Spaceborne Computer、ISSの宇宙飛行士がスーパーコンピュータを利用可能に

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マダガスカル上空を飛ぶ国際宇宙ステーションの NASA 画像。5台の宇宙探査機のうち3台がステーションにドッキングしている。2016年4月6日、ESA の Expedition 47 フライトエンジニア Tim Peake 氏により撮影され、2016年4月8日リリースされた。
Image credit: ESA/NASA

2017年8月、Hewlett Packard Enterprise(HPE)は Spaceborne Computer の実験を発表した。パロアルトに本社を置く同社は、NASA(航空宇宙局)および SpaceX と協力してスーパーコンピュータを宇宙に打ち上げた。この発表から1年と少しが経った本日(11月1日)、HPE は、Spaceborne Computer のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の能力を、国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士に提供することを発表した。

HPE は、これを大胆にも新しい「宇宙空間サービス」と呼んでいる。このサービスによって ISS の U.S. National Laboratory の科学者たちは、データ処理のために地上基地にデータを送ることなくステーション上で解析できるようになる。

このサービスによって貴重な時間と帯域幅を無駄にせずに済むようになると、HPE のハイパフォーマンスコンピューティングと AI 分野の CTO 兼 VP である Eng Lim Goh 博士は言う。地表400~1,000マイルを超える範囲では地球との通信の遅れは最大で20分にもなる。これは地球から遠く離れた宇宙空間のミッション成功の妨げにもなりうる。現在、宇宙空間のネットワーク帯域幅の大半は大量のデータセットの送信に費やされており、緊急送信や重要な通信のための帯域幅はほとんど残されていない。

すべてが計画通りに進めば、ISS の宇宙飛行士たちは Spaceborne Computer を使って、大量のデータの詳細な分析と処理ができるようになる。

Goh 博士は次のように語っている。

私たちのミッションは、地球と宇宙の新しい時代に向けて革新的なテクノロジーをもたらし、これまで想像もできなかったような画期的な発見をすることです。Spaceborne Computer の最初の実験が成功を収め、そこからたくさんのことを学びました。ISS の研究者が宇宙空間で HPC の能力を利用できるようにすることで、引き続きこのコンピュータの可能性をテストし、宇宙探索を新しいレベルに引き上げるサポートをしていきます。

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Spaceborne Computer
Image Credit: NASA

「Spaceborne Computer」は軌道上に打ち上げられた初めての商用オフザシェルフ(COTS)コンピュータシステムの1つである。2017年9月に産声をあげ、無重力空間において1テラフロップスの速度で処理した初めての COTS でもある。HPE のアメリカ HPC 技術責任者である Mark Fernandez 博士は7月に投稿したブログの中で、不安定なネットワーク接続と電源、予測不可能な放射線、太陽フレア、亜原子粒子、流星塵、事前に正しくアイドル状態にされていないコンポーネントに損傷をもたらす不安定な温度低下などに耐えられるようにする必要があったと述べている。

HPE によると、Spaceborne Computer に搭載されたソフトウェアは、現在の状態に基づいてコンピュータシステムのスロットリングをリアルタイムで管理することでエラーを軽減するとのことである。すでに、宇宙飛行士が別のシステムの電気部品を交換していた際に発生した2時間の停止と、火災警報の誤作動による16時間の緊急停止という2件の異常事態に対処している。

Spaceborne Computer は HPE の Apollo pc40サーバーをベースにしている。Apollo pc40サーバーは、最大4つの NVIDIA Tesla GPU(グラフィックスプロセッシングユニット)、12枚の2,666MHz DDR4 DIMM、2つの SFF ハードドライブまたはソリッドステートドライブを搭載可能で、2台の2000W パワーサプライを備えた、インテル Xeon プロセッサースケーラブルをベースにした2ソケットサーバーである。しかし、宇宙への打ち上げまでに146以上の安全テストや認定に合格する必要があったため、Spaceborne Computer では既成モデルよりも強力な構成が採用されている。

ディープラーニングのワークロード向けに最適化されており、クラスターグループ内で管理され、ネットワークトポロジーの配列をサポートする HPC の統合ノードも備えている。これまで ISS 上で300以上のベンチマーク実験を完了している。

HPE はもはやスーパーコンピュータ業界の新参者ではない。同社が共同開発した Columbia は10,240プロセッサによるスーパークラスターを備えており、2004年度の Top500リストにおいて世界第2位の処理速度を持つとされた。しかし、HPE は今やその視線を宇宙に向けている。

Fernandez 氏は以下のように記している。

地球から数百万マイルも遠く離れて宇宙を探索するには高い演算能力が必要になってきます。Spaceborne Computer は地球からの支援なしで演算負荷が高い実験を行うための基礎を作りました。さらに重要なのは、今回の実験から得た知識を地上の高度なテクノロジーにも応用でき、信頼性と強度を増すことができるということです。

宇宙空間でのコンピュータ利用という点では、Spaceborne Computer は火星をも超えられるハードウェアの先駆者的な立場にあり、将来的には HPE が「メモリ主導型コンピューティング」と呼ぶアーキテクチャも導入される見込みである。2017年5月、HPE は理論上4,096ヨタバイト(世界中のデジタルデータをすべて合わせたものの25万倍)まで拡張できる、160テラバイトの単一メモリプールを持つシステムのデモを行った。

このようなコンピュータがあれば、これまで数日かかっていたような複雑な問題の処理を、数秒にまで大幅に短縮できるという。

Hewlett Packard Labs のチーフアーキテクトである Kirk Bresniker 氏はブログで次のように語った。

一度にこれだけのデータ量を解析できれば、これまで想像もできなかったような相関関係を発見できるようになります。この能力があれば、知的探求の分野でまったく新しい時代が開けます。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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