35億円調達のミラティブ、「和製サードプレイス」が現実世界と並び立つ日【赤川氏ロングインタビュー】

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写真中央:ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏と出資したVCたち(提供:ミラティブ)

ニュースサマリ:スマホゲームの実況アプリ「Mirrativ」を開発・運営するミラティブは2月13日、JAFCO、グローバル・ブレイン、YJキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRIを引受先とする第三者割当増資の実施を公表した。12日時点で調達を完了した資金は31億円。この投資ラウンドでの最終調達予定額は35億円を目指す。

また、同社はこれに合わせて、佐藤裕介氏・古川健介氏・中川綾太郎氏ら個人投資家から出資を受けたことも公表している。今回の投資ラウンドにおける各社の出資比率や払込日などの詳細は開示していない。なお、これまでの累計調達額は45億円を超える。

ミラティブでは調達した資金で、現在提供しているアバター機能「エモモ」の研究開発を進めるほか、マーケティング強化として2月15日からテレビCMの放映も予定している。

Mirrativのサービス開始は2015年8月。元々はディー・エヌ・エーのプロジェクトとして公開され、その後、2018年3月末に簡易吸収分割の方式で独立。グロービスキャピタルパートナーズなどから10億円を調達した。

同社の説明によると、現在の配信者数は100万人を突破しており、中でも昨年8月に公開したバーチャルアバター機能「エモモ」を使った配信者は数十万人に到達しているという。現在、同社に関わるメンバーはフルタイムで22名。副業はその倍近く在籍しているそうで、今年中にフルタイムだけでも100名規模に拡大させる計画。

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Mirrativの配信ユーザー推移

話題のポイント:期待値が高いことはこの投資家ラインナップを見れば一目瞭然、次期ユニコーン最右翼のミラティブがしっかりと結果を出してきました。

ポイントはやはりアバター「エモモ」の爆進です。具体的な数字はこれまで出てませんでしたが、今回、配信者数100万人突破とアバター配信数十万人というデータを公表しましたので、相当に手応えを感じているんじゃないでしょうか。

思えばソーシャルはTwitterの非対称フォロー(片方だけフォローする手法)やFacebookのメッセンジャー、Instagramによるビジュアルタイムラインに音楽性を追加したTikTokなど、これまでも多くの発明がネットワーク拡大を支えてきた歴史があります。

その意味でこのMirrativはゲーム実況というスタイルこそTwitchに先行を許していますが、スマホ文脈やアバターについては間違いなく独自の世界観を持っています。これまでになく「日本発・グローバル」のソーシャルメディアへの期待値が高まっているのです。

ということで、これからの拡大をミラティブがどう考えているのか、また、彼らの生み出そうとしている「サードプレイス」とはどういうものなのか、本誌では今回の大型調達に合わせ、同社代表取締役の赤川隼一氏にインタビューを実施してきました。(太字の質問は全て筆者、回答は赤川氏)

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インタビューに答える赤川氏(写真撮影:筆者)

2018年4月の10億円調達、スピンアウトから1年経たずで次の大型調達となった。どのような投資戦略を描く

赤川:調達資金の使途は、大前提として採用の徹底強化、TVCMを含むマーケティングの強化、アバター世界観の推進のための開発やR&D、グローバル展開の推進(韓国から)、新規事業の5つです。

TVCMなど、マーケティングにも大きく踏み込む判断をした

赤川:Mirrativはほとんどマーケティングコストをかけず、バイラルとゲームとの連携で成長してきたのがひとつの強みでしたが、昨年8月頃からデジタル広告中心にマーケティングを強化しはじめたことで成長が加速しました。ユーザー数の増加ペースが増しながらもまだ20%超の配信者率を保てている点が「だれでも配信できる」世界観を維持しながら拡大ができている証左かなと思います。

まだまだゲーム配信は一部ユーザーのもの、特にエモモのようにアバターを着用して配信するようなスタイルには「オタク的」視点を向ける層もいる。この「谷」を超える手応えは

赤川:バーチャルYouTuber(VTuber)の文化は確かに熱量の高いオタク層から始まりましたが、Mirrativは現状でも特にオタク層だけが楽しんでいるサービスとは考えていません。ゲーム実況はYouTubeの総再生数の中でも15%前後を占めていると見られ、もはや「マスコンテンツ」です。

個人的にもゲームはやる時間がなくなってしまったが、著名タイトルのクリア動画は観てしまう。そもそものゲーム・ストーリーが映画のような質を保つようになった

赤川:見ていたら自分でもやってみたくなる、はTikTokでも起こったように人間の基礎心理。Mirrativの「配信者」の数が100万人を越えているのも、かつてのTwitterにガチャ結果のスクリーンショットをアップするくらいの気楽さで「ゲームを生配信する」という文化がどんどん根付いてきているからでしょうね。ディズニーランドに行ったらインスタにアップするのは当たり前、くらいのテンションで、「ゲームのイベントやガチャは当然配信するもの」に徐々になってきています。

アバター文化は、iPhone Xから導入された「アニモジ」で一時話題になったが、一気にマス層を席巻する、とまではいっていない印象がある

赤川:「アバターで配信できるアプリ」だけの価値だと、Mirrativのあとにも複数出てきましたが正直まだマスまでは届いていないですね。ただ、Mirrativでは「ゲーム実況」というコンテンツのネタがあることで自然に需要されて、既に数十万人がアバターを着て配信をしたという事態になっています。VTuberの数がいま7,000人なので、この初動には手ごたえもありますね。

アバター文化そのものは、ハンゲームやモバゲータウンの時代から紆余曲折を経て、既にゲームでは当たり前のように受容されています。「荒野行動」「Fortnite」といった最近のメガヒットゲームでは、ゲームのパラメーターに全く影響がないにも関わらず皆当たり前のようにアバターを購入しています。

確かにFortniteは2018年に24億ドルを売上げたという話題があった。ゲームで「強くならないのに」アイテムを買うという行動には潮目の変化を感じる

赤川:ゲームの外でも、直近は韓国発の「ZEPETO」がヒットするなど、Instagram文化やTikTok文化との融合もはじまっています。ZEPETOのヒットは、アバターが「SNOWの次の”盛り”」の流れとして受け入れられている象徴かなと思います。その流れを踏まえて、マスマーケティングについても可能性があると考えて、ファーストペンギンとしてチャレンジをするのが今回のテレビCMです。

 

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写真左:筆者のエモモ。実況中の配信コンテンツがタイムラインに並ぶ

サードプレイスをもう少し深掘りしたい。仮想化の世界には「バ美肉」のような一種独特の精神文化も生まれている。ゲーム実況やアニメをきっかけにこの世界に飛び込んだ人も多いと思うが、それ以外の多数がここをシームレスに行き交うようになるにはどのようなハードルが待ってると考えるか

赤川:実はそれほどハードルがあるとは思っていないんです…。実際に「エモモ」リリース後に、もともとMirrativには「顔出し」文化がなかったこともありますが驚くほど自然に受容されていきました。「アバター機能やめろ」みたいなネガティブ反応はほぼなかったんですよね。

それはMirrativという世界観の住人だからでは

赤川:Twitterでも「複アカ文化」は既に浸透しており、あるいは2ちゃんねるから続くコミュニティの流れで、複数人格を使い分ける文化的な土壌は既に日本のネット文化にはあるという見方をしています。余談ですが、昔は日本だけだった複アカ文化ですが、海外のTwitterでもどんどん進んでいるそうです。

なるほど、複数アカウントで人格を使い分けるという文化は確かに広い

赤川:また、化粧やSNOWのような「盛る」文化で、自分の性格と見た目が分離して管理される様子も既に一般的です。なので、どちらかというと、社会受容されるかの問題よりも、使われつづけるサービスになっているか、コミュニティ設計がきちんとなされているか、といったサービス側の問題の方が大きいと思っています。

アバターでアニメキャラを被るという印象ばかり目立ってしまうが、そもそも人には自由に外観や人格を使い分けようとする土壌がある、と

赤川:実際にバ美肉化して人とコミュニケーションしてみると、普段の自分がいかに自分の身体や社会的立場といった「アバター」に可能性を制御されているかに気づかされます。人の才能と「容姿や歴史」を分離して、人の表現そのものに価値を集約させられるという観点で、アバターは人の可能性・魂を解放させていると実感します。

周囲がその人をどう見ているかによって人は規定される、という話を聞いたことがある。同時に生まれ持った容姿や、育った環境は容易に変えがたい。このスイッチは考えることもなかったが大きな課題と言えば課題だ

赤川:大きなテーマは「心理的安全性」なのだと思います。「こういうことを言ってもいいんだ」「こういうキャラでいてもいいんだ」と思える場所かどうか。不登校の青年が、Mirrativ上では荒野行動がうまいという理由でスターになっている、というのは日常的に見かける光景です。

以前の取材でもスマブラの話題が挙がっていた。現実と仮想みたいな分け方というよりは、人にはもうひとつ別の世界(サードプレイス)がそもそも必要なのだ、ということに気づかされる

赤川:新しい挑戦、過去の自分の歴史と地続きでない行動を起こす時の不安感を、アバターの持つカジュアルさや親しみやすさは軽減してくれます。発散の場や、自分を受け入れられてくれるという「居場所」があるという心理的安心感が、向き合わなくてはいけない厳しい現実にもポジティブな作用を及ぼすというのが、目指している世界観です。

話題を変える。4日にはCFOとして元Gunosy取締役の伊藤光茂氏が就任した。今後どのような戦略で体制を強化する

赤川:全体的に、すべてのキーになってくるのは人材の質を保った状態での採用のスケールだと思っています。ヒト・モノ・カネのうち、モノ・カネが活用できる状態を整備して、最高の仲間を迎え入れる準備をしたという感じです。

CFO伊藤さんのような経験豊富なシニアには今後も続々と加入してもらいつつ、周囲のスーパーな「インプット」を受けながら真綿のように吸収していく若手、その両方を組み合わせて、エネルギーレベルの高い状態で組織としてスケールさせていきます。

新規事業にも取り組む。具体的なイメージはあるのか

赤川:5Gの世の中がやってくると「常時接続化」が進みます。社会インフラの変動と、個人の価値観の変化で、まだまだ新しい事業モデルが出てくるはずです。テレビ→YouTube→3分のYouTuber→TikTokと進んできた「短尺化」の流れに対して、常時接続状態を前提にした「垂れ流し」が流行してくる兆しは既にZenlyやMirrativで出てきています。

ARもMagic Leapのような未来的グラスタイプがやってくると話題になったが、実際はスマートフォンとポケモンGOが世界を席巻することになった。インフラは当然ながら広く行き渡っているものが早い

赤川:この大きな波を受けて、0->1が好きな会社として「まだこのアプローチがあったか」と思ってもらえるような新規事業・新展開をやっていきます。新規事業に関しては、調達資金で大味にやるよりも、ミッション共感があるリーダーが狂ったように立ち上げてナンボだと思っているので、人に紐づけてリーンに検証をしながら展開していきます。

世界戦で具体的な数値のイメージはあるのか

赤川:グローバル展開で「ゲーム実況」に関してはTwitch(2014年にAmazonが約1,000億円で買収)、Huya(2018年上場・一時1兆円の時価総額にリーチ)がマーケットポテンシャルを証明している中、スマートフォンxゲーム実況の領域はまだ奇跡的に空いている状況です。

ゲームやアニメ、バーチャルYouTuberの文脈は日本発・グローバルでの勝ち筋と見る向きも多い

赤川:ここにバーチャルアバター・VTuberという日本発の文化的独自性を背景にして登っていくことになります。人の変身願望自体は「セカンドライフ」から映画「レディ・プレイヤー1」まで、グローバルでも既にニーズが表出していて、大きなチャンスを感じています。リリース時に「世界で大きく勝てるサービス」から逆算して構想した事業でもあるので、何とか間に合ったという感覚です。

長時間ありがとうございました。

ーーMirrativをゲーム実況と見るか、新たなソーシャルと捉えるかで考え方は随分変わってきます。現在のソーシャルネットワークと異なるのは、あくまで新しい人格としてこの世界に参加できる、という点です。匿名とも似てますが、やはりもうひとつの世界というのがイメージに近いです。

実際、Mirrativに入ってみると、ゲーム以外のたわいのない会話をだらだらと楽しんでいる部屋も結構あるんですね。私はパンダの着ぐるみを被って、この世界の住人の会話に耳を傾けたりしてます。

それとスマホのカメラに自分の動きを重ねるとアバターが動くのですが、これもまた不思議な感覚にさせてくれます。性別も年齢も経歴も関係ない、リセットされた世界っていうのでしょうか。積極的に自分の分身を動かしたい気持ちにさせてくれるんですね。

Facebookも最初は学生のネットワークから始まって、今は何でもアリの巨大ソーシャルネットワークに進化しました。海外向けのエモモも公開されれば、この場所でゲームを通じたグローバルなコミュニケーションが楽しめるようになるのも、そう遠くない気がします。

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