「長いタームシートに注意せよ」のワケーー500澤山氏に聞く「YC公開・標準的タームシート」から日本のスタートアップが学ぶべきポイント

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ピックアップA Standard and Clean Series A Term Sheet

コラムサマリー:Y Combinatorが1月28日の公式ブログで「A Standard and Clean Series A Term Sheet(シリーズAにおける標準的な投資条件の概要書・タームシートの見本)」を公表している。同社のJason Kwon氏、Aaron Harris氏によって手掛けられた。

彼らはタームシートの公開に至った経緯として、接してきた創業者に共通した課題を挙げている。それは「良いタームシートとは何かに関して無知である」という点である。

「人生で初めてタームシートを目にするのだから、無知であるのは当然。一方でVC側は毎日のように見ているわけで彼らとの間に知識レベルでの乖離が生まれ、結果として創業者はディスアドバンテージを背負ってまう」。

話題のポイント:種類株などの特殊なエクイティ・ファイナンスは国内でも一般的になりました。ここで避けて通れないのが投資内容の条項をまとめたタームシートや投資契約のチェックと締結になります。YCが公表したタームシートでは、特に創業者が注意すべきポイントを4つにまとめています。

  1. Board Control(取締役会のコントロール)
  2. Liquidation Preference(残余財産優先分配権)
  3. Cumlative Preference(累積配当権)
  4. Warrant Coverage(保障面での権利)

「Board Control」は取締役会の構成への気配りについて。創業した会社を乗っ取られることが起きてしまったら元も子もありません。「Liquidation Preference」は会社清算に関する取り決めです。優先株主となる出資者の株式持分を清算時にどう扱うかを規定するため、M&Aなどのみなし清算時も含まれます。

3つ目の「Cumlative Preference」は株式配当について。ここが累積なのか非累積なのかで、企業そのものが短期的に利益体質にならざるを得なくなるため、プロジェクト推進における株主の圧力を左右する箇所になる、と留意点が指摘されていました。

最後の「Warrant Coverage」は保障面です。特に弁護費用に関する取り決めは重要で、一般的に支払額の上限を3万ドルにすべきとしています。

ちなみに筆者的には3つめの配当に関するポイントは気になりました。例えばブロックチェーンのようなまだ市場ができていないテーマでは、すぐに利益を生み出せといわれても選択肢の幅が狭まります。条件次第では、数年先まで開発ロードマップを引くようなプロジェクトには向かない条項になる、というわけです。

日本のスタートアップがYCのタームシートから学べること

ところでこのタームシート、少しでもこの辺りの国内事情を知ってる方であれば日本とは違うと感じたかもしれません。当然ながらこれは米国における”スタンダード”としてまとめられています。日本で起業する場合は市場規模やEXITサイズも違いますし、またVC間の競争も異なりますからそのまま鵜呑みにする必要はありません。

では、日本の創業者は何を学べばいいでしょうか?

この疑問について、国内スタートアップ投資のエキスパートである500Startups Japan、マネージングパートナーの澤山陽平さんにお聞きしました。YCが基準としているからといって、すべてを日本の市場に転換できるかについては議論が必要とする一方、「タームシートのシンプル化」には同意されています。

「間違いなく日本でも共通なのは、タームはできるだけシンプルにまとめる、というところです。なぜタームが長くなるのか?の裏には、『契約書』に各VCのそれこそ今までの経験、主に苦い思い出が詰まっていることがあるからです。そういうことがあるたびに、それをカバーするための条項が増える。そうすると、どんどん複雑化するといったことになりがちなんです」(澤山氏)。

以下のTweetでも示されている通り、タームシートで細かく企業をバインドしすぎると柔軟性がなくなり、短期的な運営が楽になったとしても長期的な価値創出は難しくなるからだとしています。

ただ現在、日本のいわゆるタームシートと呼ばれるものはかなり複雑なものもあったりします。これに対し、澤山さんに以下のような見解を示してくれました。

「米国は株式会社の大原則である所有(株主)と経営の分離がしっかりしていて、取締役が株主の代行者として経営者を監督するというのが明確なんです。そういう背景があるからこそタームで細かく定めるのではなく、取締役会という存在が尊重されるという流れになる。一方、日本は所有と経営のあたりがまだ入り混じっていて、今すぐ取締役会で全て決める体制を整えよう、といってもすぐに行動に移すのは難しいでしょうね」(澤山氏)。

こういった現実があるとはいえ、今回YCが旗振り役としてシンプル化を提唱した、ということは大いに意義があると評価されていました。

あと最後に、ブログには「シリーズAのタームシートの重要性」について言及があったのでそちらもまとめておきます。

シリーズAは将来的な調達ラウンドを考えたうえでも、条件などの面で最も参考にされるシリーズになります。つまり、シリーズAのタームシートは長期的に企業運営を考えたときの基礎となるドキュメントになる可能性が高いのです。

最も大事なのはここで「完全」を求めすぎないこととアドバイスしています。たとえ通らなかった条件があったとしても、創業者である限りそれらを変更できる可能性は残ります。

そして精一杯の交渉をしつつも

“Closing Fast and Getting Back to Work”(とっとと終わらせて作業に戻ろうぜ)

することが最終的なゴール達成のためには大事なんだよ、と。

国によるルールの違いはありますが、双方通じてシンプルにする、という観点を忘れずに交渉することが重要な学びになりそうです。

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