溶融塩を使ったエネルギー貯蔵プロジェクト「Malta」、Alphabetのムーンショット輩出部門「X」から独立——BEVから2,600万米ドルを調達

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Image Credit: Malta

Google の親会社 Alphabet から新たなスピンオフ企業が誕生した。この企業は、溶融塩と不凍液を組み合わせた、これまでにない「グリッドスケール(電力網用)」アーキテクチャでエネルギー貯蔵に革命を起こすことを目指している。2017年にプロジェクト Malta として登場し、Alphabet の実験的な X ラボを卒業して独立した今、企業名として Malta を名乗っている。

Alphabet の本日(12月19日)の発表によると、今回の動きは商業化に向けたはじめの一歩になるとのことである。Malta は今後数か月をかけて、メガワットクラスのパイロットプラントを建設する一方で、「公益事業、送電系統、電力業界」のエキスパートとの協力を続けて将来の製品に同社のテクノロジーを導入する方法を見極めていく。

今回のニュースは、Alphabet が Bill Gates 氏の Breakthrough Energy Ventures と Malta のスピンオフについて話し合っているという報道が夏に出た後に飛び込んできた。 Breakthrough Energy Ventures は2016年にローンチされた10億米ドル規模のファンドだ。同ファンドの投資家にはKleiner Perkins の John Doerr 氏、Jeff Bezos 氏、Ray Dalio 氏、Michael Bloomberg 氏、Alibaba Group で有名な Jack Ma 氏、Salesforce の CEO である Marc Benioff 氏が名を連ねており、Malta の2,600万米ドルのシリーズ A もリードしている。他にも、香港に拠点を置く風力・太陽光発電開発企業 Concord New Energy Group やスウェーデンの事業会社 Alfa Laval も投資に参加している。

Malta の CEO である Ramya Swaminathan 氏は次のように語った。

私たちに資金を提供してくれた投資家たちは、拡張性に優れたエネルギー貯蔵ソリューションを開発するという私たちのビジョンを理解してくれています。このソリューションでは再生可能エネルギーの採用をさらに推し進めながら、世界中の送電網の安定性と回復力の向上を実現します。単なる資本投資以上の真の関係を投資家たちと結ぶことで、これまでになかった製品を開発していきます。私たちの戦略とチームがそれを実行可能だと彼らが信じていることに感謝しています。

Malta の仕組み
Image credit: Malta

Malta の技術は、スタンフォード大学の物理学者で、ノーベル賞受賞者の Robert Laughlin 氏がデザインした理論体系に基づいている。同氏は熱を溶融塩として、冷気を不凍液として貯蔵することで、理論的には数日、場合によっては数週間でも電気を保存できることを明らかにした。このシステムでは、塩や金属、空気など安価で手に入りやすい素材を使う。さらに、エネルギーが生成されるタイミングとそれが最も必要とされるタイミングのずれを、信頼性の高い形で埋める新しい工学的アプローチを採用している。

Alphabet の X チームは Medium のブログ投稿にこう書いている。

塩は数千年もの間、モノの貯蔵と保存に使われてきました。しかし、塩をエネルギーの貯蔵にも使えるという可能性に気付いたのはここ10年以内のことです。これからも独立起業としての Malta の応援を続けていきます。Malta は手ごろな価格と信頼性の高い方法で再生可能エネルギーを貯蔵する方法を開発し、パートナー企業には非常に高い専門スキルと知識が求められます。

Malta の技術の要点は次のようになる。電気エネルギーが再生可能資源やパワーグリッドから集められ、ヒートポンプを作動させる。温度差を利用してヒートポンプが電気エネルギーを熱エネルギーに変換する。その後、熱は溶融塩、冷気は不凍液に貯蔵される。電力が必要になると、両方の温度差を利用して熱機関を介して電力を生み出して送電網に供給される。

Laughlin 氏によると、エネルギー貯蔵技術の中核を成す特許が4月に発行されたという。同氏は5月にスタンフォード大学で行われた講演で発表された Malta のビジネスの詳細も明らかにしている。

Bloomberg によると、Malta の最終目標は揚水発電よりも競争力のある価格で、リチウムイオン電池よりも長期間エネルギーを保存できる製品を開発することである。揚水発電は現在最も安価に大量のエネルギーを貯蔵できる手段である。

プロジェクト Malta は、Alphabet のムーンショットファクトリーである X から生まれた数あるプロジェクトの中でも最新のものだ。X には、ドローンによって配送を効率化するサービスのプロジェクト Wing もある。また、プロジェクト Loon では気球のネットワークによって遠隔地にインターネットサービスを提供する。無人車両企業の Waymo は言うまでもない。同社は今年、商業向けタクシーサービスをローンチした。他にも、ライフサイエンス企業の Verily、地熱エネルギー部門の Dandelion、サイバーセキュリティ分析プラットフォームの Chronicle がいる。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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