中国のスタートアップSeengene(悉見科技)、将来の命運は複合現実(MR)にあり

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北京のオフィスで、MR プラットフォームをテストする Seengene(悉見科技)の皆さん
Image credit: Eduardo Baptista

北京の Jingxi Cultutal and Creative Park(京玺文化創意創新園)に控えめな2階建ての建物を有する中国の複合現実(MR)スタートアップ Seengene(悉見科技)は、近隣の中関村科技園区に所在するマイクロソフトやソニーなどの国際コングロマリットに追いつこうと励んでいる。

このスタートアップのオフィスを最近訪問した。CEO の Liu Yang(劉洋)氏と1人の同僚が、ハンドルを握るように iPad を振り回している。彼らは通常、飛行機操縦ゲームを使って MR 技術のテストを行っている。2人ともスクリーンを見つめながらオフィス空間をゆっくりと歩き回る。同僚たちは、2人の iPad がたとえ自分たちの顔や机に向けられていても気にも留めない様子だ。

拡張現実(AR)を超えて、こうしたゲームは現実の物理的世界に投影されるだけでなく、現実世界と交流するものだ。例えば Liu 氏がバーチャルフィギュアに机の上の物体を横切って歩かせようとしても、つっかえてしまう。単に、静止したバーチャル情報を現実世界にかぶせるというのではなく、MR は、バーチャル技術をユーザがコントロールすること、またユーザが現実世界内の変化に適応することを可能とする。

一見して、こうした子ども用ゲームの飛行操縦バージョンがどのように産業界の実際の役に立つのか理解しがたいが、こうしたゲームは多くの業界に変化をもたらすと考えられている。MR のインタラクティブな可能性は、適切に応用されれば、幅広い産業界に生産性の増大をもたらすことができるだろう。

Liu 氏は TechNode(動点科技)に、次のように語った。

私たちのクライアントは、ヘッドセットのユーザエクスペリエンスの向上を目指していたり、生産性の向上を目指していたりします。

中国は遅れているか?

2月25日、Microsoftは今年バルセロナで行われた Mobile World Congress で、HoloLens 2 という、ユーザの現実体験を幾多ものやり方で向上させる3,500米ドルのヘッドセットを公表して注目を集めた。キャッチコピーは何か? それは「ビジネスに使えるMR」だった。

中国発の XR 広告会社 CrowsNest CEO の Eloi Gerard 氏は次のように語っている。XR 技術とは、AR、VR、MR 技術3つの総称だ。

中国はXR市場全体でアメリカに遅れをとっています。

中国が遅れをとっている主な理由は、政府基金が資質のないスタートアップに資金をばらまかれ、市場の混乱と非現実的な期待を生み出しているからです。

仮想現実と現実世界をスムーズにリアルタイムで交流させる複雑な技術の向上に資力を集中的に投入し、また、無理な実験をするよりも市場重視の技術応用に重点を置くことによって、Seengene は、北京拠点の VC 企業 Legend Star(連想之星)がリードした2018年8月のシリーズ A ラウンドで1,800万米ドルの資金を得た。

Seengene の仮想環境は物理的環境と完全に交流することができるが、これは、強力な 3D ポジショニングソフトウェアに基づくものだ。これこそ、中国国内の警備会社、100以上の観光地、Huawei(華為)や Xiaomi(小米)などのテクノロジーコングロマリットと同社が交わす数百万元規模の契約の技術的な要だ。

Seengene の MR グラスは XMAN と呼ばれ、Google Glass に似ているが、Seengene は、MR 技術に依拠した 3D 視覚化機能とナビゲーション機能を取り入れることによって、顔認証装置に全く新たな側面を加えた。

Seengene(悉見科技)の X1 と XMANは、Google Glass の中国 MR 版とも言える。
Image credit: Eduardo Baptista

幅広い応用

仮想現実と現実世界のシームレスな統合には洗練された技術が必要かもしれないが、Seengene ユーザとしてますます大きな割合を占めるようになってきているのは、手作業労働に従事する労働者たちで、特に欧米の自動車コングロマリットと自動車工場においてはそうだ。

Liu 氏は、ユーザである労働者がどの企業の労働者なのか明らかにはしなかったが、同氏の説明によれば、こうした場面における XMAN の役割は、エンジンの組み立てなど失敗率の高い複雑な作業を行う労働者をガイドすることだ。これは Forbes によれば、工場で HoloLens を使用するルノーなどのヨーロッパの自動車大手メーカーに倣うものだという。

ヨーロッパと中国という2地域では、重要な差がある。それは市場の規模だ。Seengene は、世界最大の人口を有し、テクノロジー分野での世界のリーダーになろうと意気込む政府を有する中国という国で操業しており、同社の技術の採用が速度を増しているという事実は、同社に十分な可能性を与えるものだ。

2019年は、自社製品の大量生産と大量販売により多くの時間を割く、私たちにとって重要な1年になります。

Seengene の成長可能性を最も明らかに示しているのは、XMAN の MR ヘッドセットが中国の e コマース市場に出たことだ。中国の e コマース市場は、コンサルティングファーム Forrester の報告書によれば、2022年には1兆8,000億米ドル規模に達すると見込まれており、これはアメリカの e コマース市場の予想額の2倍以上だ。

配達業を例に取ってみよう。配達業では、毎日大量の荷物を扱うために大勢の労働者が必要となる。Seengene が望むのは、労働者が XMAN を使うことにより、世界中の大半の倉庫で習慣的に行われているように何千ページもの長大な Excel ファイルを常に更新しなくても、大量の荷物を簡単に追跡できるようにすることだ。

Alibaba Group(阿里巴巴集団)のような中国のテクノロジー大手は、1日に10億の荷物を扱える輸送ネットワークを開発するという将来の計画を宣言したが、そのような野心的な目標が達成されるには、MR を用いて、きめ細かな詳細に合わせて作業を合理化することが必要となるかもしれない。

昨年、33歳の Liu 氏は、個々のロケーションに特化した MR アプリ制作のため、雲南省南西部の楚雄市と数百万元規模の契約にサインした。このアプリを使うと、ユーザは、普段なら(地元のイ族文化にちなんだとされる)法外な値段の商品を売るためだけに作られたような、トークン化した街の周辺環境と交流することができる。

多くの観光客はこうした地に来て、有意義な思い出も作らずに去っていきます。

私たちの MR アプリを使うと、観光客は部屋に歩いて入り、スクリーンに現れる宝物箱に触れることができ、突然スニ(イ族の叙任された魔法使い)が現れ、杖を持って呪文を唱え始めたりするのです。

このコンセプトは、AR にスポットライトを当てた2016年のポケモン GO の流行に似たものだ。しかし Seengene は、ユーザがスニの魔法の杖などバーチャルな物に触ったり、隣のお土産ショップで実際の杖を買ったりできるようにすることで、インタラクティブ性を向上させている。

そうした心に残るバーチャル体験を行うことで、観光客はバーチャルキャラクターへの愛着感を育むでしょう。

こうしてお土産をはるかに買ってもらいやすくするのです。

北京のテックハブの一つ、Jingxi Cultutal and Creative Park(京玺文化創意創新園)
Image credit: Eduardo Baptista

政府のビジョン

XMAN の顔認証機能は、広東省、四川省、河南省、吉林省などの省の警察の関心を集めている。これら4省はいずれも MR セットを購入した。治安と監視は Seengene の「4大事業」の1つであり、また、中国は2023年までに、世界の顔認証業界の予想額7億米ドルのうち45%を占めるだろうとされていることを考えれば、XMAN の注文リストは月ごとに長くなっていくものと想定して差し支えない。

Liu 氏は具体的な事柄に踏み込むのを避けたが、警備における MR 使用については説明した。

仮にあなたが空港の警官だったとして、グラスが犯罪容疑者の顔を検知してくれるとしましょう。

XMAN によって、空港内全ての階の警官の居場所を視覚化することができ、警官たちを容疑者の方に誘導して、容疑者逃走の可能性を減らすことができるのです。

また、Liu 氏によると、中国のAR・MRブームの理由として、テクノロジースタートアップに対する中央政府と地方政府の好意的な政策があるという。

アメリカ人プロデューサーにして、在北京のアニメーション・VR 分野の教授、Kevin Geiger 氏は次のようにコメントした。

杭州、寧波、成都のような都市では、地方政府はスタートアップの登録をしやすくし、人材採用、減税、さらには資金調達に関してまで助力を与えてくれるでしょう。

中国の中央政府は、VR、AR、AI を最新のテーマとする中国の技術イニシアチブの第一の原動力です。

これは一方では、物事を非常に素早く起こすことができるということですが、他方では、一党が全てに関して絶対的な決定権をもつこの国では、イノベーションが制限されるということにもなります。

しかし、Seengene は異議を唱える。同社のクライアントの多くは政府省庁であり、Liu 氏は、北京の地方政府が資金提供してくれたことを認めた。

政府の介入が有益なのかどうかに関わらず、中国の MR 市場はアメリカのコングロマリットを、その敵たる中国企業の巣に引き寄せ始めている。2018年10月には、マイクロソフトが MR インキュベータを江西省の省都、南昌市に開く計画を正式に決めた。同省はこれまでに150の企業と提携して、VR や関連業界に630億元を投資してきた。

同じ月に Seengene は、北京大学の情報・科学技術学院など中国の複数の研究所と提携を結び、これによって国内のライバル企業よりも先に、画像認識技術研究の最新を自社製品で試すことが可能となった。

設立3年目の Seengene は、現時点では競合について心配をしていない。国内市場における競合企業について懸念を抱いているかと尋ねられると、まばらなひげを生やした Liu 氏はただ微笑み、次のように答えた。

現時点では「競争」について語るのは難しいですね。中国の MR 市場は大きなケーキのようなもので、私たちはそのケーキから小さな一切れを切っただけなんですから。

【via Technode】 @technodechina

【原文】