後払い市場から次世代クレジット企業は生まれる?ーー米国版「Travel Now」のUpliftが1.23億ドル調達

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Image Credit: Uplift

ピックアップ: Uplift Raises $123 Million to Broaden Its Travel Loan Services

ニュースサマリー:オンライン旅行代理店向けに月額分割払い決済システムを提供する「Uplift」は1月23日、1億2300万ドルを調達したと発表している。2014年にサンフランシスコで創業し、累計で2億2100万ドルを調達している。

利用企業はUpliftと提携することで顧客に分割支払いローンの決済オプションを提供できる。Uplift側は顧客の基本情報に基づいて即座にローン審査を実施し、月額支払い料を決定する。

顧客側の最大のメリットは即金で旅行代金の立て替えができずとも旅行ができる点にある。たとえば航空券価格が最安値になっている時点で、十分なお金がなくとも予約をして旅に出かけることができる。コンセプト及びブランドメッセージの点においては日本の後払い専用の旅行代理店アプリ「Travel Now」と類似している。

本資金調達リリースと同時に、「Spirit Airlines」や「Allegiant Air」の2航空会社がUpliftと提携したことを発表。加えて、大手航空券価格の比較サイト「Kayak」では、特定のパートナー企業を通じた決済オプションに同社の分割支払いローンが組み込まれていることを発表した。

話題のポイント:Upliftの最大のポイントは「仕組みを売っている」点にあります。同社が目指すのは旅行代理店に後払い決済システムを卸すことで膨大なネットワークを構築、多くの顧客の支払い能力データを集め各代理店や航空会社に活用してもらう仕組み作りです。

たとえば後払いの仕組みを通じて得られた顧客の属性データを参考に、訪問ユーザーの支払い能力を即座に算定。各顧客にパーソナライズ化した旅行パッケージや価格の提示をすることも考えられるでしょう。

加えて、高い支払い能力を持つ顧客に対しては各航空会社が発行するクレジットカードへの導入を促し、比較的高い価格帯の旅行パッケージを提供し続けることもできるはずです。「優良顧客」の囲い込みにも活用できるでしょうし、価格・在庫回転率の向上・優良顧客獲得・クレカ発行枚数の向上など、多くの用途が生まれます。

競合には同じく月額分割払いサービスを提供する「Affirm」が挙げられます。2012年にサンフランシスコで創業し、累計で7億2000万ドルもの額を調達しています。審査基準はUplift同様に基本情報を参考にして月額支払いローン金額を決定します。

違いの1つに「ターゲット顧客層」が挙げられます。Affirmがターゲットとするのはアパレル企業を利用する20代前後の顧客層で、旅行業界とは全く違う市場を狙っています。これはターゲットを若者にしているため、遠出旅行へ頻繁に出かけるようなペルソナ像を追いかけてはいないからかもしれません。

もう1つは、Affirmはクレジット履歴に影響しない点です。仮にデフォルト(貸し倒れ)を起こしたとしても全てのリスクはAffirmが追うため、顧客は手軽に高価な買い物をすることができます。一方、Upliftはデフォルトを起こしてしまった場合、利用者のクレジット履歴に記録されてしまうため顧客側もリスクを負うことになります(貸し倒れ損失分はUpliftが負担する)。

もしUpliftが日本にやってきたら

Image Credit: Bank

さて、Upliftが日本市場へ参入してきたと仮定してTravel Nowとの違い、そして比較から考えられる新たなビジネスモデルを考察してみたいと思います。

大きな違いは2つ挙げられます。

1つ目は収益モデルの違い。Upliftは月額ローン支払い手数料から収益化をしますが、Travel Nowは販売手数料から収益化。つまり商品が売れ、かつ後日の支払いが完了した時点で利益が確定します。

Upliftでは顧客の支払い能力予測に応じてローン額が上下するため、毎月の手数料で少しずつ販売額を回収できます。一方、Travel Nowは販売価格が固定されているため支払いが完了するまで利益を回収できないというリスクを負います。

2つ目は仕組みの違い。Upliftはあくまでも決済システム導入のみを狙っているため、提携企業の拡大に注力することが戦略上の最優先事項となります。しかしTravel Nowでは旅行商品在庫を仕入れて売る必要があるため、導入ではなく在庫を卸してくれる卸元企業を見つけることが重要となります。

他社システムへの導入なのか、自社アプリで商品を販売するのかの違いは大きいでしょう。特に顧客データの獲得の面においてはネットワーク性を持つUpliftにアドバンテージが生まれる可能性は大です。ネットワークビジネスに終始するUpliftはビックデータを集め、金融商品との連携に大きな期待が持てます。先述したようなクレジットカードの販促が好例でしょう。

このように考えると、Travel Nowは現在のモデルを他社へ外販する戦略へ打って出た方が圧倒的にスケールする可能性があるのではないでしょうか。在庫を抱えて販売する小売要素を捨て、フィンテック企業として生まれ変わる道筋も見えてきます。

例えばAffirmが審査基準にAIを活用しているように、Upliftも同様の技術を保有していることが伺えます。

もし、Travel Nowが「他社へ決済システムを卸すフィンテック企業」になった場合も同様に、AIを使って顧客データを獲得することになるでしょう。そうなればパーソナライズ化した商品提案が可能になる「次世代クレジット企業」へと進化できるかもしれません。

単に拡大戦略を変更するだけでも大きな商機が見えてきますが、Travel Nowの良さである電話番号だけで審査をする手軽さを活かすことでも新たなビジネスモデルが考えられます。

このUXを崩さずに次世代クレジット企業の戦略舵を切る指標として新興国をターゲットにしたAIフィンテック企業が登場してきています。

たとえばパキスタン発の「TEZ FINANCIAL SERVICES」や、アフリカ発の「Jumo」は利用客の電話番号を獲得したのち、通信キャリアのデータバンクへアクセス。過去のインターネット活動からデフォルトリスクを把握して与信を取るファイナンス事業を展開しています。

仮にTravel Nowが他社向けに決済の仕組みを売り、かつ電話番号だけで与信を取り後払いできるUXを提供する戦略へと転換したらどうでしょう?圧倒的な手軽さとUpliftの競合優勢性であるスケール性を持って日本市場のみならず欧米市場へも勝負を仕掛けられそうです。

また、東南アジアやアフリカ圏、米国の低所得者層をターゲットに、銀行口座を持たないがスマホだけは持っている人に対して様々な商品を後払い決済で提供出来るAIフィンテック企業になれるかもしれません。

事実、クレジットカード及び銀行口座を持たない米国の低所得者向けに家具・家電を長期分割払いで販売する「Rent a Center」は上場しています。小切手支払いで顧客から支払額を徴収するため、非常にマニュアルベースで動いている企業です。一切のテクノロジー要素を持ちませんが、上場している点から市場需要の大きさが図れますし、ディスラプト市場としては打って付けでしょう。

ここまでUpliftとTravel Nowの考察をしてみました。

ポイントはUpliftの持つ拡大戦略モデルとTravel Nowの持つUXを融合・昇華させることで、市場から高い期待を集めるAI + ビックデータをテーマに掲げたフィンテック事業が展開できそう、ということです。

日本市場は概ね高いクレジットスコアを持つ人しかいないため、海外向けのサービスになりそうですが、これから急成長を遂げる新興国や、潜在需要を秘めた低所得者層へのアプローチは新たな価値を生むはずです。

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