質の高い課題がソリューションを生む源泉となるーーブロックチェーン社会実装、3つのポイント/ブロックチェーン会計士、柿澤氏(リレーインタビュー)

本稿は「NodeTokyo 2018」編集部による寄稿。インタビューに応じてくれたブロックチェーン会計士の柿澤仁氏は「ブロックチェーンビジネスサミット(主催:Neutrino、日本マイクロソフト、HashHubの3社共催)」にも登壇している

前回からの続き。本稿では数回に渡り、ブロックチェーンの社会実装に必要なポイントをリレー形式で識者に聞いていく。「LayerX」CTOを務める榎本悠介氏(@mosa_siru)からバトンを渡されたのは柿澤氏だ。(太字の質問は全て筆者。回答は柿澤氏)

識者の方にブロックチェーンの社会実装に必要なポイントを挙げてもらっている

柿澤:では、私は大手の利用促進、エコシステムの成長、質の高い課題(ペイン)を挙げさせてもらいます。

大手の利用促進についてはLayerXやBUIDLなどのコンサルティングファームが日本でも立ち上がりつつある

柿澤:誰かがやらないと始まらないですよね。

日本企業や大手企業は実績がないとなかなか踏み込みづらい状況があると思います。なので、上場しているテック企業などの実証実験結果が増えて表に出てくる必要があるんです。しかし、実際はそう簡単にはいきません。

前例なき事業に手を出せないというとネガティブに聞こえるが、実際、安心できるクオリティを担保してサービス提供してもらわないと、ひとつのトラブルがまた業界全体を冷やすことにもなる

柿澤:サポートやメンテナンスなどの有無など、運用のしやすさも重要なんです。例えば日本の大手企業は自社で新しいテクノロジーを保守していくリソースを持っていないことが多いんですね。一方でブロックチェーンベースで作成したサービスについて保守・運用をサポートしていくれるプレイヤーはほとんどいないという現実もあります。

確かにこの状態で本番運用して24・365を求めるのは厳しい

柿澤:この点OSSのプロジェクトは参考になります。OSSだけど保守運用をやる会社(例えばRedhat)があるとか、OSSと同時並行でSaaSとしてもサービス提供する(例えばelastic)など、最初からフルに非中央集権ではなく、使いやすい・使われる形にしていく必要があるかもしれません。

エコシステム全体を見渡してまだまだピースが足りてない

柿澤:この業界に多くのプレイヤーを巻き込む力があるか、問われているんだと思います。ブロックチェーンの活躍が期待されているのは金融システムの代替とか、サプライチェーン全体を巻き込んだ物流のトレーサビリティとかスケールの大きい話が多いんです。一方、前述の課題もあってか、日本では大手企業側から積極的に業界全体を挙げて改革を推進するという動きを期待するのは難しいでしょう。あってもスピード感が違っていたり。

海外では早期に大きくなったベンチャーが既存の企業を買収して業界を変えようとするなどの流れがありますが、国内はまだまだそこまでの巨額投資できるVCが多くなく、最初から大きな動きができるスタートアップは見当たりません。

この課題を加速させるのに必要な一手は

柿澤:人材の流動性はあると思います。海外では大手金融機関の役員や部長レベルの人がどんどんブロックチェーンベンチャーに転職している状況があるんですね。しかし日本ではそういった動きは少なく、大手を動かせる人材がスタートアップにまだまだ不足しています。

あとはやはり解決したい課題の設定ですね。特に「信用にかかる金銭的、時間的コスト」を軸にした具体的な課題設定が必要になると思います。更にこの課題(ペイン)の質が高くないと、質の高いソリューションは出てきません。つまりブロックチェーンを使いたいというだでは良いソリューションは生まれません。

実は大手やベンチャー問わず、それぞれの業界にどのようなペインがあるか、顧客の困っていることや業界の問題についてどんな深い原因があるか分かってない場合が多いんです。ペインを探すところからディスカッションしてブロックチェーンがそれにフィットするのか仮説を立てて検証していく余地がまだまだあるんじゃないでしょうか。

ありがとうございました。

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