変態決済国家日本は「PayPayの10日間」をどう見たーー #IVS で語られた日本キャッシュレス化、推進のカギはどこに

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セッションサマリ:金沢で開催中の招待制カンファレンス「Infinity Ventures Summit 2018 Winter」で提供されたペイメントセッションでは、中国の先進事例との比較や日本で進まないキャッシュレスの理由などが語られた。登壇したのはLINE Pay取締役の長福久弘氏、Origamiの伏見慎剛氏、pring代表取締役の荻原充彦氏の3名。モデレートはlnfinity Venturesの田中章雄氏が務めた。

セッションのポイント:2018年のフィンテックを象徴する「事件」と言えばやはりPayPay100億円還元キャンペーンですね。その影響もあってか、結果的に続いた形となったLINE Payの割引キャンペーン「Payトク」はすこぶる好調という話もありました。社会的な雰囲気というのがキャッシュレスに与える影響やこの件の是非についても後ほど。

lnfinity Venturesの田中章雄氏

さておき、日本でキャッシュレスが浸透しない理由については各所で語られている通り、現金が非常に便利だから、逆に進めるためには「お得感」が効くという調査結果も出ています。まずこの件について、日本が今置かれている状況を田中さんが綺麗に整理してくれていました。

  • クレジットカード保有はトップ3に入るのに個人消費では最下位。プレカ大好きで日本が1人5枚持っていて世界トップ。なのにキャッシュレス率は15%前後とインド以下
  • 成田エクスプレスのチケット券売機は日本発行のカードでなければ使えない。外国人が持っているApple Payは独自規格でガラパゴス化している日本では使えない
  • 中国では事業者向けの手数料が0.8%程度。対して日本の決済では3〜4%持っていかれる。マージンが10%無いようなビジネスでは半分近く持っていかれることになる。また現金化される時間も長い場合、トランザクションが発生してから45日なんていうのもある

論点としては、1:現金大国日本でユーザーにどう使ってもらうか、2:独自規格などコスト高になりがちなインフラを事業者にどう導入してもらうか、の辺りでしょうか。

日本ユーザーのキャッシュレス化はやっぱりお得が牽引

LINE Pay取締役の長福久弘氏

まず、ユーザーの利用促進についてはPayPay同様「お得感」で真正面から攻めているのがLINE PayとOrigamiです。

Origamiが17日から開始した吉野家の半額キャンペーンは会場となった金沢駅にある吉野家でも利用があったそうで、PayPay効果も手伝って「マーケット全体で資本投下が始まった。各社持ち合いながら刺激を与えることで活性化する」(伏見氏)と今後の伸びに期待を滲ませていました。

LINE Payも冒頭に書いた通り、かなりの手応えがあったそうです。

「(PayPay以前にも)キャンペーンはずっとやってきたんです。でもPayPayの10日間が終わったあとの伸びはびっくりするぐらい。一度ハードルを越えることに問題があるだけでリピートや満足度はそもそも高いんです。ユーザーがどうやったら使ってくれるかだった」(長福氏)。

ユーザー囲い込みがお得感である限り、私たち消費者にとっては嬉しい還元キャンペーンはまだまだ続きそうな予感がします。

事業者側の導入コストをどう下げるか

Origamiの伏見慎剛氏

もう一つの論点、事業者側の導入コスト問題については、分かりやすい課題として手数料があります。これは中国事例の場合、そもそも国家として上限を設けるなどコントロールが効きますが、日本は事業者間での競争が基本です。

更にQR決済の根拠となるクレジットカードブランドが海外のものであれば、その手数料率は明確な「壁」となります。Origamiはやはりそこに引っ張られる形で現在、3.25%の料率が設定されています。そこでOrigamiでは銀行と直接繋いだりチャージ方式にすることで、クレジットカード会社の「原価」に引っ張られる構造そのものを変えようと動いているという話でした。

一方でLINE PayやPringはそもそもクレジットカード紐付けをしていない「銀行口座直結型」です。こうなると事業者側に求める手数料は提携している金融機関との話し合いになりますから、融通が効きます。Pringは紐付けになっているみずほ銀行が株主でもある、ということから事業者側の手数料0.95%を実現しています。

pring代表取締役の荻原充彦氏

またLINE Payはそれ以外にアカウント課金や広告などの「LINEユーザー向けビジネス」を複合的に展開していることから、店舗手数料についても柔軟に対応できるメリットがあります。WeChat Payがまさにそのモデルですね。

PayPayキャンペーンで恩恵を受けたのは「ビックカメラ」?

日本におけるキャッシュレス推進の具体的な取り組みについて、重要な役割を果たすことになったPayPay100億円還元キャンペーンですが、これについて田中さんから興味深い比較が披露されていました。

「中国も最初はDiDi(滴滴)とかのタクシーアプリがでたときにテンセントやアリババが100億ぐらい突っ込んだんです。それと日本は何が違うか、それは恩恵を受けたのがビックカメラだったってことです。だってビックカメラって既にモバイル決済対応しているし、コンバートしてる人をさらにコンバートしたワケです。

中国は末端を変えました。タクシーに普段乗る普通の人やオフィスワーカーにまず、タクシーでWeChatを使ったら100円ぐらい還元した。

それだけじゃないんですね。乗ってる人だけじゃなく運転手にも100円還元したんです。彼らは主にブルーカラーです。キャッシュオンリーだった人がキャッシュレスに変わった。そういう意味で社会的インパクトは大きかった」。

これは納得のいく話題です。

一方でこういったインセンティブを事業者側、特に個人事業者に還元するのは日本ではなかなか難しいようです。例えばOrigamiではアパレルと組んでユーザー獲得に成功した場合、その担当者に2000円ほどの還元を試したことがあったそうです。

しかしこれは上手くいきません。個人で獲得してくれたのに、還元する先は法人になるからです。更に言えばそのインセンティブが本当に個人に渡ったかをトラッキングすることも困難になります。

逆に考えると、だからこそのビックカメラだった、とも言えます。こういったユーザー、事業者が共にメリットがあり、かつ、ネットワーク効果が生まれるようなスキームが見つかればまた大きく視界が変わる可能性が出てきます。

ということでIVSのセッションでおさらいしたキャッシュレス戦争。消費税増税とその還元というイベントも控える中で各社がどう動くのか、面白くなってきたのではないでしょうか。

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