途との相性がブロックチェーンの選定基準になります。場合によっては、パブリック・ブロックチェーンと合わせて、コンソーシアム型やプライベート型のブロックチェーンも併用するケースも出てくると見込んでいます。

長時間ありがとうございました

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