今のブロックチェーンには必要最低限の優しさが足りないーーPoCの先、ビジネス化に必要な4つの視点

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本稿は昨年開催されたブロックチェーンカンファレンス「NodeTokyo」編集部による寄稿

セッションサマリー:日本マイクロソフト、HashHub、Neutrino(Omise Japanとグローバル・ブレインが共同運営)の3社は2018年12月、都内でブロックチェーン関連のカンファレンスを開催した。ステージでは「ネクストユースケース」をテーマに、ビジネスでいかにしてこの新たな技術が活用されるのか、その未来についての議論が交わされた。登壇したのはLayerX代表取締役社長の福島良典氏、HashHub共同創設者の平野淳也氏、ブロックチェーンコミュニティーCryptoAge創業者の大日方祐介(Obi)氏ら3名。モデレーターはNeutrinoの柿澤仁氏が務めた。

セッションのポイント:2018年のブロックチェーン業界はインターネット時代をけん引したプレーヤーが積極的に参入し、スタートアップとタッグを組むなどポジティブな年になりました。また、政府が主導で事業サポートを開始するなど注目が拡大したことも見逃せません。しかしマスに対する浸透という面ではまだまだこれからです。

では、今、この時期に私たちはどのような視点を持つべきなのでしょうか?

本当の意味でブロックチェーンの“ビジネス化”を進めるために必要な要素とは何なのか、セッションで語られたポイントを元に紐解いてみたいと思います。筆者が考えるポイントは次の四つです。

  • 注目したい業界はやはり『金融』、そしてFintech
  • 改めて理解すべき『権利が自律的に承認される』仕組み
  • 新興国はなぜブロックチェーンに注目するのか
  • 具体的になってきた黎明期のビジネスモデル

では、彼らの言葉に耳を傾けてみましょう。

なぜ金融業界でブロックチェーンが使われるのか

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今まで銀行は決算書を基に融資を判断しなければなりませんでした。一方、フィンテックの登場で事業者が決済データを直接所有することが可能になり、それが新たな与信の概念を生み出すことで融資することが可能になった(福島氏)。

ブロックチェーン業界では、金融の領域とうまくマッチングするのではないかと言われており、特にフィンテック分野と繋がりが大きく持てるのではないかと言われています。

福島さんも壇上で指摘している通り、これは別にブロックチェーン以前に、そもそも決済ビッグデータの恩恵で、新しい与信の概念が生まれたことが背景にあります。ブロックチェーンを用いずとも、決済データが金融機関に直接保有されているため、個人や事業者の与信は分散化を始めている、と見ることが可能です。

では、与信の分散化が起き始めている世界観に対し、ブロックチェーンの技術を導入する意義はどこにあるのでしょうか?福島さんは「リスク分散と管理」にこそ理由があると指摘します。

(与信リスクは)一つの企業が取るしかありませんが、ブロックチェーン(またはトークン)を使えば複数社(人)での小口管理が可能となります。ブロックチェーンは、このような“管理”に活用できるのではないかと思っています(福島氏)。

ブロックチェーンの重要な機能として「自律分散」という概念があります。これまでもリスクの分散は可能でしたが、それを細かく管理する場合、どうしてもテクノロジーによる解決が必要でした。保険や土地など権利の管理にブロックチェーンが有用と言われる所以がここにあります。

ブロックチェーンが評価されるべき新たな“所有”という概念

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Neutrinoの柿澤仁氏(当時)

「ブロックチェーンが持つ権利証名の機能に対する評価が低いように感じる」ーーモデレーターを務めた柿澤さんが投げかけたこの観点と、上記で述べたブロックチェーンだからこそ可能な“管理”の概念は大きくつながる点があります。

まず、考えるべきなのは、そもそもブロックチェーン=何か?という問題です。この質問に対して皆さんは何と答えますか?

おそらくバズワード化しているスマートコントラクトや暗号通貨が単語として頭に浮かんだんじゃないでしょうか。もちろん、答えとして完全に間違いではありません。しかし、バズワード化しているこれらは、その使用用途に注目が集まっているだけであり、根本的なブロックチェーン=何か?を考えるならば、ブロックチェーンそのものの価値を考える必要があります。

ここでの重要なワードが「権利証明」です。

例えば、ブロックチェーンの初期ユースケースでもあるビットコインがあります。BTCを保有するウォレットに記載される数値は、その裏ではブロックチェーンによる分散管理が行われています。つまり、誰の力を借りずともビットコインを所有している権利を証明することが可能となっているのです。

福島さんは、これを「ブロックチェーンが達成した、物凄く大きい進歩」だとしています。また、スマートコントラクトをSmartなContract(契約)とそのままの意味合いでとらえるのは避けた方がよいとも話してました。

スマートコントラクトによって契約業務が無くなる、契約書の必要性が無くなるといった表現は間違っていて、正確には共有されているデータの台帳(ブロックチェーン)に基づいた権利や資産の移動を効率的に出来るようになる、これが正しい捉え方です(福島氏)。

ブロックチェーンによって権利証明を実施し、スマートコントラクトによって、権利の移転をプログラミティックに遂行することが可能となる。ブロックチェーン=何か?の問いを分解して考えることで、ブロックチェーンの本質的な価値を理解することが可能になります。

なぜ新興国はブロックチェーンに着目するのか

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写真左から:ブロックチェーンコミュニティーCryptoAge創業者の大日方祐介(Obi)氏、LayerX代表取締役社長の福島良典氏、HashHub共同創設者の平野淳也氏

少し視点を変えましょう。新興国におけるブロックチェーンの活用がここ最近注目されつつあります。彼らはどうしてこの技術に注目しているのでしょうか。

長年にわたり世界中を投資家の視点で飛び回り研究を重ねているObiさんがシンガポールにおけるBinanceを例にとり、これから先数年は新興国におけるブロックチェーンの発展に着目する価値があると予測しています。

業界内で著名なMakerDAOというステーブルコインのプロジェクトがあり、実際にユーザー数や取り扱う額などが巨大になりつつありますが、これでもクリプトを十分に理解しているユーザー層にしか浸透していません。直近1、2年におけるユースケースのマスアダプションを考えると、東南アジアなどの新興国がけん引役になっていたのではないでしょうか。そのキープレイヤーとして動いていたのが、暗号通貨取引所として著名なBinanceです(Obi氏)。

Binanceは取引所としての地位を確立後、Binance Labなどを通して企業投資や育成を始めるなど世界各地で活躍しています。また、Binanceはシンガポールにて法定通貨シンガポールドル(SGD)と結びついた取引所の運営を開始し、シンガポールを中心に東南アジアにおける経済圏確立を目指しています。

ここで興味深いのは、シンガポール政府ファンドであるTEMASEKの子会社Bartex VenturesからBinanceが出資を受けていることです。この点を踏まえ、Obiさんはこのように言及しています。

シンガポールは政府主体となって、本気でBinanceを通したクリプトベースの経済圏を作ろうとしている。これは、ものすごくインパクトがあること(Obi氏)。

彼が新興国におけるブロックチェーンの動きを追っているのは、新興国のスピード感と政府の主体的な積極性にあるという話でした。先進国に比べ既存の枠組みからサポートを受けるチャンスが多く、スピーディーなビジネス展開をできる利点がある、だからこそ逆説的にプロジェクトは発展していくであろうという考え方です。

ここ1、2年におけるマスユーザーに対するドラスティックなアダプションを考えるとき、確かにそのサポート環境が用意されている新興国には大きなアドバンテージがあるといえます。

MakerDAOのように長期的目線で見れば、マスなアダプションが狙えるプロジェクトも数多く存在していることも事実ですが、短期的視点で動向を追うときに新興国も一つのキープレイヤーとなるのは間違いなさそうです。

2019年のブロックチェーン: PoCの先にあるブロックチェーンの”ビジネス化”

最後の視点はビジネスです。

ブロックチェーンを取り巻くコンサルティング企業や、コードオーディット(Code Audit)、暗号通貨取引所あたりぐらいでしょうか。ブロックチェーン界隈でキャッシュフローを生み出せている企業といってもすぐ思いつく名前はそこまで多くありません。

福島さんは、今のブロックチェーンプロジェクトはPoC(Prrof of Concept)を飛び越えて、どのようにビジネス化していくのか、言い換えるとキャッシュフローを回すためにどのような戦略を立てるのかが求められていると話します。

もちろん、根本的な技術的問題を解決していかなけれなならないのは明らかですが、それと同時並行でどの様にキャッシュフローを成り立たせていくのか、まさに今日のテーマである『Beyond PoC』な考えが重要になっていきます。そのためには、多くの利害関係者を集めてまずはエコシステムを成り立たせる。だからこそ、プロジェクト側がユーザーを集める努力をしていかなければなりません。しかし、現状のプロジェクトは単純なUXなどがおろそかにされています(福島氏)。

福島さんはその様な状況を「今のブロックチェーンには必要最低限の優しさが足りない」と表現していました。ブロックチェーンのプロトコルレイヤーに着目した問題と、それを基にしたビジネス化の問題は別枠で考えるべきということです。

また、キャッシュフローを成り立たせるための新たなヒントの切り口として、HashHubの平野さんはOSS(オープンソースソフトウェア)のビジネスモデルをヒントにすべきと助言します。

Red Hutという企業はOSSで提供されているOS、Linuxを各企業ごとに適した形で販売しています。ブロックチェーンのプロジェクトも、その透明性の観点から基本OSSな状態にされていることが多いため、両社のビジネス構造のリンクするケースが非常に高いのではないでしょうか(平野氏)。

この例をブロックチェーン業界で始めているのがIBMです。彼らは、OSSであるブロックチェーンHyperledgerを企業に対して導入・開発するという形でビジネスモデルの構造を作り上げています。

ということでカンファレンスを通じて「次の」ブロックチェーンビジネスを占うキーワードを振り返ってみました。

未だブロックチェーンは黎明期であるといわれる中で、新しい情報が毎日飛び込んできます。必要な情報をきちんとアップデートし、今は不要と思われる情報にもアンテナを伸ばしておく。このフローを自分の中でルール作りしていくとブロックチェーンの向かう先が見えやすくなるのではないでしょうか。私自身も、2019年は上記の分野を中心にリサーチ・発信していきたいと思っています。(取材・執筆:増渕大志)

 

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