神戸市、東京で「GovTechサミット」を開催——地域行政×スタートアップの成功・失敗事例を共有、全国への波及を目指す

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開会の挨拶をする、神戸市副市長の寺崎秀俊氏
Image credit: Masaru Ikeda

神戸市は10日、都内で初となる「GovTech サミット 2019」を開催した。GovTech サミットは2015年にスタートした、スタートアップと行政とのコラボレーションプロジェクト「Urban Innovation Kobe(UIK)」の発表の場を兼ねており、起業家に加え、中央や地方の行政関係者ら約300名が一堂に会した。

中央省庁、地域行政が見る GovTech のゆくえ

左から:IT 批評家の尾原和啓氏と神戸市 CIO の関治之氏
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イベントの冒頭、オープニングセッションに登壇した IT 批評家の尾原和啓氏と、神戸市 CIO で Code for Japan 代表理事を務める関治之氏は、共に GovTech に関わるようになった契機が、2011年の東日本大資産震災の経験だったことを紹介。尾原氏は当時グーグルでモバイルビジネス開発を統括していた立場から Google Crisis Response などを通じた被災者への情報支援に注力、また、関氏は情報ボランティア活動をきっかけに Code for Japan を設立した。

セッションでは、GovTech の導入が進んでいる国として、エストニアやシンガポールなどが紹介。昨年、閣議決定された「未来投資戦略2018」などを受けて、日本でも着実に GovTech の導入が進みつつあるものの、とかく行政側からの公助になりやすい GovTech を、民間企業や市民が参画することで互助や共助の形になることを期待したいとした。

左から:奥田浩美氏(モデレータ、ウィズグループ代表取締役)、平本健二氏(内閣官房政府 CIO 上席補佐官・経済産業省 CIO 補佐官)、酒井一樹氏(商務情報政策局総務課情報プロジェクト室デジタル化推進マネージャー)、吉田泰己氏(商務情報政策局総務課情報プロジェクト室室長補佐)
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経済産業省からは、DX オフィス(METI-DX)のメンバーでもある商務情報政策局総務課情報プロジェクト室室長補佐の吉田泰己氏が登壇。労働人口が減少していく中で、民間同様、行政としてもデザイン思考、アジャイル開発、データ分析などに基づいたサービスを提供できるよう、スタートアップの持つ技術を積極的に取り入れ、市民との協業を図っていきたいとした。

同じ DX オフィスのメンバーで、内閣官房政府 CIO 上席補佐官・経済産業省 CIO 補佐官の平本健二氏は、エストニアの X-Road のように情報基盤の整備に人々の関心が向く中、データの整備(法人登記簿、道路台帳に代表される台帳のデータをキレイにすること)の必要性を強調した。

Urban Innovation Kobe からは6チームが登壇

Urban Innovation Kobe について説明する、神戸市医療・新産業本部新産業創造担当課長の多名部重則氏
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神戸市とスタートアップがタグを組み、地域社会の課題解決に挑む UIK では昨年、6つのテーマが設定され、それぞれ1チーム計6チームが採択。昨年7月〜10月にかけて実施された直近バッチの成果が発表された。この取り組みの興味深いところは、よくあるアクセラレーションプログラムのデモデイなどと異なり、失敗を許容している点だ。神戸市としてもスタートアップに対する業務委託では無いことを自覚しており、最初から成功を求めていない。

かつてのバッチではコンサルティング会社を起用していたが、「〝先制攻撃〟のスタートアップと、〝専守防衛〟の行政の両方を取り持つ(神戸市医療・新産業本部 新産業創造担当課長 多名部重則氏)」役割の担い手として、今回から外部人材を起用し、専任のプロジェクトマネージャー(IT イノベーション専門官の中沢久氏)を配置することとなった。中沢氏の司会、モデレートにより6つのチームが紹介された。

左から:中沢久氏(モデレータ、神戸市 IT イノベーション専門官)、清水義弘氏(ためま代表取締役)、真柴由実氏(神戸市長田区係長)、太田恒平氏(トラフィックブレイン代表取締役社長)、三嶋潤平氏(神戸市役所 係長)
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  • ためまっぷ by ためま …… 街の掲示板のオンライン版。チラシなどをスマートフォンで撮影し、簡単に投稿できる。神戸市長田区で子育てサークルを活性化させたいという要望を実現。
  • ACALL FRONT by ACALL …… 場所にとらわれることなく、デジタル技術を使って働き方を変えられるソリューションを開発。窓口案内業務をデジタル化することで、どの職員が対応しても、市民の要件に合わせて適切な担当にスムーズに案内できるようにした。
  • 地域コミュニティ交通の予約システム by コガソフトウェア …… 神戸市北区淡河町ゾーンバスの定型電話業務の自動化。地域の足として高齢者からの要望に応じて配車されるバスサービスだが、ドライバが受電担当を兼ねていたため、不在時や運転時の受電ができなかった。ユーザが高齢者であるため IVR(Interactive Voice Response)を導入し、ドライバの負担を3割程度下げた。
  • Diground by ディグランド …… 神戸市内商業地区における消費者の回遊性向上を模索。モバイルアプリを使ってスタンプラリーを行い、ヴィッセル神戸の協力を得て、特定の地点に行ってアプリを立ち上げると、サッカー選手の動画メッセージが見られるような仕組みも提供した。今後、全国の自治体と同様の取り組みに臨みたいとしている。
  • バスロケ世直し隊 by Traffic Brain …… バスの位置情報を提供するアプリやサービスは、運行会社によってバラバラ。神戸市内を走るバスの複数会社のデータを GTFS-JP / GTFS RealtIme に標準化し、それをオープンデータ化するプロジェクトを運営した。ただし、神戸市交通局ではシステムが古かったことや、神戸市の公共交通課や交通政策課など複数の部署との調整を要したことから、まだ導入に至っていない。
  • Monstar Robo / RAX by モンスターラボ …… これまで、手作業で20万〜30万件/月の割合で発生していたレセプト(診療報酬明細書)の助成対象チェックを、業務フロー整理、自動化、RPA プログラムの作成で自動化。業務時間ベースで93%削減することに成功した。
  • FlyData …… モンスターラボと同様にレセプト(診療報酬明細書)に関するもので、検索・突合・修正処理を自動化する仕組みを開発した。個人情報を利用できないため、入力ミスの傾向や同一人物の受診パターンを AI が学習することで、4割程度の確率で問題のあるレセプトを抽出できる結果が得られたという。

スタートアップからみた行政に対する要望

左から:大津愛氏(Compass 代表取締役 CEO)、川原大樹氏(KURASERU CEO)、藤久保元希氏(DentaLight 代表取締役 CEO)、大津真人氏(Momo 代表取締役 CEO)
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地域に根ざした事業を営むスタートアップとして、主に転職支援サービス「CHOICE!」運営の大津愛氏、歯科医院向け CRM 等開発 DentaLight の藤久保元希氏(関連記事)、介護関係者向け SaaS「KURASERU」の川原大樹氏(関連記事)、「Palette IoT」を開発する Momo の大津真人氏の4名が登壇し、GovTech を推進する上での課題や神戸市をはじめとする行政への要望を自由闊達に議論した。

大津愛氏は、スタートアップと手を組んでくれた行政側が同じゴールを見られていないことが多いと指摘、また、行政組織の中でどのセクションと話をして良いかわからないため、案内してくれる「つなぐ課」の設置を求めたところ、神戸市副市長の寺崎秀俊氏は4月1日に当該組織が設置されると応じた(昨年、神戸市長の久元喜造氏が同課を設置する旨を明らかにしている)。藤久保氏は5年以内を目処に、神戸に歯科大学を開設したいとの夢を披露した。

川原氏は行政側のスピード感に課題があるとし、特にスタートアップの置かれている立場を理解してもらうために、行政組織の職員に副業を認めスタートアップでの就労体験を持ってもらうことが有用ではないかと語った。大津真人氏は、自社が自治組織と共同でプロジェクト運営している事例を引用し、市という行政単位にとどまらず、地域課題と民間組織のあらゆるソリューションとをマッチングするプラットフォームの必要性を訴えた。

公開セッション終了後に行われた、グループディスカッション「GovTech カフェ」
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