日本の教育システム変革で、AIがカギを握る理由とは?——atama plus創業者の稲田大輔氏に聞く(後編)【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


前回からの続き>

Tim:

日本の学校には、そのような決断をする上で、どの程度の自由があるのでしょうか? 学校で何を教えるかについては、文科省がかなり細かいレベルまで決めていますよね。日本の中学一年生は皆、今週日本中の他の生徒と同じ数学のレッスンを学んでいるといった具合に。

稲田氏:

公立学校には厳格な標準ルールがありますが、私立学校では自ら教えるのに良いと判断した教材を使うことができます。

Tim:

過去約100年間にわたって、教育のイノベーションやディスラプションが難しかった理由は何でしょうか?

稲田氏:

全ての親には教育の体験があります。彼らには、そのイメージを変える必要がないのです。例えば、スマートフォンについて言えば、親たちは(自分たちが子供の頃)スマートフォンは持っていなかった。今は親たちもスマートフォンを持っていますが、当時はそうではなかった。自分たちがそうだったから、そのイメージを変えようとはしないのです。

Tim:

つまり、世代ごとにそういうものはありますよね。自分たちが子供の頃のイメージを引きずっていて、「これぞ教育のあるべき姿」のような。

稲田氏:

そうです。その点、塾に関して言えば、そのビジネスモデルは常に変化してます。だから塾市場では、教育をイノベートするのが比較的容易なのです。

atama plus 創業者兼 CEO 稲田大輔氏

Tim:

塾業界に競争があることからも納得がいきます。生徒たちは成果ベースでどの塾に行くかを選びますが、小学校や高校はそうではない。つまり評判の良い私立学校は複数存在しても、それらの学校同士が(塾同士のように)直接的な競合になることはない。atama plus など、エドテックで成功した多くの企業は学習ツールを提供していますが、それは全員が同じものを学ぶ教育フォーマットに則っていて、生徒たちがそのような環境で学習するのを支援している。

その第一歩は、本を全て PDF 化して、講義をビデオ化するというものですね。これでは実のところ、何も変わっていません。教育のフォーマットが変わっただけで、生徒たちにツールを与えることに関して言えば、次世代のそれは「atama+」のようなテクノロジーを効果的な学習のために使いこなすべきでしょう。次の一歩は、ただ聴講しているだけの学習の構造を変えることになると思いますが、そのような変化は日本で起きているでしょうか?

稲田氏:

そのように努力しています。我々は学習の構造を変えたいのです。教育の質を向上させるために、我々は教育ツールだけでなく、教える能力、指導方法、そういったスタイルのコーチングなど、教育に関する全てを提供しています。

Tim:

しかし、atama plus のお客は塾である限り B2B2C をやっていることになり、その関係性から言って、atama plus のミッションは常に塾を支援するというものになりますね。生徒と直接オンラインで繋がるとか、何か変えようとしていることはありますか?

稲田氏:

新しい構造の塾を始めたいと考えています。あるクラスには15〜20人の生徒がいて、全員がそれぞれ我々の仕組みを使って学習していますが、コーチもいて、コーチはコーチングだけに特化しています。コーチは生徒たちを励ましますが、教えはしません。教えているのは我々の AI であり、つまりテクノロジーが教えることに、人間のコーチはコーチングに特化しているのです。これこそ我々が作りたいモデルであり、塾市場の最大の課題は教師の不足です。だから、我々は塾と共に新しいモデルを作りたいんです。

Tim:

なるほど。説明いただいたモデルは非常に面白い。物理的に誰かがいることは重要で、しかも、同じ部屋に存在していることが皆にとって大変重要、とおっしゃっているように思います。

稲田氏:

そうです。物理的な場所と人間のコーチは非常に重要です。

Tim:

どうしてなんでしょう?

稲田氏:

消費者にオンラインプログラムを提供すれば、簡単に学習はできますが、それはトップの生徒たちのためだけになると思うんです。トップの生徒たちは自分が理解していない部分や弱点をわかっている。でも、大多数の生徒は弱点がわかっていない。だから、コーチが彼らをサポートするんです。友人と学習した方がいいですしね。

Tim:

なるほど。稲田さんがおっしゃる理想的な状況とは、教えるのを担当し学習内容を決めるのが人工知能、そして、何を学習し集中すべきか、生徒たちが決められやすいようにするのが人間知能というわけですね。

稲田氏:

しかし、それに加えて、我々の AI は、コーチが正しいタイミング、正しいコメントで生徒たちを励ますようにサポートします。コーチングに関する全てをサポートするんです。

Tim:

いずれは、全てのことを AI で対応できるようになると思いますか? あるいは、人間のコーチや教師は常に必要でしょうか?

稲田氏:

コーチや人間の教師は常に重要でしょうね。

Tim:

私もそう思います。理由はわかりませんが、数千年前から教育は常に一対一であったし、Coursera や iTunes を使った講義など成功したプラットフォームや素晴らしいリソースはありますが、こういったツールを使って効果的に学習できているのは、全体の数%の人々にとどまっているようです。

稲田氏:

トップの生徒たちでしょうね。

Tim:

そうです。だから、常に人間との対話が必要になるでしょう。

稲田氏:

我々は日本の問題を変えたいのであって、トップの生徒たちだけを助けたいわけではないんです。

Tim:

そうですね。AI は世界中で今やホットな話題になっているので、日本の AI についても質問させてください。AI 領域でなされている、特にアメリカや中国で今日行われている全ての研究と比べて、日本の AI 研究は遅れているんでしょうか?

稲田氏:

それは、どんな AI かによると思います。AI には非常に多くの種類があります。

Tim:

確かにそうです。

稲田氏:

一般的には、AI のソフトウェアに関して言えば、アメリカが最も先を行っています。AI のハードウェアであれば、日本は優位なポジションを取りつつあります。

Tim:

ハードウェアというのは、GP のようなものを指していますか?

稲田氏:

ロボットです。

Tim:

なるほど、AI ロボットですか?

稲田氏:

そうです。

Tim:

確かにそうですね。非常に多くの企業が自社の AI ライブラリをオープンソース化しているので、Google Cloud や Amazon 上で人工知能コンピューティングが可能になっています。AI がオープンソース化されるとき、AI スタートアップが市場を作り、それを守る上で最良の方法は何でしょうか?

稲田氏:

我々は問題に注力しているのであって、AI には注力していません。テクノロジー、オープンソース化されたテクノロジーは使うこともあります。領域によっては、サードパーティーのテクノロジーを取り入れることもできますが、問題に注力したいのです。

Tim:

つまり、最良の方法は AI をデータベースのようなシンプルなツールとして捉えるということですか?

稲田氏:

はい、そう思います。

Tim:

なるほど。そうやって、専門知識や自らのイノベーションの周りでビジネスを築けばいいのですね。

稲田氏:

ええ、そう思います。

Image credit: atama plus

Tim:

長期的に見ると、日本では巨大な市場が築かれることになると思います。でも、グローバルなエドテック企業はほとんどいません。特定の学校のシステムや、特定領域のクライアントに特化していることが多いようです。atama+ は世界展開するのでしょうか、あるいは、教育やエドテックスタートアップは、ローカルや国内の市場でやるべき背景があると思われますか?

稲田氏:

我々は今のところ日本市場に特化していますが、追って国外にもトライしていきたいと考えています。

Tim:

エドテックスタートアップが新しい市場へ進出するのが難しいのは、なぜだとお考えですか?

稲田氏:

教育はローカルビジネスだからです。市場によって、コンテンツもカリキュラムも違ってきます。

Tim:

なるほど。つまり同じ方法で学習できるかもしれないが、学習すべき内容に必要なものが市場によって違うということですね。確かに市場によって顧客も違ってくると思います。わかりました。では、話をまとめに入る前に、私が「魔法の杖」と言っている質問をしたいと思います。私が稲田さんに魔法の杖を差し上げて、日本で何か一つ変えたいことを言ってほしいとお願いしたら、教育システム、法律システム、リスクについての考え方、何でもいいです。日本のスタートアップのために良くなることを変えるとしたら、何を変えたいと思いますか?

稲田氏:

日本のスタートアップは多くありませんね。スタートアップ市場に対する情報が不足しているからです。三井物産で働いていた頃は、日本のスタートアップの現状について知りませんでした。ほとんどの人たちはスタートアップエコシステム、会社の作り方、人をリクルートする方法を知リません。

Tim:

彼らはそれが可能だということを知らないんでしょうか、それとも、それを実現するための一つ一つの方法を知らないだけなのでしょうか?

稲田氏:

考え方が古いんでしょうね。ほとんどの人は「大企業を辞めて新ビジネスを始めるのはリスクが高い、難しい」と考えますが、現実はそんなに難しいわけではありません。ですから、リアルな情報やスタートアップエコシステムで起きていることを皆が共有すれば、そういった困難解決の後押しにつながるでしょう。

Tim:

もっと多くの情報、もっと多くのユースケースがあればいい?

稲田氏:

そうですね。

Tim:

こういった大企業の人々に、会社を辞めて自分の会社を始めた、稲田さんや寺田さん(Sansan 創業者)のような事例を見てもらうべきですね。

稲田氏:

起業家を高校に呼んで、スタートアップのリアルな情報を生徒たちに共有してもらうといいと思うんです。人々は生徒の頃から、昔ながらの考え方を始めるので。

Tim:

つまり、大企業には入るまでに…というのでは遅いと?

稲田氏:

そう思います。

Tim:

高校生の頃ですかね?

稲田氏:

中学校か高校でしょうね。

Tim:

なるほど。その頃には、生徒たちはどのような仕事に就くかや、将来の選択肢について考え始めますからね。

稲田氏:

そうです。日本での起きているのは、生徒たちが成人と連絡を持っていないことです。生徒たちが知っている成人は、教師、両親、塾の教師くらいです。世界でより多くの情報やリアルな情報に連絡を持っていなければ、両親や教師と同じような考え方をしてしまう。もちろん、こういった大人たちはスタートアップに関する経験はありませんから、生徒たちは「大企業に行って、その仕事を続けなさい」と言われる。そして次第に、昔ながらの考え方になっていくんです。

Tim:

なるほど。同様に、前の世代のイメージが現世代に引き継がれている限り、教育も変わりませんね。

稲田氏:

はい。生徒たちは、教師や両親以外の人たちとも話をする必要があります。

Tim:

確かにそう思います。稲田さんが出会った中学生や高校生では、まだ自信を持っていますか? もしそうなら、「私はこれを作れる、そして、皆が気に入ってくれる」と自信があって、歳をとるにつれ、自信が薄らいでいきますよね。

稲田氏:

ええ。ですが、彼らならできると思います。

Tim:

えぇ、素晴らしいですね。稲田さん、今日はお話しいただき、ありがとうございました。

稲田氏:

ありがとうございました。


人工知能は私が好きな話題の一つだが、これまで常に客観的に話すのが難しいものだった。人工知能が何かを正確に定義するのが難しいからだ。あらゆる統計や適応行動がある種の人工知能や機械学習であると信じさせようとするマーケッターがいる一方で、ゴールポストを遠くへ遠くへと動かし続けるアカデミアの人たちもいる。コンピュータが痛みを学習したり、作曲したり、チェスや碁を打ったりする時、そういったマシンの行動に本当の知能の存在は見受けられない、と人々は主張する。

人工知能を定義するのが難しい時期があるのは、知能そのものを定義するのが難しい時期があるからだろうと思う。心の底からは理解していないのだ。我々は知能について話をするのが好きだ。多くの知能を持っていると主張する人は、知能の量を計るテストを開発したがるが、知能が何かという点については彼らに同意できないように思う。

さて、私は今日、あなたに全てを理解してほしいと思ってはいないが、自らそうしようとするなら、スティーヴン・J・グールドの著書「人間の測りまちがい(The Mismeasure of Man)」を手に入れるべきだ。我々が知能と位置付けているものと、なぜ、そんなに知能を気にするかについて、何ヶ月も考えさせられるような話題を扱った素晴らしい本だ。

知能は複雑で抽象的だが、教育、そう教育は私たちの目の前にある、そして目で見ることができるプロセスだ。教育の場には常に人間が必要だという稲田氏の指摘は、他のほとんどのエドテックスタートアップの主張とは意見を異としていて興味深い。しかし、お分かりの通り、稲田氏は正しいと思う。教育の重要性は、事実やスキルを若い頭脳に注ぎ込むことに他ならない。スキルも言うまでもなく重要だが、それと同じかそれ以上に重要なのは、我々の教育システムが我々の社会を形作っているという事実だ。我々は皆、自分たちの国の歴史に対する知識や理解だけでなく、共有している体験や困難と共に成長している。我々の教育体験は我々が何であるかということの多くを占め、それゆえ、教育はディスラプトするのが難しいのかもしれない。

教育システムは、効率性向上やコスト圧縮によって改善されるとは限らない。それはおそらく、一対一で学習を教わることや教室で一緒に学習することについて、その非効率性やそれへの抵抗のことを言っている。「数学は大変だ」と互いに不平を言い合うことは、それもまた価値を生み出す。我々が最も覚えているのは人間同士の対話や非効率な部分であり、そうやって自分を個人ではなく社会の一員として自分を定義するようになる。

教育、あるいは、人工知能や人間知能について考えのある読者の声を、稲田氏と私は聞きたいと思っている。disruptingjapan.com/show112 を訪問し教えてほしい。このサイトでは、投稿の情報源のセクションには、稲田氏と私が話した多くのことに関するリンクやメモを参照できる。

お聞きいただき、ありがとうございました。また、日本のスタートアップに興味のある人に、この番組のことを教えてもらえると幸いです。Tim Romero でした。Disrupting Japan をお聞きいただき、ありがとうございました。

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